全国で3,000以上もの温泉地がある温泉王国、日本。
その中から、クルマでなければ行きづらい名湯・秘湯をご紹介します。

2016年5月記
クルマで行く名湯・秘湯【第4回】 岐阜県奥飛騨温泉郷

雄大な北アルプスと露天風呂の楽園

文・山崎まゆみ(温泉エッセイスト)

どの部分をカメラにおさめても絵になる古き良き町並み。言わずと知れた町歩きの名所・飛騨高山には、優しい肌触りの温泉もあります。そして、そんな高山温泉からさらに足を延ばすと、奥飛騨温泉郷があります。

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どの部分をカメラにおさめても絵になる古き良き町並み。言わずと知れた町歩きの名所・飛騨高山には、優しい肌触りの温泉もあります。そして、そんな高山温泉からさらに足を伸ばすと、奥飛騨温泉郷があります。

奥飛騨温泉郷とは、岐阜県と長野県をまたぐ北アルプスに抱かれた平湯温泉、福地温泉、新平湯温泉、栃尾温泉、新穂高温泉の5つの温泉地を総称した呼び名です。ここは露天風呂の数が日本一と称される魅惑の露天風呂ワールド。もっとも有名な露天風呂は、新穂高の湯ですが、今回は、私が厳選した知られざるふたつの温泉宿へご案内します。

秘湯の一軒宿 新穂高温泉「槍見舘」

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新潟の古民家を改築した建物で、ロビーの太い梁や柱は、雪を耐え忍んできたのであろう豪雪地帯の生活を彷彿とさせます。玄関に足を踏み入れると、囲炉裏の炭の匂いが迎えてくれます。奥から飛騨牛が焼ける香ばしい匂いも混じって、人の営みの風景も見えてきます。これこそが古民家の魅力。民芸調の客室はどの時代にタイムスリップしたのかしらと思わせる懐かしさを感じさせる造りになっています。

混浴露天風呂「槍見の湯」からは槍ヶ岳を一望することができます。山の頂には白い雪が残り、その上に広がるのは紺碧の空。そのコントラストが心に染み入る、これぞ絶景という眺め。のんびりと景色を愉しんでいると、爽やかな風が届きます。山からおりてくる新鮮で清々しい風です。麗しい風景を眺めることも露天の魅力ですが、風を全身に受けることも露天風呂の醍醐味なのです。

槍見舘

ひっそりとたたずむ森の宿「野の花山荘」

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一方、野の花山荘はヨーロッパの山岳リゾート風。吹き抜けになっているロビーには暖炉があり、大きな窓からは山や森の緑が迫ってくるようです。オープンキッチンでは、ジャズが流れ、カウンター越しに料理が出来上がっていく様子をお腹を減らしながら眺めます。おばんざい風にした大皿料理は自分で量を調整できるので助かります。ひとりの量が決まっていて、時には冷めて不味くなってしまうこともある従来の旅館料理とは全く違います。どこを見ても洒落ている温泉宿です。

奥飛騨温泉郷の中で、野の花山荘の貸切風呂が私は一番好きです。宿の建物から森の中に入っていくと忽然と現れます。一度に7〜8人は入れるでしょうか、広めの湯船です。森の真ん中で裸になるわけですから、はじめはちょっと恥ずかしいような気もします。ただ、木々を揺らす風の音や鼻をくすぐるような緑の匂いで、すぐに森に、緑に溶け込み、この野天風呂ならではの安らぎを得られます。

槍見舘の「槍見の湯」が空と山を眺める露天風呂ならば、野の花山荘の貸切風呂は森に包まれる野天風呂。風も香りも異なります。是非、このふたつを外さずに奥飛騨の露天風呂巡りを愉しんでください。

公共交通機関を利用すると高山からバスを乗り継がねばなりませんが、ドライブなら高山温泉に立ち寄り湯をしてから奥飛騨へと向かえます。さらにこのエリアは外国人観光客に人気高騰中です。私たち日本人ももう一度、魅力や価値を見出してほしい地域です。

野の花山荘

コラム原稿は2016年5月現在の情報を元に執筆しています。

やまざき まゆみ◎1970年新潟県生まれ。駒澤大学文学部卒業。世界31カ国1,000カ所以上の温泉を訪ねる一方、日本の温泉の魅力を世界に発信している。近著に『バリアフリー温泉で家族旅行』がある。