たかが酒、されど酒。その一献にまつわる蘊蓄と、
美酒をさらに美味しく楽しむコツとレシピを利き酒師が紹介します。

2016年3月記
至福の一杯【第1回】 燗酒を極める

美味しい燗酒の勧め

文/写真・塩澤雄二

昨今の清酒人気の中で再評価されているのが「燗酒」。清酒を温めることは食材を調理するのと同じで、いい魚は刺身も美味ければ、煮ても美味い。いい酒の燗酒も美味いのだ。

いい魚は煮ても美味い。いい酒の燗酒も美味いのだ

本文を読む

昨今の清酒人気の中で再評価されているのが「燗酒」だ。少し前まで「燗酒」と言うと「熱燗」を連想し、“安酒の飲み方”というイメージが強かった。実際、醸造アルコールを多く含む酒では、熱することで飲み口が丸くなる効果がある。転じて“いい酒に燗をつけるのはもってのほか”という法度が長らく清酒ファンを縛ってきた。しかし、清酒の風味は「淡麗辛口」「芳醇旨口」など一言で表現できる単調なものではなく、味噌や豆腐と同様に温度や食し方で味わいが変化する、発酵食品ならではの奥深さをもつ。清酒を温めることは食材を調理するのと同じ。いい魚は、刺身も美味ければ、煮ても美味い。いい酒の燗酒も美味いのだ。

本文を読む

では、燗酒に向く酒とはどんなものか。燗酒ブームの中、「燗上がりする酒」という言葉も広まっている。温めることで風味が増す酒を指す。清酒は「銘柄買い」される傾向にあるが、「燗上がりする」酒の傾向を知り、手に入りやすい清酒で試してみるのもいいだろう。

純米酒

原料に米と麹と水だけを用いた清酒。米の発酵によって生まれた清酒本来のうまみが特徴。製品すべてを「純米」で造る「全量純米の蔵」も増えている。

生酛(きもと)造り

発酵時、良質な酵母の働きを助ける乳酸菌を人工的に添加せず自然界の乳酸菌が活動しやすいようにした酒造り。蔵毎の個性をもった風味が生まれる。

山廃(やまはい)造り

生酛造りで行う米を櫂ですりつぶす「山おろし」を廃し、じっくり時間をかけた発酵を行う造り。風味に厚みが増す。

いずれも清酒の伝統的な酒造りで、米のうまみや風味、発酵による複雑かつ蔵独自の個性が追求された仕上がりが期待できる。故に「冷や」での美味さだけでなく「燗上がり」も期待できるのだ。

味見しながらていねいに湯煎して、自分の“適温”を知る

本文を読む

家飲みの燗酒は、気負わず、手軽に、が基本。清酒を徳利に移し、それを湯煎する。これだけでいい。宴席や来客のためではないので、火元で番をせずとも、ポットの湯があれば充分。徳利は1合の小ぶりなもの。それを湯に浸け、時たま肩のあたりを触って具合を確かめる。ちょっと熱くなったら盃に注いで確かめる。ぬるければまた浸ける。熱ければ湯から出す。冷めたらまた戻す。それをくり返す内に、その酒に合った温度、自分の好みの温度、それに達する時間配分が徐々に分かってくる。また肴に合わせた温度、飲み続けていく上での適温も自在に調節できる。湯がぬるくなったら取りかえるか再加熱。やるべきことはいろいろあるが、すべて自分のために自分でやることなので充実感もある。鮨職人が、握るそばから口に入れているようなものだ。こんな楽しい修業はない。

1本の清酒のさまざまな表情を自ら演出し、自分好みに演じさせることもできる。家飲みだからこそできる、最高のワガママだ。

失敗しないお燗テクニック

酒器を選んでさらに美味なる燗上がり

しおざわ ゆうじ◎1966年、神奈川県生まれ。SSI認定の利き酒師・焼酎利き酒師。酒を地域文化・食文化の側面から着目し、その中に伝統の継承と革新の可能性を探求中。