Harmony 2016年3/4月号
日本ドライブ紀行 金沢〜山代温泉

百万石文化と美食の加賀周遊

文・和田達彦 写真・蛭子 真

江戸時代、大名屈指の石高を誇った前田家藩主は、文化、芸術を奨励し「百万石文化」を築いた。金沢をスタートし “天然のいけす” 富山湾の恵みを味わい山代の地で九谷焼を愛で、古湯に寛ぐ——。豊かな文化と食に出合う加賀の地を巡った。

金沢

アクセス
金沢城公園へは、北陸自動車道・金沢西I.C.または金沢東I.C.から約6km/約15分。金沢市街から富山県射水市へは約59.5km/約60分。射水市から氷見市へは約19km/約30分。氷見市から千里浜までは約24.5km/約35分。千里浜から大野町までは約37km/約35分。途中の約8kmは千里浜なぎさドライブウェイで。大野町からゴールの山代温泉までは約66km/約105分。
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江戸時代、大名屈指の石高を誇った前田家藩主は、文化、芸術の育成を奨励し「百万石文化」を築いた。絢爛たる文化が息づく城下町・金沢をスタートし “天然のいけす” 富山湾の恵みを味わい山代の地で九谷焼を愛で、古湯に寛ぐ——。豊かな文化と食に出合う加賀の地を巡った。

Harmony 2016年3/4月号より

  • 加賀藩前田家14代の居城・金沢城。復元された菱櫓などから往時の威容が偲ばれる。

  • 県内の伝統工芸を紹介する「金澤東山 しつらえ」の「金箔工芸 伝統工芸の間」。

  • 「東山ロベールデュマ」のコース一例(左)と、名店「千取(せんとり)寿し」の「百万石の鮨」(右)。

金沢

金沢の美意識に触れる城下町へ

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金沢は、前田利家を藩祖とする加賀藩前田家の居城、金沢城を中心に発展した城下町。現在の金沢城には加賀百万石の象徴としてそびえていた本丸の天守は残っていないが、広大な敷地内を散策すると、十分に往時の威容が偲ばれる。その際には、石垣に注目してみよう。金沢城は「石垣の博物館」と呼ばれ、自然石を積み上げた古い時代の素朴なものから、切石加工した石を精密に隙間なく積んだものまで、多彩な石垣を見ることができる。石垣によっては異なる積み方が同時に見られる場所もあって面白い。

この金沢城公園や隣接する兼六園は、春になると満開の桜に包まれる。この桜を見て、金沢の人びとは春が来たことを実感するのだ。

また金沢随一の繁華街、香林坊を挟んで金沢城の反対側にある長町界隈には、加賀藩士の武家屋敷が数多く残されている。北陸地方特有の黒瓦と土塀が続く石畳の小径を歩くと、江戸時代に迷い込んだような気分になれる。

江戸や明治時代からの町並みが多い古都というイメージが強い金沢だが、街でクルマを走らせていると、北陸を代表する都市ということを感じさせる、先進的な姿も見ることができる。その代表が、昨年の北陸新幹線開業に合わせてリニューアルされたJR金沢駅、そして2004年に開館した「金沢21世紀美術館」だろう。主に1980年代以降の現代美術作品を収集しているこの美術館では、開館10周年を機に3カ年かけて大規模な展覧会を行っている。一昨年、昨年のテーマはそれぞれ建築、現代美術で、今年のテーマは工芸。伝統工芸が盛んな金沢の地で、どんな作品が見られるか楽しみだ。

洒脱な茶屋街での “口福”

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金沢には、古い町並みを活かしつつ、新たな魅力を生み出している場所もある。3カ所残っている茶屋街の中で最も規模が大きい「ひがし茶屋街」には、細い石畳の道の両側に、紅殻格子の町屋造りの家が建ち並ぶ。かつてはそのほとんどが芸妓を呼んで飲食を楽しむためのお茶屋だったが、近年ここに新しい店が増えている。重要伝統的建造物群保存地区に指定されているとあって、外観はみな昔ながらのお茶屋だが、内部は特徴を残しつつもリノベーションが施され、それぞれ工芸品店や菓子店、カフェやレストランとして活用されているのだ。

「金澤東山 しつらえ」もそんな店のひとつ。店内は6つの部屋で構成されていて、九谷焼や輪島塗、金沢箔といった、石川県を代表する伝統工芸の逸品を見ることができる。九谷焼は約30人の作家の作品を扱っているが、すべて伝統工芸士の有資格者ばかり。これらを一度に見られる場はあまりない。展示されているのはもちろん商品なのだが、「ガラスケースに入れない美術館」をテーマにしているのもうなずける。2階にはカフェスペースがあり、上生菓子とともに特注の大樋焼で抹茶をいただくことができる。

一方、しっかり食事をしたいならフレンチレストランの「東山ロベールデュマ」がおすすめだ。シェフの岩城秀史さんは、フランスで修業した後、故郷の金沢に戻って1996年に独立してこの店を始めた。

「フランスから帰国してからしばらくは王道のフレンチを作っていましたが、加賀野菜や地の魚を積極的に使ったり、和のテイストを加えるなど少しずつ変化していって、今の“金沢フレンチ”になりました」。2013年にひがし茶屋街に移転オープンしたこの店では、懐石料理風にアレンジしたフレンチを、四代目 徳田八十吉氏が作陶した九谷焼の器で楽しめる。

また、金沢は寿司がおいしいことで有名だ。石川県内の32軒の寿司屋では、旬のネタを用いた10貫セット「百万石の鮨」を、3800円の統一価格で提供している。金沢市内では27軒の店でこれを味わうことができるが、10貫の構成は店のおまかせで、それぞれのこだわりが感じられる。いくつかの店を食べ比べしてみるのも楽しそうだ。

2016年1月現在の加盟店数。金沢市内27店舗、能登地方3店舗、小松市内2店舗。

新湊 〜 氷見

“天然のいけす” へ、旬の海の幸探し

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さらに海の幸を満喫するなら富山方面へ。能登半島の東側に抱かれた富山湾は、岸から急に深くなっていて、海底は谷が入り組んでいる。湾内では暖流と寒流が混じり合い、立山連峰から豊富な栄養分が流れ込んでいるため、多様な魚介類が棲みやすい環境となっているのだ。そして漁場から港までが近いので、鮮度が高いうちに水揚げできる。まさに “天然のいけす” なのだ。

北陸自動車道を小杉ICで降り、国道472号をまっすぐ北へ向かうと、新湊の漁港に着く。ここでは全国でも珍しい「昼セリ」が見られる。朝のセリが定置網で獲れる魚が多いのに対し、昼のセリにかけられるのは底もので、秋から春の終わりにかけてのメインはベニズワイガニ。市場の床には3000杯ものカニがズラリと敷き詰められ、まるで赤い絨毯のよう。腹を上に向けているのは、そのほうが水分が抜けにくいからだとか。セリが始まると、終わるまでの時間はあっという間。赤の色が鮮やかで濃く、身が大きくて詰まった上等なものから順に次々とセリにかけられていく。

富山湾の漁港には、カニの他にもさまざまな魚介類が水揚げされるが、シロエビ、ホタルイカ、ブリは富山湾の3大ブランドとなっているほどに有名。このうちシロエビは、新湊とその東にある岩瀬、水橋の3港のみで扱われている。岩瀬漁港近くの料亭「松月」では、すったシロエビのむき身を団子にして焼く「福団子」が味わえる。

また新湊の西にある氷見は何と言っても寒ブリだ。こちらの旬は残念ながら2月まで。しかし氷見漁港場外市場の「ひみ番屋街」には、鮮魚店だけでなく、干物の店から魚問屋直営の回転寿司まで、充実した店舗が揃っている。また隣には温泉入浴施設があり、ここの湯は数分浸かるだけでも十分な効能がある強塩泉。総湯と番屋街の間には無料の足湯もあるので、ぜひ立ち寄ってみたい。

羽咋 〜 大野

唯一公認の “波打ち際ドライブ” を

千里浜

約8kmに及ぶ千里浜なぎさドライブウェイ。ここでしか得られない特別なドライブ体験はクセになりそう。

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氷見からは、国道415号を通って能登半島の反対側へ。1時間ほど走ると、海岸沿いを走る無料の自動車専用道路「のと里山海道」の千里浜(ちりはま)ICに行き当たるが、構わず直進してしまおう。海と砂浜が見えてくるが、駐車場を探す必要はない。なぜならそこは、日本で唯一、公にクルマで波打ち際の砂浜を走ることができる「千里浜なぎさドライブウェイ」だから。

全長約8キロのこの渚の道は、大型小型、4輪2輪を問わず、どんな車両でも走行OK。砂が深くて乾いた部分はハンドルが取られやすいが、砂の色が濃い、湿った部分なら4WD車でなくても問題なく走れる。その理由は、この浜の砂にある。普通の砂浜の砂粒は、顕微鏡レベルで見ると大きさにムラがある。しかし千里浜の砂は、一つひとつの粒が小さく、大きさが揃っていて、しかも角ばった形をしているという。このきめ細やかな砂が潮の満ち干によって程よく湿ると、固く締まって舗装されたような状態になるのだ。

窓を開けて、ゆっくり流すようにクルマを走らせる。頬をなでる潮風が心地よい。晴れた日なら朝や昼に走るのも爽快だが、夕暮れ時も捨てがたい。日本海に沈む夕陽が周囲を赤く染め、さざ波を黄金色に輝かせる光景を眺めながらのドライブは何ともドラマチック。

さて、ドライブウェイの終点の今浜から、のと里山海道に乗って南に行けば再び金沢市へ。金沢市街へ向かう前に、のと里山海道の起点近くにある大野の町を訪れる。大野では、約390年前の元和年間に紀州から醤油の醸造技術が伝えられ、北海道や東北産の大豆を用いた醤油造りが行われた。最盛期には60軒あった蔵は、今では20軒ほどになっているが、それでも石川県では一般家庭の約7割が大野の醤油を使用しているそうだ。

大野にある「直江屋源兵衛」は、1825年に創業した直源醤油の直営ショップ&カフェ。ここでは北陸地方でポピュラーな、砂糖などでほんのり甘く味付けした旨口醤油のほか、一般的な濃口醤油やポン酢醤油、ドレッシングやお菓子など、バラエティ豊かな醤油関連製品を購入することができる。