Harmony 2017年3/4月号
日本ドライブ紀行 福井県

当世福井の“匠の技”を訪ねる

文・大喜多明子 写真・エディ オオムラ

年を重ねるにつれ、本物を身に着けたくなる。 ならば福井へ。眼鏡や越前漆器の小物、高級洋傘など、ここには匠の技による本物がある。 モノ作りの現場を訪ねた後は老舗の宿で、海を眼前にゆるりと温泉に浸かる……。

当世福井の“匠の技”を訪ねる

東尋坊とは、マグマが冷えて固まった輝石安山岩の柱状節理が日本海の荒波に削られてできた、高さ20m以上もの岩壁だ。国の天然記念物及び名勝に指定されている。


アクセス
東京からは空路羽田空港より小松空港を経て福井中心部へクルマで約2時間30分。名古屋からは東名/名神高速道路を経て北陸自動車道・福井I.C.まで約2時間。大阪からは名神高速道路・豊中I.C.より北陸自動車道・福井I.C.まで約2時間35分。
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年を重ねるにつれ、本物を身に着けたくなる。ならば福井へ。日本で約95パーセントものシェアを誇る眼鏡や越前漆器の小物、高級洋傘など、ここには匠の技による本物がある。モノ作りの現場を訪ねた後は、荒々しい日本海の波が打ちつける東尋坊をへて老舗の宿へ。越前蟹に舌鼓を打ち、海を眼前にゆるりと温泉に浸かる……。

坂井市 〜 鯖江市 〜 越前市 〜 福井市

  • 福井を代表する米どころとして知られる坂井平野。見渡す限りの田んぼに圧倒される。

    福井を代表する米どころとして知られる坂井平野。見渡す限りの田んぼに圧倒される。

  • 「眼鏡の聖地」鯖江市にはそこかしこに眼鏡フレームのデザインが使われている。

    「眼鏡の聖地」鯖江市にはそこかしこに眼鏡フレームのデザインが使われている。

  • 日本最古の漆器産地といわれる鯖江市河和田地区片山町の漆器神社から、うるしの里の町並みを望む。

    日本最古の漆器産地といわれる鯖江市河和田地区片山町の漆器神社から、うるしの里の町並みを望む。

  • うるしの里会館にある漆の天井絵は、通常非公開だが、事前申込みをすれば見学できる。

    うるしの里会館にある漆の天井絵は、通常非公開だが、事前申込みをすれば見学できる。

  • 名勝東尋坊と日本海に落ちる夕日を心静かに眺めたい。

    名勝東尋坊と日本海に落ちる夕日を心静かに眺めたい。

眼鏡のすべてがわかる殿堂

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「聖地巡礼」といえば少々オーバーだろうが、アニメの舞台巡りのように、こだわりの品の源を訪ねるというのも、旅の目的になるだろう。

一番に思い浮かんだのは、北陸・福井。暮らしの道具であり、お洒落のアイテムでもあるモノを古くから生産し、起伏を乗り越え今に伝えてきた、まさに聖地である。都会の紳士たちが愛するセンスとクオリティは、ここ福井の作り手が支えている。

そのひとつが、眼鏡。鯖江市、福井市を中心に、日本製眼鏡枠生産において、95パーセント以上のシェアを誇る。眼鏡作りは、1905(明治38)年、雪深い土地に手仕事をと、実業家増永五左衛門が大阪から職人を招き、農家に広めたことから始まった。鯖江市内を走ると穏やかな風景の中に所々、眼鏡のモチーフが見える。ビルの上に赤い眼鏡をのせているのは、めがねミュージアムだ。こちらの博物館では、草創期の道具や製品、有名人愛用の眼鏡等を展示。眼鏡作りの体験もあるほか、ショップには福井ブランドの3000本以上が揃い、眼鏡への興味が一段と湧く。

世界No.1の老眼鏡を目指す

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100年以上前から、眼鏡作りの伝統を受け継いできた産地の誇りと、携わる人々の技そして志を、唯一無二のアイテムに込め、全国や世界へ発信する人もいる。「ペーパーグラス」の西村昭宏さんだ。

年齢を重ねれば必要になる老眼鏡は、ともすれば老いのしるしのように、ネガティブにとらえられがちだった。が、西村さんはそんな老眼鏡の世界に、福井の精密な技を土台にしたお洒落さを持ち込み、なんと薄さ2ミリ、折りたためば栞のように本にもはさめそうな、スリムな眼鏡「ペーパーグラス」を生み出した。

福井駅の駅前にあるショップもまた、2本の通りに挟まれスリム。しかしながら、店内には繊細で洗練された眼鏡が美しくゆったりと展示され、ジュエリーを選ぶように、わくわくした気持ちになってくる。

「薄くて複雑な機構がないんです。地元の技術があるからこそ機能的で洒落たものが作れます。“老眼鏡”ではなく、“ペーパーグラス”と呼ばれるような、世界一のブランドを目指し、故郷福井の産業を盛り上げていきたいですね」と、西村さんは話す。

鯖江の技術なくしては成立しえない

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福井から県外へ発信するケースもあれば、東京発の最先端のセンスを、産地福井が後方から支える例もある。東京・用賀に本社を置く人気ブランド「フォーナインズ」は、自社工場を持たず、東京で企画・設計を行い、地場の工場が高度な技術でそれらを形にする。ブランドを代表するメタルフレームからプラスチック、女性的なものまで、製造のほぼすべてを、鯖江の産地が担っている。

ビジネスマンを中心に幅広い層が愛用する品だけあって、機能性が際立つ。着けた瞬間品質の良さがわかるほど、心地よさにもこだわっている。「機能を追求することで生まれるデザイン」という考えのもと、機能の広がりに沿ってデザインも進化。特徴的な逆Rヒンジ(蝶番)だけでなく、逆Rを内蔵した新構造を開発するなど、鯖江の工場がブランドの進化に対応する。

創立期からともにモノ作りを行ってきた、関眼鏡製作所がある河和田(かわだ)地区には豊かな自然が広がっている。眼鏡1本に約200の工程があるというが、その技術は農家の冬の仕事として始まり、磨かれてきた。のどかな風景を眺めていると、土地の人々の実直な営みが想像される。

常識を覆す発想力を武器に

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そして、伝統ある産地には、誰も見たことのない、画期的な眼鏡作りに挑む人もいる。越前市の「メガネのブリッヂ」には、代表の宮下務さんが、構想4年、試行錯誤の末2009年に発売した、鼻パッドのない眼鏡フレーム「ネオジン」が並ぶ。

「当初は一般の眼鏡を扱っていたのですが、鼻パッドの跡が残るのを嫌がるお客さまが多かった。そこで、メーカーに掛け合い、理想の眼鏡を作ることにしたんです」

「ネオジン」は、頬骨と耳の上側にのせて着ける眼鏡。顔に当たる部分に痛みは感じず、鼻に負担がかからないので着け心地がよく、想像以上に安定感がある。鼻パッドの跡やシミを気にする女性にも喜ばれそうだ。「世界初」と言われる、アイデアあふれる逸品は、シンプルからエレガントまで、年ごとに種類が増え、現在はゴルフに向くスポーツタイプも人気だという。1点を選び、試しに着けてみると、そのまましばらく話していても、辛くないどころか、眼鏡の存在を忘れてしまいそうなほど楽だ。

ほかに、暗いところでもすぐに見つけられるよう、フレームが光る眼鏡も発売。「聖地」のアイデアマンは、素材や技術にこだわり、ニーズに応えようと常に努力している。