Harmony 2019年3/4月号
日本ドライブ紀行 秋田県

桜時の秋田ドライブ旅

文・石田 治 写真・戸澤直彦

“みちのく三大桜名所”のひとつ、角館から秋田市を経由し、風光明媚な男鹿半島を目指す。武家屋敷、ハイカラ文化、ナマハゲとそれぞれ特有の文化に触れつつ満開の桜を愛で、地の恵みも堪能しながら、秋田を満喫するドライブ旅。

典雅な文化の香漂う“小京都”

角館

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薄紅色の影揺れる秋田の古都

4月——。太陽の高さも、陽射しの色も、もう春のそれなのに、秋田の大地はまだ冬の匂いにまどろんでいる。

ところがある日、春はいきなりやってくる。花神が一陣の風を吹かせたかのように、裸だった桜の梢(こずえ)に、薄紅のぼんぼりを灯す。

そんな春の瞬間が見たくて、秋田へ、角館へ向かう。ここは藩政時代から残る武家屋敷群と、シダレザクラの杜に埋もれた町だ。その杜が花雲の波に包み込まれ、町は突然、春のクライマックスを迎える。

落ち着きある風情を残した町を「小京都」と呼ぶことがある。角館は“みちのくの小京都”としてよく知られている。

角館の町は、現代もなお封建時代の町割を踏襲している。その基盤は1620(元和6)年、久保田(秋田)藩主・佐竹義宣の弟、芦名義勝によって造られた。芦名氏の後、1656(明暦2)年、角館に入った佐竹北家当主・佐竹義隣(よしちか)は、京の公家・高倉大納言永慶(ながよし)の次男だった。そしてその子・義明は、正室として京の公家・三条西実条(さねえだ)の孫娘を妻に迎えたのだが、そのとき花嫁の母は、娘が寂しくないようにと京のシダレザクラの苗木3本を持たせた。桜の木は、やがて家臣の屋敷にも植えて増やされ、以来350年余、町の春を美しく飾ってきた。

1万5000石という小さな城下だけれど、町区の道は六間(約10・9メートル)もの道幅がある。その通りの両側に約450本のシダレザクラが、武家屋敷の黒板塀に美しい影を浮かべる。

また、町区の西を流れる桧木内川の左岸にも、約400本のソメイヨシノの並木がある。シダレザクラがやや早く開花し、ソメイヨシノが後を追う。運がよければ、いずれも漫々の花盛りに出合えるかもしれない。「さくら名所100選」のふたつが数百メートルの間で見られる。

武家屋敷の黒板塀からこぼれんばかりに連なって咲くシダレザクラ。古都の風情あふれるひとときを堪能したい。例年の見頃:4月下旬〜5月上旬

武家屋敷の黒板塀からこぼれんばかりに連なって咲くシダレザクラ。古都の風情あふれるひとときを堪能したい。例年の見頃:4月下旬〜5月上旬

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花の香が漂う武家屋敷の座敷

見学ができる武家屋敷もある。その一軒、「石黒家」を訪ねた。

角館の武家屋敷の中でも、現存する最も古い屋敷だという。薬医門をくぐると、黒板塀に囲まれた敷地内には、藩政時代そのままの母家や土蔵が建っている。庭には、モミやシダレザクラといった樹齢200年超の大きな樹木が並ぶ。

母家には正玄関と脇玄関がある。石黒家は、佐竹北家で勘定役といった財政を担当する役職だったという。玄関をふたつ持つ家は、主が身分の高い武士であったことの証でもある。角館で唯一、座敷に上がることができる施設でもあり、スタッフによる案内や解説を聞くことができるのもここだけだ。

この日、座敷の雨戸が開け放たれた。畳に座り、家屋に漂う凛とした空気を吸い込む。

水に見立てた庭の苔上に、立木の若緑が光を躍らせ、その向こうには糸綴りのようなシダレザクラの花枝がゆらゆら風にそよぐ。

背筋を伸ばし、藩政時代の暮らしを思って目を閉じる。この町にめぐってきた数百回目の春が夢のように香った。

夏瀬温泉 都わすれ

食事は地のもの、旬のものが供される。これはある晩秋の夕食、前菜の一例(2人分)。右から胡麻豆腐、ブナハリタケの生姜煮、サザエの壺焼き、菊花ナメコ。

WHERE TO STAY IN SEMBOKU CITY

人里離れた古湯の宿のおもてなし

夏瀬温泉 都わすれ

仙境のような森の奥にひっそり建つ、秘湯・夏瀬温泉の一軒宿。木造の湯屋には、湯治場だった昔から変わらないかけ流しの湯があふれる。湯上がりにウッドテラスから空を見晴らせば、冴えわたる星屑の海が、ミヤコワスレの花言葉「しばしの憩い」を一層深めてくれる。秋田の山海から届けられる四季の旬菜も楽しみだ。

住所:秋田県仙北市田沢湖卒田字夏瀬84
電話:0187-44-2220
チェックイン:14:00
チェックアウト:11:00
駐車場:20台
カード:TS CUBIC CARD(Visa、MasterCard、JCB)

ハイカラ文化が花開いた佐竹氏城下町

秋田市

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県都で出合う古城の桜と至宝の絵画

古都を後にし、クルマは田園地帯に飛び出す。鏡のような水張り田んぼを、菜の花やタンポポなど咲き交わす百千(ももち)の花が縁取る。そうかと思えば、萌えはじめた雑木の森の新緑が道の両側に広がりはじめたりする。新しい季節が巡ってきたこのとき、北国を走れる幸福を喜びたい。

県都・秋田市に桜の名所を訪ねる。佐竹氏の居城だった久保田城跡、現在の千秋公園だ。城内には8つの御隅櫓があったが、明治の大火で建造物の多くが失われ、現在は焼失を免れた御物頭御番所や、復元された御隅櫓や本丸表門などが往時の面影を伝えている。

旧本丸と二の丸の一帯にはソメイヨシノ、シダレザクラ、ヤエザクラ、オオムラザクラなど、よく手入れされた約730本の桜が咲いて都心の春を彩る。桜木は人の手のぬくもりに触れられて育つ。花たちも美しく咲いて人に応える。

旧三の丸に建つ旧秋田県立美術館(平野政吉美術館)には、秋田の至宝というべき絵画があった。近代、ただひとり世界画壇で認められた日本人画家と言われる、藤田嗣治(つぐはる)(レオナール・フジタ)の大作「秋田の行事」だ。現在、施設は老朽化し、堀を隔てた向かいにある「秋田県立美術館」に移設されている。これも見逃せない“秋田の風景”だ。

レストランルセット

旬の秋田産食材にこだわった料理が秋田県内外、最近ではインバウンド客に人気だ。これはある秋の日のメニュー「男鹿産真鯛のスープ仕立て」。

WHERE TO DINE IN AKITA CITY

秋田の豊かな食材をフランス料理のレシピで

レストランルセット

秋田の食に関するアドバイザーで料理研究家でもある野口かおりさんがプロデュースするフレンチレストラン。秋田牛や地野菜、前浜の鮮魚など秋田産の厳選食材をふんだんに使用。丁寧な調理を経て盛り付けられた料理は絵画のように美しく、その味わいとともにワンランク上のモダンフレンチが楽しめる。

住所:秋田県秋田市大町1-2-10
電話:018-874-9645
時間:11:30〜14:00(L.O.13:30)、18:00〜22:00(L.O.20:30)
定休日:月曜
駐車場:2台
カード:TS CUBIC CARD(Visa、MasterCard、JCB)
Cocktail & Whiskey Lady

ひとりカウンター席でバーテンダーと会話を交わしながらグラスを傾けるのもよし、ゆったりしたボックス席で仲間との語らいを楽しむのもよし。

WHERE TO DINE IN AKITA CITY

老舗のオーセンティックバー

Cocktail & Whiskey Lady

1964年創業。秋田一の繁華街・川反(かわばた)の時代の移ろいを見守りつづけてきた老舗のオーセンティックバーだ。ボックス席が中心で昭和レトロなムードが色濃く残るアットホームな空間はレディならでは。横手産のホップを使用したクラフトビールや、映画からインスパイアされたオリジナルカクテルなども種類豊富で楽しい。

住所:秋田県秋田市大町3-1-11
電話:018-863-6855
営業時間:平日18:30〜26:00(L.O.25:30)、
日・祝〜24:00(L.O.23:30)
定休日:不定休
カード:TS CUBIC CARD(Visa、MasterCard、JCB)