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「気になるトヨタ車」開発者に聞く日本が生んだ日本のためのSUV。これは現代の“ハイソカー”なのか

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6月の発売で受注4万5,000台の大ヒットを飛ばした「ハリアー」。期せずしてかつてのハイソカーにも似た存在となっている日本テイストのSUVが、いかにデザインされたのか、佐伯禎一チーフエンジニアを直撃した。

佐伯禎一 Yoshikazu Saeki

トヨタ自動車株式会社 ミッドサイズビークルカンパニー MSZデザイン領域 統括部長

1964年生まれ。シャシー設計部、製品企画部、北米の研究開発部門などを歴任し、「ランドクルーザー」、「アバロン」、「カムリ」、「ウィンダム」などを担当。現在は「RAV4」、「ハイランダー」、「ハリアー」のチーフエンジニアを務める。

恋するハリアーが、より憧れられる存在に?

小沢コージ氏(左)と佐伯禎一チーフエンジニア(右)。
小沢

突然ですが僕は、ハリアーは特別なクルマだと思っていて、特に先代の3代目がいろんな意味で異例でした。国内向けハリアーは2003年発売の2代目で終わる予定だったのに、予想外の大人気で急遽国内専用で3代目が7年前に作られた。しかもその3代目が90年代のハイソカーのようなコンセプト。当時有元チーフエンジニアは「カップルがスパークリングワインを飲みながらミステリアスな夜を過ごす」というイメージでクルマを作り、実際に若い人に売れてしまった。リアルな販売データを見ても、なんと30歳以下のユーザーが4割! 若者のクルマ離れが叫ばれる現在において、まさにこれはミステリー。僕は勝手に「ハリアーの奇跡」と呼んでいるくらいですから。

佐伯

あのですね。僕はこのクルマを作る時、そういう彼らが大人になったらどんなことをするのか考えたんです。一体どんな恋をするのか。

小沢

本当ですか。面白い視点です。

佐伯

かつて「あ、これカッコいいな、コレに乗ったらどんなにスタイリッシュな生活ができるのかな」と思った人たちが、5年経ったらどういう感覚に変わるのか。僕は昔と同じ恋ではなく、恋の質が変わるんじゃないかという風に考えたんです。

たくましくも流麗なプロポーションをしたハリアー。そのなめらかな走りにも注目したい。
小沢

結局あれから7年経ちましたよね。ハリアーの状況、お客さまのライフはどう変わったんですか。

佐伯

状況は変わってません。

小沢

ってことはまだ若い人が買ってるってことですか。それって凄いことですよね。安い軽自動車ばかり売れてる今の時代に、300〜400万円台のSUVが売れているって。

佐伯

ただね、そこで僕が確認したいのは、若いお客さまはいいクルマを買いたいのであって、大人に対する憧れがどういうものか。大事なのは恋する時にどんな大人になりたいかなんですよ。例えば人生の中でも20代は若さでいける。50代になると中年の魅力で勝負できるじゃないですか。でも40代は微妙ですよね。つまりハリアーで一番大切なのは、若者が考える「大人に対しての憧れ」であって、それこそがハリアーの本質だって思うんです。若者がお金をためてまで手に入れたいと思うものには、大人への憧れがないとダメだと思うんです。

小沢

なるほど。4代目ハリアーは若者たちから見てもっと憧れるものにしようと。

これまでの実績を否定し、異なる視点でデザイン

ハリアー(左)とRAV4(右)。どちらも佐伯さんがチーフエンジニアを担当し、“異なる物差し”でデザインした。
小沢

では今回、RAV4やアメリカで発売したハイランダーと作り分ける中で、さらに進化させた部分ってどこですか。

佐伯

そこはもの作りの方向と商品性の部分でふたつに分けて考えないと。まず実際のもの作りの視点から話しますと、グローバルで発売したRAV4や、ハイランダーと同じプラットフォームを採用してるんですけど、この2台はSUVの物差しで作ったクルマなんです。

小沢

SUVの物差し?

佐伯

つまり悪路走破性であるとか、荷室の広さであるとか、そういう性能を重視しているんです。

小沢

確かにそうですね。

佐伯

それに対してハリアーはまったく異なった軸や言葉で作られている。ラゲッジも要領を気にしてない。いわゆる「モノからコトへ」とは違う視点です。通常、モノは悪路走破性とか荷室の空間で、それを生かしていかに楽しむかというコトの評価につながる。一方ハリアーは、どんどん乗用車ライクになるSUVの世界で、限界を目指している。それは「モノからコトへ」の先を探ることにあるのではないかとね。

えぐれた曲線が美しいテール部。RAV4とは異なる思想のデザインを体現している。
小沢

そう考えるとハリアーの進化の方向って難しいですよね。

佐伯

あくまで私の仮定ですけど、その先にあるのは「人」と「時」じゃないかって思ったんです。つまり、人との触れ合いであり、どう時間を過ごすかということです。そこを感じてもらえるようにしなきゃと。

小沢

ハリアーって本当に特殊で、都会的な進化をさせるのって、どっちかっていうとイケてる原宿ファッションを作るような世界じゃないですか。佐伯さんが苦手とする領域の気がしたんです。失礼ながら。

佐伯

おっしゃってることはよくわかります(笑)。

小沢

でもぶっちゃけ、これはまごうことなきハリアーの進化たるお洒落なSUVだなと。佐伯さん凄い。こういうクルマもちゃんと作れるんだなと感心しまして。

佐伯

まず自分自身で考えたのは、ハリアーを作る時にはRAV4やハイランダーを作った自分を否定しなければいけないと。どうしても人間って同じ自分の尺度、自分の物差しを使いたがるじゃないですか。

小沢

わかります。僕らも同じような原稿しか書けないですから。

佐伯

基本的に自分の判断で使っている方程式があるじゃないですか。その方程式をハリアーには使っちゃダメだなって。人間、どうしてもそれが出ちゃうんですけど、その瞬間に「ダメだ」と1回ツバを飲み込む行為の繰り返し。

小沢

難しそうですね。

佐伯

今までのクルマ作りの中でも難しかったのを覚えてます。結局、自分を否定しなきゃいけないですし、RAV4を否定して、ハイランダーを否定して、だからといって新しいものが生まれるかわからない。

小沢

しかし人や時の過ごし方って、どうデザインや走り味に落とし込んでいくんですか。

佐伯

まずは作る側の意識を変えようと。作り手の思いがこもっているものは、カタチは一緒でも空気感が変わります。

カンパニー制が作り上げた雅で日本的なSUV

ほどよい緊張感と安心感のバランスで心地よい居住空間に(グレード Z“Leather Package”。内装色ブラック)。
佐伯
それとハリアーには日本人の美学を感じたんです。しかもその質感がすごく自然体で、日本文化のいいところが感じられる。今のトヨタはカンパニー制をとっていて、クルマの企画、設計、評価、生産技術から工場まで一体感が出ている。さらに今回、ハリアーではじめたのはワンチーム活動で図面を描く段階から設計、実験、生産技術、工場の担当者を集めた。そうすると全員が自分ごととしてハリアーというクルマを捉えられる。
小沢

そんなことまでやったんだ。

佐伯

それってひょっとして僕らが忘れている日本のもの作りであり、家庭的である感覚にちかいのかなと。

調光パノラマルーフのガラスはスイッチひとつで透明と不透明を切り替えられる。
小沢

それから面白かったのが「雅な走り」です。確かにRAV4より上質かつ静かですが、「雅」とは?

佐伯

僕の中の認識は「舞踊」です。クルマに乗り、エンジンをかけ加速して減速して戻って来る一連の動作が美しいし、つながりがある。

小沢

それわかる気がします。スタイルも前後ライト類は逆に3代目ハリアーより控えめ、かつスタイリッシュになってますもんね。

佐伯

そこはRAV4があるのでより思い切って日本的にしました。

小沢

そうか。RAV4で王道のSUV路線を押さえたのでより日本的なワビサビ路線に振れたんですね。

佐伯

そういうことです。

小沢

なるほど。新型ハリアーはより日本的な美しさを追求した、最近ない日本向けのSUVだからこんなに心を捉えるのか。

小沢コージ Koji Ozawa

神奈川県横浜市出身。自動車メーカー勤務を経て1990年に二玄社に入社し、自動車情報誌『NAVI』の編集に携わる。1993年にフリーランスとして独立後、現在は「バラエティ自動車ジャーナリスト」という肩書きももつ。

HARRIER Specifications

サイズ
全長4,740mm×全幅1,855mm×全高1,660mm
乗車定員
5名
燃料消費率

ガソリン車 2WD
15.4km/L(WLTCモード)国土交通省審査値

ハイブリッド車 2WD
22.3km/L(WLTCモード)国土交通省審査値

エンジン

ガソリン車
型式:M20A-FKS
総排気量:1.986L
最高出力(ネット):126kW(171PS)/6,600r.p.m.
最大トルク(ネット):207N・m(21.1kgf・m)/4,800r.p.m.

ハイブリッド車
型式:A25A-FXS
総排気量:2.487L
最高出力(ネット):131kW(178PS)/5,700r.p.m.
最大トルク(ネット):221N・m(22.5kgf・m)/3,600~ 5,200r.p.m.

モーター
ハイブリッド車
2WD フロントモーター
型式:3NM
最高出力:88kW(120PS)
最大トルク:202N・m(20.6kgf・m)
メーカー希望小売価格

ガソリン車
299万円~423万円(税込み)

ハイブリッド車
358万円~482万円(税込み)

詳しい情報・お問い合わせ

トヨタ自動車株式会社 お客様相談センター
TEL:0800-700-7700 (全国共通・フリーコール)
受付時間:9:00〜18:00 年中無休
ウェブサイト:toyota.jp/harrier/

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