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Exciting Rally世界最高峰のラリーで独走を続けるラリーチームに迫る Text:Yasuo Kusakabe Photo:TOYOTA GAZOO Racing

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ラリーの最高峰で戦うプロフェッショナル集団・TOYOTA GAZOO Racing World Rally Team(TGR WRT)。ラリーのために仕上げた「ヤリスWRC」とともに世界各地を転戦するTGR WRTの規模や本拠地、現場でのチームワークなど、ラリーチームの裏側を紹介しよう。

WRTはシステマチックに作られていた

チームは完全にプロフェッショナルに運営されており本拠はフィンランドのユバスキュラにある。スタッフは約200名でその内の80名ほどは常に世界のラリーを転戦していたり、ラリー車のテストに出張している。本番車の準備や運用についてはエストニアの支社から行っていたが2022年からはユバスキュラに集約される。1か所に集約されることでさらにコミュニケーションが良くなる。

会社組織になっており、業務は大きく分けて技術と事務に分かれている。技術は「ヤリスWRC」の開発は当然として、現在の大きな業務は2022年から始まるラリー1と呼ばれるハイブリッドカーの開発になる。そこにはデザイナー、エンジニア、電子制御関係、車両組み立てなどに分かれており、さらに部品の調達や品質管理担当が設けられる。やっていることはメーカーに近い。

事務方も多忙を極める。一般の会社と同じで経理、人事、法務、経営企画、そしてWRC特有なものとしてチームの移動のためのトラベル担当、さらにラリーに出場するのに必要な事務処理やスケジュール管理をするスポーティングチームがある。これらの組織が連携して作業するのは簡単ではないがTGR WRTでは効率よく機能してWRCを戦っている。

ではラリーの現場ではというと、ラリーの1週間前からチームの荷物を運んだりテントを設営したりするセットアップチーム。少し遅れてメカニックとエンジニア、そしてラリークルーが到着して決められた日程でレッキ(下見)を行いペースノートの作成、整理に入る。ラリーが終わってからの撤収は早いがクルーや監督はマーケティング活動を行うのが通例だ。年間12戦を戦う事は相当の仕事量になっている。

ヤリスWRCを解剖する

「ヤリスWRC」は厳格なFIAのワールドラリーカー規定に則って作られているが、いたるところにTGR WRTのノウハウが込められて高い戦闘力を保っている。2021年シーズンまで1.6ℓターボ+4WDがWRカーの基本だがエンジン出力を決める吸気制限があり、その口径は36φとなっている。私も同様に吸気が規制された自然吸気マシンに乗ったことがあるが、エンジン出力がガクンと減って驚いた。それでも開発が進むにつれて380PS/425Nm以上の出力を出すことに成功している。

例えば現在市販されている「GRヤリス」では、272PS/370Nmで素晴らしいパフォーマンスを発揮するが、「ヤリスWRC」はそのハイパワーをも簡単に凌駕する。このエンジンは言ってみればハイトルクの塊のような特性で、粘り強いだけでなくどの速度領域から踏んでも力強く加速する。トランスミッションは6速の油圧式、2ペダルで操作する。左足ブレーキを多用するラリードライバーにとっては好都合だ。また大きなサイドブレーキレバーも必須アイテムで、タイトターンを曲がる際のきっかけに利用する。

車両は規定で最低重量が決まっている。室内には万一のアクシデント時にクルーを守るロールケージやその他のラリー装備も備えており、当然ながらその分重くなる。にもかかわらず、前出の「GRヤリス」と比べて100kg近く軽い1,190kg(主要諸元、最低重量)に仕上がっている。

そして現在の高速ラリーでは空力も重要なパーツになる。大きなリアウィングもWRカーのトレンドだがサイズは規定されているために効率の良い空気の流れが求められる。仔細に見るとフロントからサイド、リアにかけて絶妙な形状で空力パーツが取り付けられているのにも注目してほしい。

こうして世界中の過酷なラリーを戦う「ヤリスWRC」だが、当然1ドライバーに1台ではローテーションが出来ず、スペアカーも必要になる。TGR WRTでは1シーズン、1ドライバーにつき2~3台、およびスペアを用意して転戦する。ラリー中ではサービスチームはアクシデントにも即応できるスペアパーツも持ち込み、その量は膨大なものになる。それを効率よく運ぶこともチームの大切な仕事だ。

ハードなラリーを戦うドライバーたち

本誌Harmonyでも紹介した3名のドライバーたちや育成ドライバーの勝田貴元選手は、それぞれドライビングスタイルが異なるが「ヤリスWRC」の基本スペックは共通だ。ドライバーによってショックアブソーバーの減衰力を変更し、車高を変えるなど違いはあるが、それぞれ素晴らしいパフォーマンスでコンマ秒単位の戦いを繰り広げていることで「ヤリスWRC」の適応力の高さを物語る。

ペースノート作りから始まるラリーの1戦は、クルーにとって1週間にわたる長丁場だ。また1日の走行距離はその日走る複数のスペシャルステージ(SS)を合わせると約100km、その他の移動も含めれば約300Kmに及ぶハードなモータースポーツでもある。体力、そして集中力はラリーを戦うのに欠かせない。実戦以外でのフィジカルトレーニングは各ドライバーにあったメニューで行っているが、フィジカルだけでなくメンタルトレーニングでプレッシャーに負けない精神力を作るドライバーもいる。

育成ドライバーの勝田選手はラリー未経験のところからスタートしながら、ガムシャラな走り込みでコ・ドライバーの協力もあってペースノートの精度が格段に上がるにつれて、成績も着実によくなっていき、2021年の第6戦、サファリ・ラリー・ケニアでは総合2位でフィニッシュ。ある意味チームの育成プログラムにしっかり対応して育っているのが素晴らしい。TGR WRTでは来季からも育成ドライバーの枠を設けるが、勝田選手は良き先輩となるだろう。

これもチームオーナーの豊田章男社長の強いリーダーシップ、そして家族的であり、組織としてプロフェッショナルなチームでありたい、という思いをチーム全員が共有しているからこそ可能になり、それが強いチームに育った核となっている。

TOYOTA GAZOO Racing World Rally Team(TGR WRT)
チームの活躍の様子はこちらから。
https://toyotagazooracing.com/jp/wrc/

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