Hydrogen society「Woven City」から学ぶ水素社会のライフスタイル Text:Daisuke Katsumura
トヨタ自動車が静岡県裾野市に建設を進めている「Woven City(ウーブン・シティ)」では、CO2の排出を抑える水素を使った未来社会を実現するプロジェクトに取り組んでいます。水素を使った街づくりや実際の暮らしがどんなものかご紹介します。
トヨタが建設を進める「Woven City」で
水素社会を先取りする試み
トヨタ自動車は、静岡県裾野市に水素エネルギーを活用し、カーボンニュートラルな暮らしを実証実験する「Woven City」の建設を進めています。水素は、利用する際にCO2を排出しないため、風力、太陽光、地熱、バイオマスなどの再生可能なエネルギーのひとつとして期待されています。また水素は、燃料電池システムと組み合わせて発電することも、直接燃焼としてエネルギーを生み出すことも可能です。こうした水素を上手に活用する取り組みを推進することによって、カーボンニュートラルなライフスタイルはより現実味を帯びてきたのです。
トヨタ自動車は、水素を「つくる」、「運ぶ」、「使う」という一連のサプライチェーンを実現すべく、ENEOSとの共同開発契約を締結しました。具体的には「Woven City」近隣に水素ステーションを建設。またこのステーションに水電解装置を設置し、再生可能エネルギー由来の水素(グリーン水素)を製造し、「Woven City」に向けて水素の供給をおこない、「Woven City」内に設置された燃料電池発電機を使って、グリーン水素由来の電力を供給するというものです。
こうして製造工程から使用過程までをトータルで整備することで、グリーン水素を中心としたエネルギーサイクルが確立し、カーボンニュートラル社会実現により近付くことができるのです。両社は2024〜2025年の「Woven City」開所に向けてインフラ整備を推進することで、水素利活用へ向けた取り組みを加速させていきます。
水素の運搬を容易にするポータブル水素カートリッジ
こうした水素社会を実現するためには、水素の運搬を容易にすることが実現への大きな鍵となります。水素ステーションから燃料電池発電機などの施設にはパイプラインを使った輸送が想定されているそうですが、各家庭などに水素をより簡単に、そしてより安全に供給するために、現在トヨタ自動車と、子会社のウーブン・プラネット・ホールディングスは、手軽に持ち運びでき、生活圏のあらゆる用途で使用できるポータブル水素カートリッジを開発し、先日プロトタイプを発表しました。
このカートリッジは直径約180mm、全長約400mmというサイズで、充填時の目標質量は約5kgと、人の力で携帯が可能なサイズとなっています。このサイズは小型機器への使用も想定したもので、インフラ整備も小規模ですむというメリットもあります。また災害時にエネルギー供給が遮断された地域に人力でも容易にエネルギー供給できる可能性を持っているのです。
カートリッジタイプとした背景には、もうひとつ大きな理由があります。それは規格を統一することで、カートリッジ流通を促進し、多くの機器で利用できる環境を作ることができるという点です。たとえば、自動車にはこのカートリッジを3本、家庭には5本、そして暖房器具には2本と、カートリッジ容量を変えずに使用する本数を変更することで、小型の暖房から自宅用の燃料電池まで機器の大きさに関わらず同じカートリッジを使用できるようになり、カートリッジの流通や循環がより容易になっていくのです。これによって水素社会に向けたインフラ整備も加速されることが期待できます。
同時に異なる視点から水素活用の道も模索中
水素エンジンカローラも進化
一方でトヨタは水素を使った内燃機の開発も同時に進めています。つい先日もスーパー耐久富士24時間レースでROOKIE Racingの水素エンジンGRカローラが見事完走し話題となりましたが、この会場では、水素エンジン自動車の市販に向けて、さらなる技術開発が紹介されていました。そのひとつが液体水素燃料の利用です。現在は気化した状態の気体水素をタンクに充填し燃料として使用していますが、水素を液体状態で搭載することで、タンクの形状に自由度が増すだけでなく、軽量かつコンパクトに搭載することが可能。これによって航続距離の増加などが期待でき、市販化に向けて大きく前進すると考えられているのです。ただし液体水素を充填する際や、貯蔵する際には-253度よりも低い温度をキープするとうかなり難しい課題があるのも事実。現在はこうした問題を解決すべく技術開発や研究が急ピッチで進められています。
福島県でも未来のまちづくりに向けた社会実験を開始
この水素エネルギー社会の実現に向けた取り組みは、実際の地域でも行われています。福島県とトヨタ自動車は、水素のある暮らしを目指し、まずはスーパーマーケットやコンビニエンスストアなどへの配送に小型燃料電池(FC)トラックを導入し、物流業者だけでなく、自動車メーカー、インフラ事業者、行政などが一体となり、運行管理や走行情報、水素ステーションの情報などをつないだエネルギーマネジメントシステムを構築。これによって水素ステーションの最適な位置への配置やタイムロスの最小化を図ります。
この小型FCトラックは、トヨタ自動車が、いすゞ自動車、日野自動車、Commercial Japan Partnership Technologiesとともに企画、開発を行っているものです。CJPTが企画し、いすゞ、日野の積み重ねてきたトラック技術とトヨタ自動車の持つFC技術を組み合わせ、2023年1月以降に実際の物流現場に導入されます。こうして現在ではトヨタ自動車だけでなく、多くの自動車メーカーや企業が参画して水素社会への取り組みを行っていることがわかっていただけたと思います。こういった弛まぬ努力によってカーボンニュートラル社会はすぐそこまでやってきているのです。