TOYOTA CROWN正統の意味を問う。
クラウンはなぜセダンを残したのか?
文/渡辺陽一郎 写真/トヨタ自動車、奥隅圭之、池之平昌信

Car

2022年夏、4つの車型を持つファミリーへと生まれ変わったクラウン。まずはクロスオーバー、次にスポーツと「SUV的」なモデルの発売が先行したが、この11月、いよいよ正統派クラウンともいうべきセダンが発売された。変革をアピールする中にあって、なぜクラウンはセダンを残したのか。その狙いと魅力を、モータージャーナリストの渡辺陽一郎氏が分析した。

■日本のクラウンから世界のクラウンへ

11月に発売されたクラウンセダン。全長5030mmという堂々たる体躯を持つ

クラウンは長い伝統に支えられたトヨタの主力車種だ。初代モデルは1955年に発売され、国産高級車をリードしてきた。

このクラウンが大きな変革を遂げた。先代型までは日本向けの高級セダンだったが、新型は4車種を用意するシリーズに発展している。4車種の内、3車種はSUVに大別でき、残りの1車種がセダンになる。

10月に都内で行われた「クラウンブランド第2章お披露目会」。4つのタイプのクラウンが集まった

クラウンがSUVを中心にシリーズ化された背景には、売れ行きが関係している。

クラウンは前述の通り国産高級車の主役で、最盛期の1990年には、数種類のボディを合計すると1か月平均で約1万7300台を登録した。ちなみに2022年の小型/普通車の販売ナンバーワンはヤリス(ヤリスクロスを含む)で、1か月平均登録台数は約1万4000台だ。

当時のクラウンは物凄い人気車だった。ところが2021年の1か月平均は約1800台に留まる。先代クラウンも魅力的な高級車だったが、セダンというボディタイプが影響して、販売を低迷させた。

そこで、2022年夏に登場した新型クラウンは、日本向けの高級セダンから世界でも販売できるSUVを中心としたシリーズに発展させ、売れ行きを増やすことになった。

いい換えれば「クラウンのブランド化」だ。すべてのクラウンを試乗できたり、各種の情報を得られるクラウン専門店の「THE CROWN」もオープンして、壮大なプロジェクトに至っている。

■セダンは伝統を受け継ぐ直系モデル

新型クラウンの幕開けを飾ったクロスオーバー

クラウンシリーズの第1弾は、2022年に発売されたクラウンクロスオーバーだ。上級グレードに21インチの大径タイヤを装着するSUVだが、ボディスタイルは、居住空間から独立したトランクスペースを備えるセダンになる。

従来のクラウンと、SUVを中心にした新しいクラウンシリーズを繋ぐ架け橋にすべく、クラウンクロスオーバーが最初に投入された。

第2弾として登場したスポーツ。全長はクロスオーバーよりも210mm短い

第2弾は2023年10月に発表されたクラウンスポーツだ。ボディの後部にリヤゲートを備える一般的なSUVスタイルで、全長はクロスオーバーよりも210mm短い4720mmだ。全幅は40mm広い1880mmとした。パワーユニットは多くのトヨタ車に搭載される直列4気筒2.5Lハイブリッドだが、走行安定性が優れ、文字通りスポーティな走りを満喫できる。

2024年3月までには、SUVスタイルのクラウンでは最上級車種になるエステートも発売される。全長は4930mmと長く、全幅も1880mmとワイドだ。後席が広く、荷室容量もタップリと確保されて実用性も優れている。

その一方で、2023年11月にはクラウンセダンが発表された。新型クラウンをSUV中心のシリーズに発展させながら、伝統を受け継ぐ直系モデルのセダンも残したのだ。

■後輪駆動ならではのプロポーション

前輪を前寄りに配置した後輪駆動車らしいプロポーション

クラウンセダンの設計は、SUVに発展したクラウンクロスオーバー/スポーツ/エステートとは大幅に異なる。SUVのクラウンシリーズは、前輪駆動のGA-Kプラットフォームを使って開発され、4輪駆動や後輪操舵の機能を装着している。

いっぽうでクラウンセダンは、従来と同じ後輪駆動のGA-Lプラットフォームを使う。SUVのクラウンとは異なり、4輪駆動や後輪操舵は採用されていない。

クラウンセダンは後輪駆動だから、フロントピラー(柱)やウインドーに対して、前輪が前寄りに配置されている。ピラーやウインドーと前輪の間隔が離れており、ボンネットも長い。これは後輪駆動ならではのプロポーションだ。

車高は1475mm。端正さが際立つ端正なたたずまい

全長は5030mm、ホイールベース(前輪と後輪の間隔)も3000mmに達して、全幅は1890mmとワイドだ。セダンだから全高は1475mmと低く、クラウンクロスオーバーの1540mm、クラウンスポーツの1565mmを大幅に下まわる。

その結果、クラウンセダンの外観は、伸びやかでスマートに仕上がった。SUVの3車種とクラウンセダンの外観を見比べると全然違う。

それなのにインパネの形状は、前輪駆動ベースのクラウンクロスオーバーやスポーツに合わせている。水平基調で、視認性や操作性も良い。ただしATレバーが収まるセンターコンソールは、駆動メカニズムの配置が異なるため、後輪駆動のセダンはSUVよりも高く設定されている。セダンはその分だけ乗員の囲まれ感も強い。

■トランクにはゴルフバッグ3つが収まる

クロスオーバーやスポーツに準じたインパネ回り。センターコンソールが高く乗員の囲まれ感を生む

クラウンセダンは全長が5mを超えることもあり、前後席ともに広い。特に後席の足元空間がタップリしていて、大人4名が乗車して長距離を快適に移動できる。

天井はSUVのクラウンクロスオーバーやスポーツよりも低いが、これは必ずしも欠点ではない。乗員がクルマに収まったような気分になり、広々としたSUVとは異なるセダン特有の安らぎ感が生じるからだ。クラウンセダンは後席も快適だから、職業ドライバーが運転する用途にも適する。

3000mmというホイールベースを活かした室内。特に後席の広さは圧巻

セダンの荷室はSUVに比べて狭いイメージもあるが、クラウンセダンのトランク容量は450Lに達する。クラウンクロスオーバーと同じ数値で、クラウンスポーツの397Lを上回る。

トランクの開口部はクラウンスポーツのリヤゲートよりも狭く、荷物の収納のしやすさでも差が生じる。それでもトランク容量に余裕があるから、ハイブリッド搭載車の場合、9.5インチのゴルフバッグが3個収まって、実用的には十分な広さを確保した。

■パワーユニットは2種類

効率とパワーを兼ね備えた2.5Lマルチステージハイブリッド

クラウンセダンはパワーユニットにも特徴があり、直列4気筒2.5Lのハイブリッドと燃料電池を用意した。

ハイブリッドは、基本的にはクラウンクロスオーバーやスポーツと同じA25A-FXS型だ。燃料噴射装置は、筒内噴射とポート噴射の両方を備えた高性能なD4-Sになる。エンジンとモーターの相乗効果によるシステム最高出力は245馬力の余裕があり、WLTCモード燃費も18km/Lと優れている。

水素を動力源とする燃料電池も選べる。吸入した空気をろ過して排出するため空気清浄機能も併せ持つ

燃料電池は、基本的には信頼性の高いトヨタMIRAIのユニットを活用した。3本の高圧水素タンクが搭載され、水素と酸素と反応させて電気を発生させ、モーターを駆動する。

水素ステーションで水素を充填するのに必要な時間は約3分だから、電気自動車の充電に比べて所要時間が大幅に短い。1回の水素充填によって走行できる距離は、クラウンの燃料電池は約820kmだ。これも電気自動車が1回の充電で走行可能な距離を大きく上まわる。

燃料電池の場合、モーターがホイールを駆動するから、運転感覚は電気自動車と同様だ。加速は滑らかでノイズも小さい。

■高級車としての必然性を持ったボディ

一見小さめに見えるトランクも実際は大容量。ゴルフバッグを3つ飲み込む

そもそもセダンは、後輪が収まる部分に独立したトランクスペースを配置したから、後輪が路上を転がる時に発するノイズも居住空間に侵入しにくい。クラウンセダンは燃料電池の搭載により、ノイズをさらに小さく抑えることができた。

クラウンセダンハイブリッドも同様で、遮音を入念に行ったから、直列4気筒のエンジン音を含めてノイズは小さい。しかもクラウンセダンは、全高が低いために重心も下がり、後席とトランクスペースの間には骨格が通るからボディ剛性を高めやすい。このセダンボディの特徴も、走行安定性、乗り心地、静粛性などに優れた効果をもたらしている。

クラウンは1955年に初代モデルを投入して以来、セダンボディを中心に発展してきた。この背景には、高級車とセダンの親和性が高いことも挙げられる。危険を避ける性能も含めて、安全で快適な高級車を開発する上では、セダンは必然性を伴ったボディ形状だ。

安全で快適な高級車のスタイルとしてセダンには必然性がある

そのためにメルセデス・ベンツやBMWを始めとする欧州のプレミアムブランドも、従来と変わらずセダンを主力車種に据えている。特に高級車は、メルセデス・ベンツSクラスを見れば分かる通り、セダンが定番のスタイルだ。

今ではメルセデス・ベンツも、大量に売られる車種はSUVに移ったが、セダンも中核に位置する求心力的な欠かせない存在になっている。

同様のことがクラウンにも当てはまる。海外を含めて、市場のニーズに沿ってSUVを用意することは大切だが、ブランドを象徴するのはあくまでもセダンだ。

従ってクラウンクロスオーバー、スポーツ、今後登場するエステートを購入する時も、販売店でセダンを試乗しておきたい。クラウンブランドの伝統と新たな方向性が明確に示され、「クラウンの本質と選ぶ価値」を理解できるからだ。SUVに発展したクラウンが、敢えてセダンを残した意味もそこにある。

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車高は1475mm。端正さが際立つ端正なたたずまい

クラウンがSUVを中心にシリーズ化された背景には、売れ行きが関係している。

クラウンは前述の通り国産高級車の主役で、最盛期の1990年には、数種類のボディを合計すると1か月平均で約1万7300台を登録した。ちなみに2022年の小型/普通車の販売ナンバーワンはヤリス(ヤリスクロスを含む)で、1か月平均登録台数は約1万4000台だ。

当時のクラウンは物凄い人気車だった。ところが2021年の1か月平均は約1800台に留まる。先代クラウンも魅力的な高級車だったが、セダンというボディタイプが影響して、販売を低迷させた。

そこで、2022年夏に登場した新型クラウンは、日本向けの高級セダンから世界でも販売できるSUVを中心としたシリーズに発展させ、売れ行きを増やすことになった。

いい換えれば「クラウンのブランド化」だ。すべてのクラウンを試乗できたり、各種の情報を得られるクラウン専門店の「THE CROWN」もオープンして、壮大なプロジェクトに至っている。

■後輪駆動ならではのプロポーション

クロスオーバーやスポーツに準じたインパネ回り。センターコンソールが高く乗員の囲まれ感を生む

クラウンセダンの設計は、SUVに発展したクラウンクロスオーバー/スポーツ/エステートとは大幅に異なる。SUVのクラウンシリーズは、前輪駆動のGA-Kプラットフォームを使って開発され、4輪駆動や後輪操舵の機能を装着している。

いっぽうでクラウンセダンは、従来と同じ後輪駆動のGA-Lプラットフォームを使う。SUVのクラウンとは異なり、4輪駆動や後輪操舵は採用されていない。

クラウンセダンは後輪駆動だから、フロントピラー(柱)やウインドーに対して、前輪が前寄りに配置されている。ピラーやウインドーと前輪の間隔が離れており、ボンネットも長い。これは後輪駆動ならではのプロポーションだ。

3000mmというホイールベースを活かした室内。特に後席の広さは圧巻

全長は5030mm、ホイールベース(前輪と後輪の間隔)も3000mmに達して、全幅は1890mmとワイドだ。セダンだから全高は1475mmと低く、クラウンクロスオーバーの1540mm、クラウンスポーツの1565mmを大幅に下まわる。

その結果、クラウンセダンの外観は、伸びやかでスマートに仕上がった。SUVの3車種とクラウンセダンの外観を見比べると全然違う。

それなのにインパネの形状は、前輪駆動ベースのクラウンクロスオーバーやスポーツに合わせている。水平基調で、視認性や操作性も良い。ただしATレバーが収まるセンターコンソールは、駆動メカニズムの配置が異なるため、後輪駆動のセダンはSUVよりも高く設定されている。セダンはその分だけ乗員の囲まれ感も強い。

■高級車としての必然性を持ったボディ

効率とパワーを兼ね備えた2.5Lマルチステージハイブリッド

そもそもセダンは、後輪が収まる部分に独立したトランクスペースを配置したから、後輪が路上を転がる時に発するノイズも居住空間に侵入しにくい。クラウンセダンは燃料電池の搭載により、ノイズをさらに小さく抑えることができた。

クラウンセダンハイブリッドも同様で、遮音を入念に行ったから、直列4気筒のエンジン音を含めてノイズは小さい。しかもクラウンセダンは、全高が低いために重心も下がり、後席とトランクスペースの間には骨格が通るからボディ剛性を高めやすい。このセダンボディの特徴も、走行安定性、乗り心地、静粛性などに優れた効果をもたらしている。

クラウンは1955年に初代モデルを投入して以来、セダンボディを中心に発展してきた。この背景には、高級車とセダンの親和性が高いことも挙げられる。危険を避ける性能も含めて、安全で快適な高級車を開発する上では、セダンは必然性を伴ったボディ形状だ。

前輪を前寄りに配置した後輪駆動車らしいプロポーション

そのためにメルセデス・ベンツやBMWを始めとする欧州のプレミアムブランドも、従来と変わらずセダンを主力車種に据えている。特に高級車は、メルセデス・ベンツSクラスを見れば分かる通り、セダンが定番のスタイルだ。

今ではメルセデス・ベンツも、大量に売られる車種はSUVに移ったが、セダンも中核に位置する求心力的な欠かせない存在になっている。

同様のことがクラウンにも当てはまる。海外を含めて、市場のニーズに沿ってSUVを用意することは大切だが、ブランドを象徴するのはあくまでもセダンだ。

従ってクラウンクロスオーバー、スポーツ、今後登場するエステートを購入する時も、販売店でセダンを試乗しておきたい。クラウンブランドの伝統と新たな方向性が明確に示され、「クラウンの本質と選ぶ価値」を理解できるからだ。SUVに発展したクラウンが、敢えてセダンを残した意味もそこにある。

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