ACADEMIE DU VIN栽培面積が多いのに、注目度は今ひとつ?
野生とエレガンスを兼ね備えたシラーの魅力に迫る!
栽培面積は世界で第4位にもかかわらず、注目度は今ひとつのシラー。銘醸ワインの流通量が限定的であり、知名度もそれほどないからか、意識してオーダーする人は少ないのかもしれません。ブレンドされると“引き立て役”に回ってしまうという特性もあります。今回はシラーの特徴や醸造方法、産地に迫ります。知れば知るほどシラーの奥深さに魅せられ、じっくりと味わいたくなるはずです。
ブレンドされると引き立て役に回る
シラーの主な産地やクローンとは?
シラーといえば、「黒胡椒やベーコンの香り」「ジビエとよく合う」「ピノ・ノワールと混同するようなエレガンス」という印象をお持ちの方は多いでしょう。そんな方は、伝統的なシラーに長く親しまれているはずです。
シラーの栽培面積は、2015年には19万ヘクタール。黒ブドウではカベルネ・ソーヴィニヨン、メルロ、テンプラニーリョに次ぐ第4位です。にもかかわらず、シラーがこれまでカベルネ・ソーヴィニヨンやピノ・ノワールほどの名声を得ることができなかったのは、銘醸ワインの知名度、流通量に差があったからでしょう。
またカベルネ・ソーヴィニヨンとは異なり、ブレンドされると他品種の引き立て役に回ることが多く、注目度となると今ひとつ、というところがあります。
・栽培に適した気候
シラーのふるさとは北ローヌです。育成期間の平均温度は16℃から20℃弱。カベルネ・ソーヴィニヨンよりやや低い温度帯で栽培されています。暑すぎず、寒すぎずというのが、この品種が輝ける気候です。
シラーの樹勢は強く、芽吹きは遅く、成熟は中庸です。熟度が上がるに従って、胡椒などのスパイスの特徴から、ダークチェリーやプラムなどを煮詰めた果実風味へと変わります。
・古木からできるワイン
近年、乾地農法・灌漑なしで古木から造ったワインに人気が集まっています。古木からできるワインのメリットはさまざまにアピールされています。確かに凝縮感があり、深みのあるワインになる傾向があるでしょう。しかし、古木だから必ず品質のよいワインになるとは言い切れません。樹齢を重ねるに連れて、ブドウ樹の部位に病気を抱える可能性もあります。
・シラーのクローンとは
ローヌにおけるクローン選抜は、1960年代から政府主導で始まりました。収穫量の多さとアルコールの高さが生産者から好評価を得ています。
シラーには、『シラー・ディクライン』と呼ばれる特有の病害があります。幹が膨らんで台木に接ぎ木する部分でブドウ樹が割れ、葉が赤くなり数年後に枯れてしまいます。470、524、747というフランスのクローンはこの病気にかかりにくいとされています。470は、香り高くタンニンがしっかりした凝縮感のあるワインになります。フランス系ではこの3つを含めて9種類の認証されたクローンがあります。
オーストラリアにも数多くのクローンがあるほか、ニュージーランド、南アフリカにもそれぞれ有名なクローンが存在します。
使う・使わないでシラーの味わいが異なる
『果梗』とは何か?
シラーはどのように造られるのでしょうか。果梗(ぶどうのヘタや柄の部分)を使うとワインの骨格を強めますが、完全に果梗が熟していないとワインが青臭くなり、タンニンも粗くなります。1970年代以前には除梗機も広まっていなかったので、全房を使うことが普通でした。
1980年代以降になると、除梗をする生産者が増えました。しかし近年では、温暖化の影響もあり全房発酵が再評価されています。
除梗をせずコンクリート発酵槽で醸造し、大樽熟成をしてきた生産者も、除梗した後に梗を必要に応じて発酵槽に加えるようになってきています。しっかりと熟した果梗を使い、香りの複雑味やフレッシュさなどの長所を上手く表現するのです。
発酵温度は高めで、抽出をしっかり取ります。シラーの発酵温度は比較的高く、30℃以上も普通です。北ローヌでは野生酵母が用いられることも珍しくはありません。アントシアニンの含有量がとても多いので、抽出の仕方次第では深い濃い色合いのワインに仕上がります。
なお、ローヌ北部はシラーに白ブドウを加えることが認められています。コート ・ ロティで20%までヴィオニエを、エルミタージュでは15%までルーサンヌ&マルサンヌを加えられます。
また南ローヌでは、GSMと呼ばれるグルナッシュやムールヴェードルとのブレンド、あるいはカリニャンやサンソーも加えたブレンドが主流です。シラーをブレンドすることで、しっかりした酸とタンニンが生まれ、骨格と熟成可能性を与えるのです。
樽の熟成に関してはオークとの相性がよく、北・南ローヌではオークが一般的に用いられます。ただし近年は新樽、小樽の使用は控えめになり、古樽やフードルなどの大樽で繊細さや複雑性を狙うようになってきています。
冷涼なほどスパイスが強く、温暖だと濃厚に
産地の気候により香りが変わる
シラーの産地に目を向けてみましょう。フランスにおけるシラーの生産は、1970年代まではほとんどが北ローヌでした。北ローヌのAOP(原産地呼称保護)ワインは、黒ブドウはシラーのみの単一品種。少量の白ブドウの混醸はあっても、基本はヴァラエタルワインです。
エルミタージュ、クローズエルミタージュ、コート・ロティ、南ローヌなどが知られています。
オーストラリアでは、まずはハンターヴァレーで広く栽培されるようになり、1951年にペンフォールズのグランジが登場します。それと双璧を成すのがヘンチキのヒル・オブ・グレイス。バロッサ・ヴァレー、マクラーレン・ヴェールなども知られています。
南アフリカにシラーが伝来したのは1650年代頃と言われています。1957年のベリンガム・ワインズがヴァラエタルワインとしてのシラーズを世に出したのを機に、今では黒ブドウ品種のなかでは、カベルネ・ソーヴィニヨンに次いで第2位の生産量になりました。
カリフォルニアでは、ローヌ品種は混植で19世紀末から栽培されていたようです。本格的にシラーが植えられたのは1970年代のこと。1980年代以降に人気が高まりました。
ニュージーランドでは、北島の北東部のホークス・ベイで栽培されています。
栽培地域の気候が冷涼なほど、胡椒などのスパイス風味が強くなり、エレガントでしなやか、スミレなどの花の香りも生まれます。温暖になるに従って、プラム、チョコレート、甘草などの風味が強くなり、リッチで濃厚な仕上がりになります。
シラーに特徴的な香りは黒胡椒ですが、これは『ロタンドン』という物質が原因です。テルペン類の一種でセスキテルペンという芳香物質で、グリューナー・フェルトリーナーの白胡椒の香りの元でもあります。
シラーは栽培面積が多い割には、銘醸ワインが限定的であり、意識してレストランやバーで注文される方は少ないかもしれません。一方で、多彩な表情も持っています。ぜひとも産地の異なるシラーを飲み比べ、果実の熟し具合や香りの出方、熟成方法や樽の影響を感じてみてください。
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