Local activities in Wakayama地域のとりくみ「和歌山」:
高野山の聖域・奥之院と、そのさらに奥の森へ
Text:PONCHO
Photo:Naoki Ohoshi、PONCHO

Lifestyle

和歌山県・高野山の東端にある奥之院は、開祖・弘法大師が入定されている聖地。毎朝6時、そして10時半に食事をお供えする「生身供(しょうじんぐ)」が行なわれています。今回、生身供、続くお勤めの読経を拝観し、心身を浄化させたあと、奥之院のさらに奥の森林へとハイキング。1000年の静かな森が教えてくれたことをレポートします。

読経の声が心身に響く心地よさ

奥之院へと続く2kmの参道は、春の朝5時台ではまだ暗く、ようやく空が白みはじめた頃でした。樹齢1000年におよぶ大杉が林立。戦国武将の墓石、祈念碑、慰霊碑が並ぶ様子は、神秘的であり、異界を思わせる雰囲気です。

それもそのはず。参道入口の一の橋から弘法大師が鎮座する御廟までの間には、3つの川と橋があります。これらの川と橋を渡ることは、極楽浄土に導かれていることなのだそう。

そして1200年もの間、毎日欠かさず行なわれてきた弘法大師へお食事をお出しする儀式「生身供」。平日の早朝。まだコロナの影響も残る時期だったからか、その様子を見に来た人は少なく、10人程度。しかしだからこそ、その場に立ち会えることの意義を思います。

大師が入定されている御廟の手前にある燈籠堂に食事を届けると、間もなく読経。お経を聞きながら、ゆっくりと深呼吸。不勉強のためお経の意味は解せませんが、その声はとてもやさしく、心地よく、目を閉じて聞いていると、穏やかさが心身に満ちていきます。

朝のお勤めや阿字観という読経や瞑想の体験は、高野山にある宿坊でもできます。しかし、奥之院で行なわれる生身供、続く読経は、弘法大師がいらっしゃる御廟の前でのもの。早起きをして、薄暗い参道を歩いてきて浄土へと導かれてきた心身に、お経の響きは山の冷たい清水を飲んだかのような清冽さとやさしさが沁みわたるものでした。

50分ほどの読経後、燈籠堂を出て御廟へと向かうと、そこに一羽のキレンジャクが! 御廟へと案内してくれるようにチョンチョンと歩み、奥の森へと消えて行きました。奥之院の奥の森へと行く予定でしたが、「待っていたぞ」と歓迎されるように、私はその森へ向かいました。

高野山、千年の森へ

標高約800mの山上都市である高野山。周囲を1000m級の山に囲まれ、雨の多い環境でもあり、落雷によって寺院はたびたび火災に見舞われてきたそうです。

その再建、修繕に使う用材を自給するためヒノキ、スギ、アカマツ、コウヤマキ、ツガ、モミを高野六木と指定。建築、修繕以外での伐採を禁止して、1000年にわたり森林保護に取り組んできました。

2007年には、「高野山 千年の森」として森林セラピー基地に指定。毎年4月~11月土日祝日に、森林セラピー体験ツアーを開催。高野山の森を歩き、学び、気づき、目覚める機会を提供しています。

「森林セラピー体験ツアー」の詳細はこちらから。

奥之院の弘法大師御廟を中心に取り囲むようにそびえるのが、摩尼山、楊柳山、転軸山の高野三山です。聖域の奥にあり、高野山によって守られてきた森は、特別な空気が流れていることが、ジンワリと感じられます。

森の一角には苗畑と呼ばれる樹木の苗を育てる場所があります。森林セラピー体験ツアーで使用する囲炉裏が切られた山小屋が建てられ、ツアーでは、その周囲で瞑想をベースにした森林呼吸やハンモックに揺られて森のエネルギーを身体に取り込む時間を過ごすそうです。

訪れた前日は夕立で、かなりの強い雨でした。そこに朝から強い陽光が射し込み、大地に下りた雨は蒸気となって沸き立ち、木々の間で揺れる地霧になっていました。地霧は光を乱反射させ、森には神々しい輝きをあふれさせていました。

そのとき、この森にいたのは私ひとり。森の風景は1200年前とは変わってしまっているでしょう。しかし、往時に弘法大師が出合い、風景の一部になったその時間を、私も体験しているかのようでした。だから、その場でゆっくりと風景を見つめて、遠くの時間を感じるように過ごしたのです。

静けさは、時を超えて

高野三山を巡る女人道ルートという登山道の途中、奥之院に流れる玉川の畔に、大きなコケのような植物の群生地がありました。調べてみると、ヒカゲノカズラというシダ植物でした。しかもこの植物、4.2億年前の体制を保った世界最古の“生きた化石植物”だったことが、2020年に判明したそう。

この植物自体は、日本各地に分布していて珍しいものではないようですが、高野山千年の森で見た、なんともいえない不思議さは、悠久の時の流れ故だったのかもしれません。

2022年、高野山・金剛峯寺では、SDGsの取り組みの一環として、僧侶の山内移動用の公用車にトヨタの超小型電気自動車「C+pod(シーポッド)」の導入を始めています。将来的には高野山全体で取り組んでいくプロジェクトの一環として、3年間のリース契約を締結しました。

C+podは、CO2排出削減だけではなく、その静かな走行音も特長です。高野山という文化的、宗教的聖域、そして千年の森を抱く場所は、吹き抜ける風、梢の揺らぎ、小鳥のさえずり、小動物や昆虫の鳴き声に満ちた景色に戻る日が、近づいているのです。

千年の足跡と、未来への一歩を、奥之院とその奥の森で体感しました。

「地域のとりくみ」は、ゴールドカード会員誌およびE-book「Harmony」にて連載中です。下記よりログインいただくと、E-bookからご覧いただけます。

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