ファン・ゴッホの芸術が紡ぐ物語を日本で「ゴッホ展 家族がつないだ画家の夢」――2025年「ゴッホ・イヤー」に寄せて

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2025年、日本の美術界は「ゴッホ・イヤー」と呼ばれる特別な一年を迎えています。各地でファン・ゴッホをテーマにした大規模展覧会が相次いで開催される中、もっとも注目を集めているのが、ファン・ゴッホの作品が「なぜ今、私たちの前にあるのか」という問いを家族の視点から掘り下げた、「ゴッホ展 家族がつないだ画家の夢」です。同展は大阪市立美術館[7月5日(土)~8月31日(日)]を皮切りに、東京都美術館、愛知県美術館へと巡回します。

Text:Reico Watanabe
Edit:Yasumasa Akashi(pad)

2025年は「ゴッホ・イヤー」

鮮やかな色彩と力強い筆致、そして生涯をかけて芸術を追い求めたファン・ゴッホの人生は、今なお世界中の人びとを魅了しつづけています。2025年から2026年にかけて、ここ日本では、「ゴッホ展 家族がつないだ画家の夢」を始め、ファン・ゴッホに影響を受けた画家たちの作品から彼の価値を検証する「ゴッホ・インパクト―生成する情熱」(ポーラ美術館)や、ファン・ゴッホの名作《夜のカフェテラス(フォルム広場)》(1888年・油彩)が約20年ぶりに来日する「大ゴッホ展 夜のカフェテラス」(神戸市立博物館、福島県立美術館、上野の森美術館)など、各地でファン・ゴッホにまつわる展覧会が企画されています。

中でも、大阪・東京・愛知を巡回する「ゴッホ展 家族がつないだ画家の夢」は、わずか37年の生涯の中で制作された膨大なファン・ゴッホの作品群が、どのようにして現代まで伝えられてきたのか。その裏側にあった家族の知られざる物語に焦点を当てる、日本初の展覧会です。ファン・ゴッホの死後、彼の芸術が世界的に評価されるまでに、彼の弟テオ、その妻ヨハンナ(ヨー)、そして息子フィンセント・ウィレムが果たした重要な役割が、紹介されています。ファン・ゴッホの作品を後世に残すために、彼らがなぜこれほどまでに尽力したのか――。本展覧会を訪れれば、その答えにたどり着けることでしょう。

フィンセント・ファン・ゴッホ 37年の激動の人生

1853年、オランダ南部の牧師の家に生まれたファン・ゴッホは、伝道師としての聖職に着く夢を諦め、27歳のときに画家を志しました。当初は暗い色調で農民の姿を描いていましたが、1886年、弟のテオを頼ってフランスのパリに出て、印象派や点描技法を駆使した新印象派の作品を初めて目にすると、新しい色彩と筆遣いを取り入れ、独自のタッチを生み出します。ファン・ゴッホが日本の浮世絵に慣れ親しんだのもこの時期でした。

1888年、南フランスに移ったファン・ゴッホは、自らユートピアと称したアルルで過ごし、色彩の対比と激しい筆触による表現を打ち立てていきました。その後、有名な「耳切り事件」のあとにポール・ゴーガンとの共同生活が破綻を迎えると、精神状態の悪化から、サン=レミの療養院に入院。1890年には、パリ近郊のオーヴェール=シュル=オワーズへと移住し、新たな表現を模索するも、37歳のときに自らの胸にピストルを発砲。その2日後に生涯を閉じました。

家族がつないだ奇跡のコレクション

ファン・ゴッホの画業を支えたのは、弟テオの存在でした。兄の死からわずか半年後にテオもこの世を去りますが、その後、テオの妻ヨーが膨大なコレクションを託されます。ヨーは、義兄フィンセント・ファン・ゴッホの名声を高めるため、作品を展覧会に貸し出し、販売し、また膨大な手紙を整理して出版するなど、人生をかけて奔走しました。

さらに、テオとヨーの息子フィンセント・ウィレムは、コレクションの散逸を防ぐため、フィンセント・ファン・ゴッホ財団を設立し、アムステルダムにファン・ゴッホ美術館を開館させます。ファン・ゴッホは生前ほとんど評価されておらず、弟テオの献身、義妹ヨーの情熱、そして甥のフィンセント・ウィレムの尽力がなければ、今日のファン・ゴッホ人気はあり得ませんでした。

初期から晩年までの名作と日本初公開の手紙

「ゴッホ展 家族がつないだ画家の夢」では、ファン・ゴッホ美術館の所蔵品を中心に、30点以上のゴッホ作品が来日します。ファン・ゴッホがパリで絵を勉強していた頃に描いた自画像《画家としての自画像》や、ゴーガンと共同生活を送っていた時代に描いた《種まく人》、最後の制作地オーヴェールで描いた《麦の穂》など、初期から晩年までの軌跡をたどる作品が一堂に会するほか、2006年に新たに発見されたファン・ゴッホの貴重な手紙4通も日本初公開されます。

ファン・ゴッホは、自作の構図や色彩、モチーフに、日本の浮世絵のエッセンスを取り入れていたことでも有名ですが、同展では彼が所有していた浮世絵版画「三代歌川豊国(歌川国貞)《花源氏夜の俤》」や、ポール・ゴーガンの《雪のパリ》などの作品も、あわせて紹介されます。ファン・ゴッホの芸術をさらに深く理解するための大きな手がかりとなり得ることでしょう。

家族が守り受け継いできたコレクションを通じて、ファン・ゴッホの芸術とその背景にある人間ドラマを体感できるのが、「ゴッホ展 家族がつないだ画家の夢」の最大の魅力です。人びとの心を癒す絵画に憧れ、100年後の人びとにも自らの絵が見られることを夢見ていたファン・ゴッホ。その夢は家族の愛と努力によって現実となり、今も私たちの心を打ちつづけています。

国や世代を超えてゴッホが愛される理由

ここ数年、ファン・ゴッホの作品を題材とする没入体感型デジタルアートも各地で人気となっていますが、同展においても、幅14メートルを超える空間で体感するイマーシブ・コーナーを実現。《花咲くアーモンドの枝》など、ファン・ゴッホの代表作が巨大スクリーンに高精細画像で投影されるほか、3Dスキャンを行ってCGにした《ひまわり》(SOMPO美術館蔵)の映像も上映されるのだそう。最先端技術によりデジタルアートに変換され、令和の日本の若者たちの心さえも掴んでいるように、ファン・ゴッホの美の表現は時代を超え、日本人の感性に強く響きます。困難の中でも芸術を追い求めた彼の不器用で誠実な生き方が、多くの日本人の共感を呼んでいるのです。

2025年は、ファン・ゴッホの芸術とその伝承の物語にじっくりと向き合う絶好の機会。ファン・ゴッホの軌跡は、現代を生きる私たちにも、新たな希望と勇気を与えてくれることでしょう。あなたも、「ゴッホ展 家族がつないだ画家の夢」を、ぜひ訪れてみてください。


「ゴッホ展 家族がつないだ画家の夢」

大阪会場
会期:2025年7月5日(土)〜8月31日(日)
会場:大阪市立美術館(天王寺公園内)
開館時間:9時30分~17時、土曜日は19時まで(入館は閉館の30分前まで)
休館日:月曜日、7月22日(火)
※7月21日(月・祝)、8月11日(月・祝)、8月12日(火)は開館

東京会場
会期:2025年9月12日(金)~12月21日(日)
会場:東京都美術館・企画展示室
開館時間:9時30分~17時30分、金曜日は20時まで(入室は閉室の30分前まで)
休館日:月曜日、9月16日(火)、10月14日(火)、11月4日(火)、11月25日(火)※9月15日(月・祝)、9月22日(月)、10月13日(月・祝)、11月3日(月・祝)、11月24日(月・休)は開室

名古屋会場
会期:2026年1月3日(土)〜3月23日(月)
会場:愛知県美術館
※開館時間、休館日などは未定

URL:https://gogh2025-26.jp/

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