深くて広い“ギアの世界”に最適解堀越良和の「クラブ選び、もう迷わせません」Vol.5
~ウェッジの替え時はいつ?~

スウィング向上とともに、スコアアップに欠かせない「自分に合ったクラブ選び」。とはいえ、巷には新製品があふれていて、正解にたどり着くのが難しい。また、各メーカーが特長に挙げるクラブ用語についても、一般アマチュアは知っているようで実はあまり知らなかったりする。クラブに精通する堀越良和プロにわかりやすく解説してもらい、「自分に合ったクラブ選び」をマスターしよう。
撮影協力/クレアゴルフフィールド
溝が減ると距離が不安定になる
季節は春、待望のゴルフシーズン到来です。シーズンインに向けて、クラブを新調しようと考えている方もいらっしゃると思います。
そこで今回は、ウェッジを買い替えるタイミングについてお話しします。
ウェッジに限らずクラブは、使っているうちに経年劣化し、溝も摩耗してきます。
人気クラブメーカーの「タイトリスト」ではウェッジの替え時の目安として、「70ラウンド」を推奨しています。ラウンド数も練習量も多いツアー選手の場合は、だいたい年間に4本くらいチェンジします。
もっとも、溝の摩耗によるものではなく「異なるグラインドを求める」という理由もあったりするのですが、「サンドウェッジ、ロブウェッジなどロフトの多いものは年間3本くらい、それより下の52度とか54度になると2本、46度前後のピッチングウェッジは年間1本のペースで取り替える」とあるメーカーのツアーレップ(試合会場で選手の要望を聞き、クラブ調整などを行う用具担当スタッフ)から聞いたことがあります。
なぜツアー選手は頻繁にウェッジを替えるのか。「溝が減ってスピンがかからなくなるから」と答える方が多いと思いますが、スピンがかからなくなる原因は、「打点が変わってくる」ことによる影響が大きいのです。
スピンをかけるには、適正な入射角でクラブが下りてきて、芯もしくは芯よりも少し下でコンタクトする必要があります。
その際にギア効果が働き、芯より下に当たるとヘッドはロフトが立つ方向に回転するため、打ち出しはロフトより低くなり、スピンもしっかり効きます。
ところが、打点の部分の溝が減ってくると、溝がボールをクッと“噛む”ことができず、ボールがフェース上を滑るので打点は芯よりも上側になります。ボールが芯より上に当たると、ヘッドはロフトが寝る方向に回転してロフト以上に高く上がり、なおかつスピンは少なくなります。
つまり、打ち出しが高くなり、スピンがかからないフライヤーのような球が出てしまう。コントロールショットを打ちたい時に、ボールが転がって止まらずに飛び過ぎるといった状況が起こりやすくなるというわけです。
溝が減ると、スピンがかからないだけではなく、タテ距離がばらつく不確定要素が増えることを理解してほしいと思います。

ウェッジメーカーの実験でも差が出た
目安は70ラウンドでも、ゴルフに熱心に取り組む方は練習でも打つので、実際の寿命はもっと短くなることが考えられます。
それでは、寿命を迎えたウェッジでは、どのくらいコントロールしにくくなるのか。
タイトリストのボーケイ研究開発チームが行った実験をご紹介します。
ロボットを使用し、溝の摩耗レベルを3段階でテストしたところ、溝が新しいウェッジのほうがショットの精度が高いという結果になりました。
3段階の摩耗レベルとは「新品」「75ラウンド使用」「125ラウンド使用」です。
新しいウェッジは、125ラウンド使用したものよりもスピン量が最大2,000回転/分多く、打ち出し角は低く、ランは半分以下でした。

②75ラウンド:打ち出し角34度・スピン7,400回転/分・ラン約5.5メートル
③新品:打ち出し角33度・スピン8,500回転/分・ラン約3.0メートル
溝の減り具合によるランの差は明らかだ。
(※画像はタイトリストHP【US】掲載の実験データより)
パーオンしない人ほどウェッジは重要
実際に、私も打ち比べてみました。
用意したクラブは、タイトリスト「SM9」の56度・バウンス12度・Dソール。1本は新品、そしてもう1本が80ラウンドしたものです。
15ヤードと30ヤード、50ヤードのアプローチを2本のウェッジでそれぞれ数球打ち、弾道計測器トラックマンでデータを計測しました(使用ボールはプロV1x)。

距離が長くなるほど両者の差がはっきりと出ました。30ヤードのアプローチでは300〜500回転/分ほど、50ヤードになると1,000回転/分前後、新品のほうが多くスピンがかかりました。新品のほうが打ち出し角が低く、ランは少ない傾向にあり、タイトリストの実験データと同じ結果になりました。
また、タテ距離のばらつきも新品のほうが少なく、安定していました。

写真はトラックマンでの計測データ比較(30Y)
写真上が旧品、下が新品のクラブ。

こちらは目標距離を50ヤードに伸ばした計測データ。同様に写真上が旧品、下が新品のクラブ。
上記データを見てわかるように、新品のほうがスピン量は多く、打ち出し角が低く、ランが少ない傾向が顕著だった。また、距離も安定していた。
尾崎将司選手が初めて平均ストローク69点台(69.900)をマークしたのは1990年ですが、平均パット数は28点台(28.7500)でした。
69ストロークから28パットを引いたショット数は41。すべてパーオンすれば36ショットですから、単純計算ではジャンボさんでも1ラウンドで5回グリーンを外した(=ウェッジを使用した)ことになります。
それ以外に、2オンを逃したパー5の第3打でもウェッジを使うので、パー5が4ホールあるとすれば合計9回はウェッジの出番が来るわけです。
私も1ラウンドでだいたい10回以上使いますし、スコアが悪い時は12〜13回にもなります。
アベレージゴルファーになれば、もっと使う機会が多いでしょう。
性能を発揮できなくなったウェッジではスコアメイクにつながりません。皆さんもこれからは、もっとウェッジにこだわることをおすすめします。

堀越良和(ほりこしよしかず)
某ゴルフ雑誌社で四半世紀にわたり試打企画を行っており、「キング・オブ・試打」のニックネームを持つ。ゴルフスウィングと人体に関する研究に特化した世界有数の教育機関である「TPI(タイトリスト・パフォーマンス研究所)」の最高位「ゴルフレベル3」を取得。クラブメーカーの開発に携わった経験もある(公社)日本プロゴルフ協会会員。クレアゴルフフィールド所属。
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