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underground spaceおとなのための社会科見学
“地下空間”に隠された秘境──

Travel

画像提供:国土交通省江戸川河川事務所

日本、そして世界には、私たちが暮らす地上から、想像もつかない地下のワンダーランドが存在します。訪れるだけで息をのむスケール、人為的につくられた偉業の驚き、そして知られざる歴史やカルチャーの発見……。そのすべてが同時に体感できる地下空間の秘境は、まさに未知の体験を得る最高のフィールド、大人のための社会科見学といえます。

文明の進化とともに発展した地下世界

人類はその進化の歴史とともに資源の採掘や弾圧からの避難所として、地下空間を利用してきました。やがてそれは都市部への人口集中を背景に、交通や通信、エネルギーといった都市インフラ整備の空間、そして礼拝堂などの宗教施設として各国の歴史を支えてきました。

例えばフランス・パリでは紀元前1世紀の頃から地下で石灰岩などが採掘され、拡大しながら18世紀後半には無縁仏の納骨場「カタコンブ・ド・パリ」となり、約600万体の遺骨が埋められました。

さらに、36もの地下都市があり、その中には2万人を収容できる巨大都市もあったといわれているトルコの「カッパドキア」、1990年代まで最深部の地下7階にわたり地下生活者が暮らしていたアメリカ・ニューヨークのメトロ地下都市など、地下空間は世界の文化・歴史と切っても切り離せない存在です。

カッパドキアは世界遺産でも数少ない複合遺産として登録されている。Photo:Musik Animal

我が国日本でも、都市部の開発地域の過密化や地価の高騰などから、地下に新たな土地を求めた都市計画やエネルギー資源の採掘など、近代化とともに開発された知られざる空間が各地に存在します。そのなかでも、圧倒的な迫力で五感に訴えかけ知的好奇心を満たす、知られざる秘境を紹介します。

知る人ぞ知る国内の地下空間を旅する

●首都圏外郭放水路

埼玉県春日部市の自然豊かな郊外に位置する江戸川沿いのサッカー場。一見、なんの変哲もない長閑な風景ですが、その地下50mには延長6.3kmに及ぶ世界最大級の地下放水路が隠されています。

高さ18mの柱が天井を支えている。画像提供:国土交通省江戸川河川事務所

この「首都圏外郭放水路」は、中川、倉松川、大落古利根川など中小河川の洪水を地下に取り込み、全長6.3kmにも及ぶトンネルを通して江戸川に排水する放水路。中川、綾瀬川流域の地盤が低く大雨のたびに浸水被害を起こしていたことから平成5年から工事が始まり、日本が世界に誇る土木技術を結集し、13年の歳月をかけて完成しました。

河川の洪水は第1から第5まで設置された最大内径30m、深さ70m前後の巨大な立坑(たてこう)から地下水路を通って調圧水槽へと流されます。

深さ約72mの第1立坑。画像提供:国土交通省江戸川河川事務所

調圧水槽は、地下放水路から流れてきた水の勢いを緩め、ポンプを使って江戸川へスムーズに水を流すため、地下約22mの場所につくられた長さ177m、幅78m、高さ18mにもおよぶ巨大水槽。重さ500tの柱が59本もそびえ立つ広大な空間には荘厳な空気が漂い、まさに“地下神殿”と呼ぶべきもの。

首都圏外郭放水路は(公社)土木学会の「平成14年度土木学会賞技術賞」を受賞している。画像提供:国土交通省江戸川河川事務所

そこから最大で1秒間に25mプール1杯分の水が排水できる巨大ポンプ、排水樋管を経て洪水を江戸川に排水します。この「首都圏外郭放水路」は、国内の各メディアだけでなく海外からも視察や取材が行われ、その高い技術と機能美が注目を集める世界でも類をみない地下施設。地下神殿「調圧水槽」をはじめ、大迫力の「立坑」、そしてこれまで非公開だったポンプ室など、3つのコースの見学会で体感できます。

●大谷資料館

栃木県宇都宮市の郊外に位置する大谷(おおや)地区は「大谷石」で名高い地域です。柔らかく、加工がしやすいだけでなく耐火性、防湿性にも優れている大谷石は、古くより外壁や土蔵などに使用されてきた建材。この地域では江戸時代中期から採掘が本格的に行われてきましたが、1979年、その採石場跡に学習・観光施設として開設されたのが「大谷資料館」です。

館内では、大谷の地質にはじまり大谷石の採掘の歴史、採掘方法などが紹介されていますが、圧巻は「地下採掘場跡」。

手掘り時代には150kgもある石を1本1本背負って採掘場から運び出していた。

坑内に入ると、目の前に広がるのは地下とは思えない圧倒的なスケールの絶景。一般の人々の目に触れることなく“未知なる空間”と呼ばれたこの壮大なスペースは、広さ約20,000㎡、深さは最深部で60mにも及び、古代ピラミッドの中に迷い込んだような錯覚にとらわれます。

石肌には手掘り時代のツルハシの痕が残り、年輪のような重さが感じられる。

名建築家であるフランク・ロイド・ライトを魅了し、最高傑作と称される「旧帝国ホテル本館」にも使用された大谷石を約1000万本切り出して造られたこの空間は、ところどころライトアップされ、神秘的かつロマンティック。通常展示の他、アート作品のインスタレーションやコンサートなどの催しや、映画やCMをはじめとする映像作品、著名アーティストのミュージックビデオの撮影などにも使用されています。

●さんべ縄文の森ミュージアム

島根県の中央部に位置する標高1126mの活火山、三瓶山(さんべさん)。この火山は縄文時代の森を現代に伝える奇跡を演出しました。約4000年前の噴火が山麓に茂る巨木の森を地中にとじ込めたのです。縄文の森の名は三瓶小豆原埋没林。この森を展示する「さんべ縄文の森ミュージアム」では、立ち並ぶ巨木に出会うことができます。

三瓶小豆原埋没林を発掘状態で展示する「縄文の森発掘保存展示棟」

のどかな里山の一角にある地下ドームへの入口。その先に広がる光景は想像を超えるものです。階段を下りると眼前に現れる地下空間には巨木が堂々とそびえ立ち、大きなものは幹の高さが約12メートル。これほどの規模で残る太古の森は世界的にも珍しく、展示公開されているものとしては国内外を見渡しても他に例をみません。

不思議な形状をした根株を展示する「根株展示棟」

今もなおみなぎる生命力を感じさせる木々は、悠久の時が育んだ縄文の森林の壮大さを如実に表し、それを一瞬で地中に閉じ込めた火山の圧倒的な力を物語っています。

■海外で味わえる地下空間の秘境を覗いてみましょう。

驚愕の大スペクタクル空間で満喫する遊園地や「美術館」と称される駅舎、膨大な数の大理石の柱が整然と並ぶファンタジックな宮殿──。
世界には、地上からは想像もできない唯一無二の地下空間が各地に存在します。
ここからは、日本以外のユニークな地下空間を覗いてみましょう。公共空間から地下宮殿、ワインセラーまで、唯一無二の地下空間を覗いてみましょう。

●サリーナ・トゥルダ(ルーマニア)

地下約400mの最深部。Photo:Xseon/Shutterstock.com

ルーマニアの田園風景が広がる第3の都市、クルージュナポカの地底にあるアミューズメントパーク。国内最大の岩塩坑跡を再利用してつくられた地下120mの空間には観覧車や卓球場、パターゴルフ場、コンサートホールまで揃う、複合エンターテインメント施設になっています。さらに地下400mの最深部には塩湖が広がり、ボートでの遊覧が楽しめる、まさに地底のワンダーランド。

●モスクワ地下鉄(ロシア)

キエフスカヤ駅のカラフルに輝く光景は、まるで教会のよう。Photo:Phuong D.Nguyen/Shutterstock.com

ロシアの首都・モスクワの地下深くには、スターリン統治下の1930年代に開業した“美術館”と称される地下鉄駅舎があります。戦後から現代にかけて広がった路線は総延長300km超。15の路線が地下を走り、それぞれ個性の異なるアーティスティックな装飾で彩られています。

●バシリカ・シスタン(トルコ)

バシリカ・シスタンは1985年より一般公開されている。Photo:Epic Stock Media/Shutterstock.com

世界遺産に登録されているイスタンブールの歴史地区にある通称“地下宮殿”。東ローマ帝国時代最大の貯水槽の跡地であるここは、長さ138m、幅65mの広大な空間に高さ9mの大理石円柱が整然と並ぶ異世界。名作映画の舞台としても使用されています。

●ミレスチ・ミーチのワインセラー(モルドバ共和国)

専門のガイドによるツアーで巡ることもできる。Photo:Stan/Shutterstock.com

ルーマニアとウクライナに挟まれた東欧の小国・モルドバ共和国が誇る世界最大のワインセラー。同国は7000年のワイン醸造の歴史があるといわれ、国営企業である「ミレスチ・ミーチ」が1960年代に閉山した石灰岩鉱山の跡地にワインセラーを建造しました。総延長240kmに及ぶ地下都市空間に保管されているボトルはなんと約200万本。

このように国内外問わず、果てしなく広がるスケールに驚かされます。知られざるカルチャーを体験しながら新たな知の

■首都圏外郭放水路

gaikaku.jp
※見学会の開催スケジュールおよび開催コースはホームページにてご確認ください
(2021年2月現在、ポンプ室見学コースは休止中)

■大谷資料館

www.oya909.co.jp

■さんべ縄文の森ミュージアム(三瓶小豆原埋没林公園)

www.nature-sanbe.jp/azukihara/

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Harmony Digital Magazine Vol.02 / 2021.02 特集「New Challenge」

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