New style libraryもはや知のテーマパーク!
“ニュースタイル図書館”を巡る旅
Photo/Nacasa & Partners

美しい建築、特徴ある蔵書、魅力的なコンセプト……、従来の図書館のイメージを覆すような新しいスタイルの図書館が近年増加しています。1日中いたくなるような居心地の良い図書館や、思わず写真に収めたくなるようなデザインコンシャスな図書館もあり、もはやそこは知のテーマパーク。今回は、そんな全国の“ニュースタイル図書館”をご紹介します。
美しい建築やおしゃれなカフェまで
見どころたくさん! 次の週末は図書館へ
本を読んだり勉強したりするのに便利な図書館。最近では、遠方からわざわざ訪れたくなるような、美しい建物の図書館が増えています。本を借りたり閲覧したりというのはもちろんのこと、カフェが併設されていて、借りた本をゆっくり読むことができたり、展望スペースから街を一望できたり、ということも。地域の情報拠点として、街の情報を収集できるスペースや、運動ができるオープンスペースが併設されている図書館もあります。
今回は、全国でも特に有名なニュースタイル図書館を厳選してご紹介。建築の見どころや開館情報まで網羅してお伝えします。
まるでケーキの箱!?
国内外から高い評価を受ける『金沢海みらい図書館』
石川県金沢市
JR金沢駅から車で15分ほどの場所にある『金沢海みらい図書館』は、白くて四角い外観が特に目を引く図書館です。シーラカンスK&H 堀場 弘氏と工藤和美氏の建築家ユニットが手がけた建築で、設計のコンセプトは「開けたときに『わっ!』とうれしくなるような『ケーキのハコ』」。高さ12メートルの空間は広々とした開放感にあふれており、大小約6000個の丸い窓からは、日差しが柔らかく差し込みます。

斬新なデザインは、アメリカの旅行ガイド・フォダーズで「世界の魅力的な図書館ベスト20」に選ばれたほか、国内外の建築賞も受賞しています。CMにも使われたことがあるので、見覚えがあるという方もいるかもしれません。
建築家の工藤和美さんは著作の中で、「大きなひとつの箱全体がぼんやりとした拡散光に包まれて、そこで落ち着いて本を読むというイメージを追求した」とこの建物について振り返っています。窓は開閉ができないつくり。外気は、潮風の塩分を取り除くフィルターを通り、天井部分の排気口から取り込まれ、30分ほどで館内の空気が入れ替わる仕組みだといいます。
「やはり、3階の地域情報フロアの学習席で吹き抜けを視界に入れながらの読書はおすすめです。ご来館の折には寛げる読書スペースを見つけていただき、読書を楽しんでいただけると嬉しいです」と話すのは、金沢海みらい図書館 館長の安江貴子さん。ただし現在、館内での撮影はできないので注意が必要です。

吹き抜けのあるスペースでは、人々の往来やざわめきを心地よく感じることができます。
勉強や読書もとりわけはかどることでしょう。
お天気の良い日には、外に出て読書をしてもいいかもしれません。
図書館の外には芝生広場が広がり、季節の花や美しい緑が目を楽しませてくれます。
蔵書は約31万冊。図書館周辺が北前船の寄港地であったことから、日本海や郷土史の資料が充実しています。また地域の交流施設としての機能もあり、海やものづくりに関するイベントなどがホールや会議室で行われています。

車が好きな方のために、金沢海みらい図書館からおすすめの本を紹介してもらいました。
●『雨の日には車をみがいて』五木寛之/著(集英社)
「金沢ゆかりの作家・五木寛之氏の連作短編集。懐かしの名車が、物語に深く関わっています」(同館司書)
建築を眺めながら、車に乗るのがもっと楽しくなる本を探してみてはいかがでしょうか。
格調高い建築で明治に思いを馳せる
『大阪府立中之島図書館』
大阪府大阪市
都心のオアシスとして名高い中之島公園や、科学館、美術館などが並ぶ大阪・中之島。そこでひときわ目を引くのが、クラシカルで優美な建物の『大阪府立中之島図書館』です。
開館はなんと1904(明治37)年。第15代住友吉右衛門氏の寄付によって造られました。現在はビジネス支援、大阪資料・古典籍中心に特化した図書館になっています。外観はルネッサンス様式を、内部空間はバロック様式を基本とした、格調の高い建築です。コリント式円柱に支えられる正面はギリシャ神殿を思わせます。

美しいカーブを描く青銅製の円型ドームは、大阪府立中之島図書館を象徴する意匠。ドームを見上げる吹き抜けの空間には、大階段が巡らされています。ドームの最上部の円形窓に嵌められているのはステンドグラスで、美しい光が差し込みます。階段や回廊の部材には、国産の木材が使われているのも特徴的です。大理石などではなく木材であるところに、日本らしさが感じられます。

本館および左右両翼の2棟は国の重要文化財に指定されています。中央ホールギャラリー上部のフリーズ(中間帯)には、本館を新しい八聖殿になぞらえて、菅原道眞、孔子、ソクラテス、アリストテレス、シェイクスピア、カント、ゲーテ、ダーウィンの八哲の名が記されています。
中之島図書館ではガイドツアーを行なっており、毎週土曜日に1日3回開催されているので、建築に興味のある方は参加してみてもいいかもしれません。
蔵書は約63万冊。ビジネス街が近いことから、各種データベースやビジネス関連の書籍・専門誌が充実しています。無線LANも利用できるので、仕事で調べたいことがある際などに立ち寄るのも便利です。また、大阪の郷土史や日本の古典籍も多く、大阪の街に興味がある方にもおすすめです。

図書館の2階には、北欧の伝統的な家庭料理であるオープンサンド「スモーブロー」が楽しめる「スモーブローキッチンナカノシマ」があります。信頼できる生産者から取り寄せた食材を使った、体に優しい料理を提供しています。食後にくつろぎながら、借りてきた図書を開いてみてもいいかもしれません。
美しい建物の中で、明治に思いを馳せながら古典籍に親しむ。一味違った週末を過ごしませんか。
これぞニュースタイルのパイオニア!
『武雄市図書館・歴史資料館』『武雄市こども図書館』
佐賀県武雄市
佐賀県にある『武雄市図書館・歴史資料館』『武雄市こども図書館』は、画期的な図書館として、一度は耳にしたことがあるかもしれません。TSUTAYAなどを展開するカルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社がプロデュースから運営までかかわり、図書館を中心とした新たなライフスタイルを提案しています。

2013年に『武雄市図書館・歴史資料館』が受章したグッドデザイン賞では、「資料収蔵や図書貸出の場といった従来の図書館像にしばられず、図書館、書店、カフェが一体的に融合することで、コーヒーを味わいながら館内の本を自由に読め、勉強も仕事も会話もできるなど、様々なライフスタイル・ステージの市民にとって居心地の良い場と新たなコミュニティを創出している」と評価されています。
館内の書棚、カウンターなどには木製の什器を使用していて、ぬくもりのある雰囲気が感じられます。カフェで買った飲み物を飲みながら本の閲覧も可能。図書館にありがちな敷居の高さも取り除いています。また図書館カードは手持ちのTカードに図書貸出機能を登録し、使うことができます。
「正面入り口から入ると一面に本が並んでいる書架が一番に目に入ります。来館された方から「すごい!」とお声もいただきますし、入り口横のフォトスポットで撮影される方も多いです。奥にある文学コーナーは、館内のBGMが聞こえない構造になっているので、たくさんの本に囲まれた空間で静かにゆっくり読書を楽しむことができます」(武雄市図書館・歴史資料館広報担当)。

歴史資料館と複合施設で、館内にはこの地を治めていた鍋島氏から寄贈を受けた1万6000点を超える資料をはじめ、武雄市の歴史を語る数々の資料を収蔵しています。日本の近代化の先駆けとなった2224点の国重要文化財「武雄鍋島家洋学関係資料」や、戦国大名の書状などがあり、企画展を年に数回開催しています。
2017年には、併設の『武雄市こども図書館』もオープン。子どもの好奇心を育み、学びを喚起する仕掛けが随所に施されています。こちらも、2020年のグッドデザイン賞を受章しています。

車好き、また武雄市の郷土史に興味にある方に向けておすすめの本を紹介してもらいました。
●『日本の乗用車図鑑シリーズ 全4巻』自動車史料保存委員会/編(三樹書房)
「日本車メーカーの乗用車が200台以上も掲載されており、車好きの方は懐かしさも感じながら楽しめる内容だと思います」
●『佐賀偉人伝シリーズ 全15巻』(佐賀県立佐賀城本丸歴史館)
「佐賀藩主・鍋島直正や大隈重信、江藤新平など幕末から明治にかけて活躍した佐賀の偉人が紹介されています」(同館司書)
ニュースタイル図書館のパイオニア的存在といえる同館。図書館の「いま」に触れる時間を楽しんでみてはいかがでしょうか。
児童書ならここに行きたい
『国立国会図書館 国際子ども図書館』
東京都台東区
東京・上野に、児童書を集めた国立図書館があるのをご存知でしょうか。『国立国会図書館 国際子ども図書館』は、国内外の児童書とその関連資料約70万点を所蔵する図書館です。

出典: 国際子ども図書館ウェブサイト
この建物のレンガ棟は、1906(明治39)年に帝国図書館として建てられた、明治期ルネサンス様式の建物を保存・再利用したもので、東京都の歴史的建造物に選定されています。正面は、緩いアーチの大きな窓が特徴で、外壁は明灰色の白丁場石(安山岩の一種)とベージュ色のフランス積みで積まれた化粧煉瓦(ゴマ掛け煉瓦)が印象的です。毎週金曜日、土曜日の夜間(日没から21時まで)にはライトアップを行っています。

出典: 国際子ども図書館ウェブサイト
1階の床から天井まで約20メートルの吹き抜けとなっている大階段は、見どころのひとつ。鋳鉄製の階段の手すり、シャンデリア、ケヤキの扉は、創建当時から使い続けられています。
レンガ棟1階の「子どものへや」は、主に小学生以下を対象とした閲覧室。時代を超えて読み続けられている、親にとっても懐かしい絵本が並びます。子どもの背の高さに配慮して、低い位置に書棚があります。
2階には、明治から現代までの日本の子どもの本の歩みをたどる常設の展示室「児童書ギャラリー」があり、児童文学史、絵本史について、各時代の特色や代表的な作品などを紹介しています。およそ1000冊の展示資料を手に取って閲覧できるのも魅力です。
2015年に完成したアーチ棟は、全面ガラス張りのカーテンウォールで開放感にあふれています。屋上にはソーラーパネルや緑地帯があり、雨水の再利用も行うなど、環境に配慮。アーチ棟には、児童書の調査・研究をするための「児童書研究資料室」や研修室などがあります。

出典: 国際子ども図書館ウェブサイト
「当館の中庭にはテラス席があり、天気の良い日にはカフェテリアで購入されたランチや軽食を食べることができます。散策とまではいきませんが、開放的な雰囲気の中庭となっています」と話すのは、国際子ども図書館 企画協力課 広報係の坪井伸樹さんです。中庭を囲むように建物が配されているので、ランチを食べながら建築をじっくり鑑賞するのもよさそうです。
2022年5月22日まで、レンガ棟を中心に国際子ども図書館の建物の魅力を紹介する展示会「上野の森をこえて図書館へ行こう! 世紀をこえる煉瓦(レンガ)の棟」が開催されています。建築に興味がある方はぜひ訪れてみてください。
また、主に小学生以下の子どもを対象とした「子どものへや」では、子どもが本を手に取りやすいように、季節やテーマに応じた小展示を行っています。現在開催中の小展示は「ぼうしの本」(5月31日まで)。帽子が出てくる本をピックアップして紹介しています。こうした工夫のある展示が、新たな本とへと導いてくれます。
どの図書館も、美しい建築と特色のある蔵書で、時間を忘れて長居をしてしまうはず。お天気のいい日はもちろん、雨の日も楽しめるので、週末に訪れてみてはいかがでしょうか。
<金沢海みらい図書館>
石川県金沢市寺中町イ1番地1
TEL:076-266-2011
開館時間:10時~19時(土・日祝日は10時~17時)
休館日:水曜(祝日は開館)、6・12月の特別整理期間、年末年始
アクセス:金沢駅から車で約15分<大阪府立中之島図書館>
大阪府大阪市北区中之島1-2-10
TEL:06-6203-0474
開館時間:9時~20時(土曜は9時~17時)
休館日:日・祝日、3、6、10月の第2木曜日、年末年始
アクセス:Osaka Metro淀屋橋駅より徒歩4分<武雄市図書館・歴史資料館><武雄市こども図書館>
佐賀県武雄市武雄町大字武雄5304番地1
TEL:0954-20-0222
開館時間:9時~21時
休館日:なし
アクセス:JR武雄温泉駅より徒歩15分<国立国会図書館・国際子ども図書館>
東京都台東区上野公園12-49
TEL:03-3827-2053
開館時間:9時30分~17時
休館日:月曜日、祝日(5月5日のこどもの日は開館)、年末年始、第3水曜日(資料整理休館日)
アクセス:JR上野駅より徒歩10分
駐車場:なし