The story of inventor “Sakichi Toyoda”発明家「豊田佐吉」の物語。
「世の中に役立つこと」を目指した創立の精神
日本を代表する企業であり、世界の自動車生産を牽引するトヨタグループ。その創業者、豊田喜一郎の父である豊田佐吉は、明治・大正期に稀代の発明家として日本の産業界にイノベーションを起こし、トヨタグループの礎を築きました。その知られざる物語と佐吉の不屈の精神と軌跡を体感できる「豊田佐吉記念館」を紹介します。
日本の産業に革命を起こした研究と創造の精神
トヨタの始祖、豊田佐吉は1867年(慶応3年)、遠江国敷知郡山口村(現在の静岡県湖西市)に父・伊吉、母・ゑいの長男として生を受けました。農業のかたわら、生活のために大工として働き、腕のよい職人として信頼を集めていた父の後を継ぎ、佐吉は大工になりましたが、その頃は明治という国をあげて近代化が推進され始めた激動の時代。
「世の中に役立つことがしたい――」
そう大志を抱きながら模索していた佐吉が、母が手織機で布を織る重労働に苦労している姿をみて、織機の発明を志したことは今も語り継がれるエピソードです。
佐吉は、1890年(明治23年)、東京で開催されていた内国勧業博覧会で外国製織機を見て、感銘を受けながら「外国に負けない日本製の機器を発明したい」と奮起。独力で「豊田式木製人力織機」を完成させ、翌年24歳で初めての特許を取得しました。さらに、人の手ではなく機械の力を利用し、織布工場の近代化に貢献した日本初の動力織機「木鉄混製動力織機」や“世界一の織機”と称された「G型自動織機」などエポックメイキングな発明と改良に没頭し、生涯を通じて119件にものぼる特許を取得しています。
その「研究と創造の精神」は、やがて長男・喜一郎に受け継がれ、自動車をはじめとする現在のトヨタグループの礎となり、日本の産業を大きくさせました。
不屈のスピリットを体感できる豊田佐吉記念館
そんな稀代の発明王である豊田佐吉の生涯と情熱に触れられるのが「豊田佐吉記念館」です。記念館が建つのは、静岡県湖西市の三ヶ日I.C.から車で約30分の場所にある佐吉の生誕地。もともとは豊田家の個人宅でしたが、佐吉の生涯に興味を持つ人たちが全国から訪れるようになったため、生誕120年の1988年に記念館として開館することになりました。現在では、佐吉のパイオニア精神の源流を感じられる地としてトヨタ関連だけではなく、全国から数多くの企業人が訪れています。
見どころは、入口からすぐの場所にある展示室。ここには佐吉が発明した代表的な織機4台をはじめ、製品紹介パネル、特許証、佐吉の生涯を紹介する映像など、佐吉にまつわる興味深い展示が楽しめます。
中でも注目したいのが織機です。すべての始まりとなった「豊田式木製人力織機」、生産性を画期的に向上させ、日本の織布業の発展に大きく貢献した「豊田式糸繰返機」、日本初の動力織機「木鉄混製動力織機」、そして「G型自動織機」などの歴史に名を刻んだ織機は、実際に布を織れるように復元されている貴重な展示です。
そして、見逃せないのが1990年に復元された佐吉生家です。
ここは、佐吉の父が佐原家から独立して豊田家を継いで住んだ家を復元したもの。佐吉とその兄弟や、のちにトヨタ自動車を創設した長男が生まれた場所であり、茅葺き屋根の趣深い建築は、江戸時代後期の農家の暮らしを伝える文化遺産としても貴重です。
中には囲炉裏のある畳部屋や「働きづめの母を楽にさせたい」という佐吉の原点を回想させる機織りシーンを再現した展示、隣の展示室では実際に布を織る体験もできる「豊田式木製人力織機」もあり、日本の産業にイノベーションを起こした佐吉の発明が体感できます。
さらに、夜なべをしながら手織機の構想図をまとめ、試作品のトライ・アンド・エラーに没頭していた「納屋」や10代の佐吉が同じ志を持った青年たちと立ち上げた夜学会で毎晩のように勉学に明け暮れた「山口観音堂」(敷地外、正門出てすぐ)、山の清水を生活用水として使用するために設置したろ過装置付きの井戸なども見逃せません。
そういった展示だけでなく、自然を感じさせる広大な敷地には佐吉の父が植えたヒノキ林やみかん畑が広がり、散策路の高台には眼下に風光明媚な浜名湖が一望できる展望台も。天気のよい日には富士山の雄姿が見られることもあるこの場所は、佐吉が息子の喜一郎と遊びながらリフレッシュしていたといわれています。
不屈の精神の原点となった数々のエピソードに思いを馳せながら巡れば、世界に誇るトヨタグループの輝かしい功績の裏側には、多大な努力と情熱があったことがより身近に感じられます。
この秋、豊かな人生の糧となるヒントがつまった佐吉記念館を訪れてみてはいかがでしょうか?
日本の自動車産業の礎となったのは織機だった!?
ところで、佐吉が完成させた数々の発明品のなかで、もっとも脚光を浴びた織機をご存じでしょうか?
それが前述した「G型自動織機」です。
この織機には、高速運転中に少しもスピードを落とすことなく、杼を交換してよこ糸を自動的に補給する自働杼換装置をはじめ、50余件の発明、考案に基づく各種の自動化、保護、安全および衛生などの機構や装置が装着されています。世界一の織機と評価され、当時、世界最大の繊維機械メーカーだったイギリスのプラット社に10万ポンド(現在の貨幣価値に換算して数十億円)で特許権を譲渡し、日本の技術者に自信を与えました。
そういった佐吉の発明によって、日本の基幹産業であった紡績業、繊維産業は世界的レベルへと躍進を遂げ、現在のトヨタグループの礎となったのです。
- 住所:
- 静岡県湖西市山口113-2
- 電話番号:
- 053-576-0064
- 開館時間:
- 9:30~17:00(4月1日〜9月30日)
※10月1日〜3月31日は〜16:30
- 入館料:
- 無料
- 休館日:
- 水曜日(但し、祝日の場合は翌木曜日が休館日)
年末(12月26日~12月31日)、年始(1月6日~1月8日)、
2月最後の水曜日の直前の月・火曜日、
9月第1水曜日の直前の月・火曜日
- 駐車場:
- 約50台
- アクセス:
- 東名高速道路 三ヶ日CIから車で約30分