Abandoned railway walk思わぬ絶景に出合える
「廃線ウォーク」の魅力とは?

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「廃線ウォーク」をご存じでしょうか?かつて鉄道が走っていた軌道の跡地を利用して、そのルートを歩くイベントのことで、運行していた時代の車窓からの面影を求めてこのイベントに参加する人が増えています。ノスタルジックなレールの痕跡や橋・トンネルなどの人工物と自然が織りなすハーモニーは、唯一無二の魅力があります。全国に点在する人気の廃線ルートを厳選してご紹介します。

鉄道の枕木やトンネル、ホームや橋りょうを歩く
廃線ウォークでしか得られない体験を求めて

2000年以降だけでも47の鉄道が運行廃止。増える廃線とその魅力とは

のどかな里山の風景の中、真っ直ぐに延びる鉄道の軌道跡。歳月や風雨に耐えてきた鉄道の遺構はほかにはない味わいがあり、自然に抱かれるが如く残された廃線跡に、郷愁を感じる人も多いでしょう。現在、各地を旅し、撮影した美しい写真をSNSなどで発信する廃線愛好家が増えています。これらは「廃線ウォーク」と呼ばれ、鉄道会社から引き継いだ自治体や観光協会、NPO法人などがイベントとして開催しているところもあります。

信越本線・碓氷線。四季折々の山の眺望も魅力。撮影=花田欣也

都市部では廃線と聞いてもピンとこないかもしれませんが、実は2000年以降だけでも、全国で47路線、1,275.3キロメートルの鉄道が廃止されています(※)。廃線跡のすべてが整備されているわけではありませんが、中にはウォーキングルートとして開放、地域の観光資源となっている廃線もあります。
※国土交通省調べ

地域観光アドバイザーの花田欣也さんは、「日本は国土の7割以上が山地。古くから山や川に沿って鉄道が敷設されてきたため、多くのトンネルや橋りょうが設けられました。しかし、地方の人口減少などが原因で、各地で鉄道の廃線が増えつつあります。廃線を訪れる人も多く、豊かな自然の中を歩きながら“昔ここに鉄道が走っていたのか”と痕跡を見つけ、ノスタルジックな気分を味わうことが廃線ウォークの最大の魅力ではないでしょうか。廃線跡を地方自治体や観光協会などが整備して、観光に活用している例も見受けられます」と話します。

普段は立ち入ることができないトンネル内部を歩ける!

廃線ウォークの中でも、愛好家を魅了してやまないのがトンネルです。トンネルというと一見ありふれているようにも思えますが、実は材質や年代など、その種類は千差万別。電車に乗っているとあっという間に過ぎてしまいますが、歩いてみると、また異なる発見があるといいます。

旧国鉄倉吉線廃線跡の山守トンネル(イベント以外は立入不可)。撮影=花田欣也

ライフワークとして全国のさまざまなトンネルを歩いてきた花田さんは、「トンネルの入口をポータルと呼びますが、造られた時代によってその材質は異なります。大別して、明治・大正時代はれんがや石造りがメインで、昭和に入るとコンクリート製が主流。れんがのトンネルは130年ほど前のものも現存しますし、中には凝った意匠のトンネルも。当時の職人たちの技術力の高さと、並々ならぬ努力を感じます」と話します。

鉄道の枕木を一つひとつ踏みしめたりトンネルの内部を観察したりする経験は、なかなか得難いもの。まずは、全国の廃線ウォークやウォーキングルートを楽しめるエリアをご紹介します。

紅葉と廃線遺構が織りなす
唯一無二の風景を楽しむ

重要文化財である美しいれんが造りの橋りょうと紅葉が見事!
信越本線・碓氷線(群馬県・長野県)

横川駅名物の駅弁「峠の釜めし」で有名な群馬県と長野県を結ぶ碓氷峠。急勾配で有名なこの場所には、1997年まで信越本線「横川~軽井沢」区間(碓氷線)が運行していました。

碓氷峠・廃線ウォークにて。

明治時代には、アプト式軌道により急勾配を登り、当時の重要な輸出品であった生糸や繭を運んでいた碓氷線の機関車。機関車から電車に変わってからも地域の人々の貴重な移動手段として活躍していましたが、1997年9月30日に廃止され、10月1日には長野行き新幹線(現在の北陸新幹線)が開業しました。

現在でも橋りょうやトンネル、旧丸山変電所が残っており、「旧碓氷峠鉄道施設」として国の重要文化財に指定されています。一部は歩道として整備されており、ウォーキングやトレッキングに訪れる観光客も多いスポットです。

安中市観光機構では、廃線の観光資源としての魅力にいち早く注目。碓氷線(新線)と、1893年に開通した旧線の一部(現・アプトの道)を巡るツアーを「廃線ウォーク」と名付け、主催しています。

線路の上を歩く様子は、まるで映画『スタンド・バイ・ミー』のよう。廃線ウォークのイベント時には、新線の3本のトンネルや碓氷川橋梁、旧線アプトの道のれんがや石造りのトンネル群などを通るほか、4連アーチ橋、壮大なれんが造りの碓氷第3橋梁(めがね橋)を見学できます。

国の重要文化財にも指定されている碓氷第3橋梁(めがね橋)

「時代の異なる廃線跡を歩けるのは貴重です。ツアー開催時のみ歩ける新線では、途中の新碓氷川橋梁から四季折々の山の眺望が楽しめ、気分もリフレッシュしますよ」(花田さん)。当時の技術を結集した建造物と、雄大な山々を彩る紅葉が見事に調和。峠の釜めしや温泉もあわせて楽しめます。

<お問い合わせ>
一般社団法人安中市観光機構
https://haisen-walk.com/

イベント開催日(2024年11月以降の開催は上記WEBサイトを参照ください)
開催時間:10時30分~15時30分
募集定員:50名
参加費用:1名8,200円(小学生以下は4,200円)
※ヘルメット・ライトは必須(有料レンタルあり)
駐車場:ツアー時は「峠の湯」駐車場が利用可

のどかな里山に延びる廃線跡。歩きやすいルートで散策へ
旧国鉄倉吉線廃線跡(鳥取県)

鳥取県倉吉市唯一の鉄道駅・倉吉駅。旧国鉄時代、倉吉駅(旧上井駅)から関金の山守駅まで、約20キロメートルの短い距離を「倉吉線」が結んでいました。廃止されてから約40年経った現在も、倉吉市内のいたるところに遺構があり、特に関金周辺にはレールやホーム跡が残されています。

以前の面影が残る泰久寺駅ホーム跡。撮影=花田欣也

中でも、関金にある泰久寺駅跡から山守トンネル入口付近までは竹林から延びるように廃線跡があり、「日本一美しい廃線跡」と称されています。「里山のローカル線が生み出す風景が魅力。泰久寺駅付近の竹林は幻想的で、その先の山守トンネルに至る廃線跡の雰囲気はここでしか体感できません」(花田さん)

竹林の中を行く倉吉線の廃線跡。撮影=花田欣也

廃線跡は一部を除き、自由に散策できます。ホームが残る泰久寺駅跡と上小鴨~関金間では、当時の鉄製のガーター橋「生竹鉄橋」が草に覆われた中に残ります(鉄橋上は立入禁止)。また、倉吉市内には当時活躍したSLや倉吉線の貴重な写真などが展示されている「倉吉線鉄道記念館」もあります。廃線跡近くにはプロムナードや桜並木も整備され、比較的歩きやすいのが特徴です。

普段は閉鎖されている山守トンネル内を見たい場合は、観光協会主催のツアー「旧国鉄倉吉線廃線跡トレッキング」または「旧国鉄倉吉線廃線跡ウォーキングオープンデー」に参加しましょう。定期的に開催されるオープンデーは、関金都市交流センターから山守トンネルで折り返し、泰久寺駅跡までを2時間半程度で歩くルートで、ゴール後は温泉を楽しめます。

のどかな田園風景を縫うように延びる廃線跡。沈む夕陽とともに、自分だけの写真を撮影してみてはいかがでしょうか。

<お問い合わせ>
一般社団法人倉吉観光MICE協会
https://www.kurayoshi-kankou.jp/haisen

旧国鉄倉吉線廃線跡トレッキング(団体15名以上)
https://www.kurayoshi-kankou.jp/tourplan/1/

旧国鉄倉吉線廃線跡ウォーキングオープンデー2024(個人参加可能)
https://www.kurayoshi-kankou.jp/haisen-openday2024/

※11月20日現在、次回以降の日程は未発表
駐車場:25台(倉吉線廃線跡観光案内所駐車場)

武庫川の渓流と鉄橋が絵になるスポット
JR福知山線廃線敷(兵庫県西宮市、宝塚市)

現在のJR福知山線生瀬(なまぜ)駅から武田尾駅の間を走る、JR福知山線廃線敷。かつては機関車が走っていましたが、1986年に新線に切り替えられたことにより廃線となりました。現在はハイキングルートとして親しまれています。

紅葉が美しいルート。西宮市の紅葉は、例年11月中旬から下旬が見頃。

全長約4.7キロメートル、所要時間約2時間のルートには、枕木が残る軌道や鉄橋、最長約400メートルのトンネルなど、在りし日を思わせる風景が満載。「武庫川に沿った風光明媚な風景の中、6つのトンネルを通りながら歩く爽やかなハイキングルート。トンネルとトンネルの間にある赤い鉄橋(第2武庫川橋梁)は絵になるスポットで、春の新緑と桜、秋の紅葉は特に美しいです」(花田さん)

重ねてきた年月を感じさせる橋りょうの佇まい。

廃線敷ルートの入口は、生瀬駅、西宮名塩駅から徒歩約15分または武田尾駅から徒歩約8分とアクセスが抜群。その代わり駐車場や駐輪場はないため、公共交通機関の利用がおすすめです。武田尾には「関西の奥座敷」と名高い武田尾温泉があり、関西でも珍しいラドン含有の天然温泉を体験できます。

一方で、利用者の自己責任において一般開放されたハイキングルートでもあるので、注意事項を留意する必要があります。ルートを外れたり、柵を乗り越えたりする行為は危険です。道中は住宅地付近を通行するため、大きな声や騒音は迷惑になります。またトンネル内に照明はなく、足元が見えないほど暗いため、懐中電灯は必須。ルート途中にトイレや飲食店はなく、ごみは各自で持ち帰るようにしましょう。

武庫川の渓流を眺めながら、当時と変わらぬ鉄道遺構を身近に感じる道のりは格別。温泉好きにもたまらないルートといえます。

<概要・お問い合わせ>
一般社団法人にしのみや観光協会
https://nishinomiya-kanko.jp/fukuchiyamasen_haisenjiki2019/

廃線敷マップ
https://nishinomiya-kanko.jp/wp/wp-content/uploads/2024/06/2024-5-haisenjiki.pdf

3つの廃線ウォークをご紹介してきましたが、廃線ウォークには以下のこともしっかりと留意しておく必要があります。

特に参加の注意点として、跡地内は危険もあるため、立入禁止区域には絶対に近づかないこと。肌を守る長袖・ロングパンツなどの服装、ウォーキングシューズなど歩きやすい靴で参加すること。お子さまからは目を離さないこと。こうしたルールを遵守して参加しましょう。当然、立入禁止の廃線跡地は危険なので絶対に立ち入らないようにしてください。

以上を順守して、楽しい廃線ウォークに参加してみましょう。

<記事監修>
トンネルツーリズムプランナー、地域観光アドバイザー
花田欣也さん

<花田欣也さんプロフィール>
長年、大手旅行会社に勤務。地域観光のアドバイザーとして自治体などと連携して観光振興に取り組む。JRを全線乗車した鉄道ファンでもあり、全国に残る土木産業遺産・トンネルをライフワークとして歩く。全国規模でも例のないトンネル・廃線ツアーの講師を務めている。「マツコの知らない世界」などメディアにも数多く登場するほか、執筆を通じて日本の貴重なトンネルの魅力を発信。

インフラツーリズムの新たな形である「トンネルツーリズム」を提唱し、地域活性化につなげる講演や執筆も幅広く行う。安中市観光大使、旧北陸線トンネル群特別アドバイザー、(一財)地域活性化センターフェロー、(一社)日本トンネル専門工事業協会アドバイザー。

近著に、『鉄道廃線トンネルの世界 トンネル探究家厳選! 歩ける、通れる110』『是枝裕和とペ・ドゥナの奇跡』(ともに天夢人・刊)。https://hanadakin-chiikitnl.grupo.jp/(公式HP)

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