Local gastronomy地方の風土と食文化を味わう
ローカル・ガストロノミーの美食旅
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自然が広がる里山で、地産地消の食材を使用した美食とともにその地の歴史や風土までも料理で伝える「ローカル・ガストロノミー」。近年、世界中でこのコンセプトを体現してふるまう店がオープンし、国内でも新しいフードカルチャーになっています。地方の日常を楽しむローカル・ツーリズムとも呼応して、さらに注目度も高まっています。ドライブで訪れたくなる、ローカル・ガストロノミーの魅力を紹介します。
美食の中に風土や歴史を宿した
ローカル・ガストロノミー
「Gastronomy(ガストロノミー)」とは、食文化や食に関する研究、料理の芸術性、食材の起源や品質などについての探求を含む、食に関する広範な領域を指す言葉で、フランスで誕生しました。そのベースには、食事に社会的・文化的価値を認め、食卓の洗練を追求しつづけてきたフランス特有の美学があります。
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現代では、その土地の歴史や風土、文化を凝縮した料理を提供する美食レストランの意味でも使用されています。世界的な聖地として知られるのは、フランスとの国境に近いスペイン・バスク自治州のサン・セバスチャン。1970年代に新鋭のシェフたちが伝統技法と新しい調理法を融合させ、レシピやテクニックをシェアすることで街全体の食レベルが底上げされ「世界一美食の街(※)」となりました。今では、ヨーロッパをはじめ世界中の美食家がわざわざ旅の目的地として訪れる“ローカル・ガストロノミー”レストランが点在することでも有名です。
※出典元:アメリカの大手旅行専門誌「コンデナスト・トラベラー」が実施した「リーダーズ・チョイス・アワード2023」より
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日本においては、2017年にライフスタイルマガジン『自遊人』が「ローカル・ガストロノミー」を提唱し始めました。その土地の食材と習慣、伝統そして気候風土などによって育まれた食を楽しみ、食文化に触れることを目的としたローカル・ガストロノミー・ツーリズムは、新しい旅のスタイルとして注目を集めています。
ここでは、名だたるシェフの美食を堪能できるローカル・ガストロノミーの名店をご紹介します。
旅の目的として訪れたい美食レストラン
石川県小松市/Auberge “eaufeu”(オーベルジュ・オーフ)
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石川県の小松空港からクルマで約30分。日本遺産に認定された小松市の“石の文化”を構成する要素である「観音下石切り場」の断崖絶壁を目の前に望む「Auberge “eaufeu”」は、廃校となった小学校をリノベーションしたオーベルジュです。建物のシルエットや教室、黒板など小学校の面影を残しつつ、現代アートと融合し、モダンに生まれ変わった独創的な空間もさることながら、国内外から訪れる美食家を惹きつけているのが、糸井章太シェフの料理です。
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糸井シェフは、日本最大級の料理人コンペティション「RED U-35」にて史上最年少の26歳でグランプリを受賞。それ以来、フォーブス「30 UNDER 30」Asiaアーティスト部門に選出、さらにミシュランガイドに相当するフランスのレストランガイド『ゴ・エ・ミヨ 2023』にて「期待の若手シェフ賞」を受賞するなど、世界の注目を集める気鋭の料理人です。
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兵庫・芦屋を皮切りに、フランス・ブルゴーニュ、アメリカ・カリフォルニア州などさまざまなレストランで研鑽を積んだ糸井シェフは、この地で毎日のように生産者の元を訪ね、春は野山に分け入り山菜や野草を採り、夏は川でサワガニ、秋はキノコ、冬は熊や鹿、鴨のジビエなど地場素材を取り入れ、小松の風土と向き合いながら、独自のクリエイションで“その時期にここでしか味わえない”美食に仕立てます。
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九谷焼を中心とした器で供され、隣接する醸造所「農口尚彦研究所」の銘酒とともに味わう約11皿のコースは、何ものにも代え難い食体験となるでしょう。
【参考リンク】
●Auberge “eaufeu”
https://eaufeu.jp
大分県由布市/ENOWA YUFUIN(エノワ ユフイン)
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2023年6月、日本を代表する温泉地、大分・由布院に誕生した「ENOWA YUFUIN」は、これまでにない“循環型”オーベルジュです。湯布院町の高台にある雄大な自然に囲まれた敷地に、市街地や由布岳を望む露天風呂とプールを配したスイートルーム、多彩なガーデン、絶景を見渡せるサウナなどを備えた「ENOWA YUFUIN」のコンセプトは「ボタニカルリトリート」。
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大地の恵みを生み出すファーム、由布院の豊かな自然が育む命、水や風、植物、人、すべての“縁の輪”をつなぎ、ゲストは満ち足りた自分に出会う――。そのウェルネスな体験の核となっているのが、ダイニング「JIMGU」です。
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エグゼクティブシェフのタシ・ジャムツォさんは、農場から食卓へ届ける「Farm to Table」の先駆けであるニューヨークの二つ星レストラン「Blue Hill at Stone Barns」で4年間副料理長を務めたあと、ENOWA YUFUINの思想に共鳴して来日。約3年かけて土づくりからはじめ、今では200種類以上の野菜やハーブを無農薬で育てるENOWAファームやインドアガーデンなど、肥沃な由布院生まれの食材にこだわります。
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ディナーコースは、空が赤く染まった夕暮れに自然が循環する輪をイメージしたインドアガーデンでスタート。3皿のアペリティフを楽しんだあと、レストランに移動して供されるのは、「その日の畑が決める」食材それぞれの生命力を引き出した創造性豊かな約17皿の料理。葉っぱやヘタなど一般的には料理に使用しない部分もソースにするなど、真のサステナビリティを取り入れたイノベーティブ・キュイジーヌは、五感を呼び起こす発見に満ちています。
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●参考リンク
ENOWA YUFUIN
https://enowa-yufuin.jp/
静岡県静岡市/KAWASAKI(カワサキ)
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静岡市葵区常磐町に位置する「KAWASAKI」は、「ジビエと野菜」をテーマにしたガストロノミーです。シェフの河崎芳範さんは、東京・代々木「レストランキノシタ」、表参道「レストランポワロー」などで研鑽を積み、静岡・富士宮市「レストランビオス」のシェフを務めたあと、2014年に独立しました。
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特筆すべきは、狩猟免許を持つシェフ自ら仕留めたジビエを使用していること。日の出とともに富士宮の猟場を訪れ、自然の中に身を置き、生命の呼吸を感じながら獲物を追います。その後、信頼できる生産者を巡り旬の野菜や山菜を仕入れ、シェフならではのアプローチで四季と豊饒な大地を料理で表現します。海の食材は基本的に使用せず、魚はニジマスや鮎、津蟹といった川の恵みを使用するなど、富士宮で取れ、または調達できる食材にこだわっています。
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ジビエコースは、例えば富士山麓本州鹿や月ノ輪熊、下田産猪、マガモなど時期によって素材が変わる冬の狩猟時期限定のテリーヌや希少なヒヨドリのスープ、藁の香りをまとったキジバトのローストなど、アミューズからデザートまで11皿のうち7皿前後にジビエを使用。繊細な調理で旬の野菜やフルーツ、ハーブと組み合わせた料理には、洗練された野趣が漂い、この地にしかない食材のストーリーが体感できます。
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●参考リンク
KAWASAKI
https://kawasaki-y.com
いかがでしたか?こうしたその土地の食文化を体験できる店舗は日本各地にまだまだ存在します。ぜひドライブで訪れ、新たな食体験の扉を開いてみませんか。