茶室のある道の駅茶どころ静岡ならではの道の駅

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日本三大玉露産地として知られる藤枝市岡部町の道の駅「玉露の里」では、日本庭園内にある本格的な茶室で玉露と抹茶を楽しむことができます。日々の喧噪を忘れ、朝比奈川のほとりで移ろいゆく四季折々の自然を眺めながら、茶とともに日本の侘び寂びを知る。そんな道の駅「玉露の里」を訪ねてみましょう。

Text:Michi Sugawara
Edit:Yasumasa Akashi(PAD)

道の駅には日本庭園、そして茶室

京都の宇治、福岡の八女と並ぶ日本三大玉露産地として知られる藤枝市岡部町朝比奈地域に、道の駅「玉露の里」はあります。静岡市葵区から焼津市までを流れる朝比奈川のほとり、牧歌的な山間部の休憩スポットとして人気を博しています。

道の駅内の物産館「茶の華亭」には、玉露やタケノコ、しいたけに地酒といった地元産品に茶器なども並び、隠れ家カフェを併設した食事処では茶そばや地元素材を取り入れた料理を味わうことができます。

道の駅「玉露の里」の物産館「茶の華亭」。

そんな道の駅「玉露の里」で一際目を引くのが、朝比奈川の対岸に見える日本庭園と、庭園の中に悠然と構える茶室「瓢月亭」です。日本庭園の入場は無料で、梅の木や錦鯉が泳ぐ池、苔むした庭石を眺めながら散策したり、庭園の脇には小さな棚田作りの茶畑が広がります。

錦鯉の泳ぐ池と茶室「瓢月亭」。

「庭園内には梅の木が多く、梅の時期である2月頃には梅の花を楽しむことができます。また、朝比奈川沿いには桜の木が植えられていて、春には川沿いが満開の桜で埋め尽くされるため、その光景を見ようと多くの方が訪れます。このあたりは川の水量も少ないので、夏には水遊びをするご家族や子どもたちもいらっしゃいます」

新芽の出た茶の葉。新葉は黄緑に近い。

「庭園内の茶畑では、玉露を育てています。新芽が出たタイミングで害虫や日差し、風を防いでくれる寒冷紗をかけることで玉露になるんです。一般的なお茶と玉露は茶葉としては同じ種類なのですが、新芽が出た段階で日光を遮断してうまみ成分を凝縮したものを玉露と呼んでいます」(道の駅「玉露の里」担当者)

お点前を頂戴する

茶室「瓢月亭」の入館料を支払い、飛び石を渡りながら後景に竹林が広がる「瓢月亭」へと足を踏み入れます。「瓢月亭」はその名が示すとおり、瓢箪と月をモチーフにしつらえられています。茶室は合計3つ備わっており、本格茶室と大広間に加えて、椅子とカウンターでお茶を楽しめる腰掛席も。車椅子や足腰に不安のある方、また座敷に慣れていない海外からの客人も気軽に利用できることで、好評だそう。

「瓢月亭」には、瓢箪と月が至るところに。

茶室では玉露あるいは抹茶と、茶菓子を楽しむことができます。10人ほどが並べる大広間に正座をし、部屋のあしらいや竹の花入に生けられた花、庭園の池へと目をやり、ゆったりとした時間の中で茶の侘び寂びに思いを馳せます。茶を点ててくれる亭主が現れると、少し身が引き締まります。それでも極度にかしこまる必要はなく、亭主から茶道のマナーや一連の流れであるお点前について丁寧に説明をしていただきます。

玉露は2回に分けて供されます。温められた茶碗に一煎目が注がれ、それを数回に分けて口へと運びます。口に含んでゆっくりと口の中で回していくと、甘みが舌の上で広がり、香りが鼻を抜けていきます。一般的なお茶と違って、一煎目は濃厚なとろみがあり、出汁のような味わい、まろやかなコクをじっくりと堪能します。一煎目の余韻を味わいながら茶菓子を半分口へと運び、二煎目を待ちます。より温度を上げた二煎目は飲み慣れた茶の味に近づくものの、それでも玉露ならではの苦みのない味わいや香りが広がっていきます。

玉露に使われるのは宝瓶と呼ばれるコロンとした急須。

続けて、抹茶も頂戴することにしました。亭主は茶の道具を並べ、茶杓や茶碗、茶筅(ちゃせん)をお湯に通したり、帛紗(ふくさ)で拭くなどして茶道具を清めていきます。そして、ゆっくりと、それでも淀みなく流麗に亭主がお茶を点てます。ふるまわれたお茶の深みある翠に思わず吸い込まれそうに。茶室には抹茶特有の心地よい香り「覆い香」が漂い、お茶を口に含むとすぐにうまみと混ざり合い、口の中に広がっていきます。緩やかに流れる時間の中で、一杯のお茶と向き合ったのはいつぶりだったか、日々の喧噪を忘れて大きく一息をつきます。

亭主によるお点前。

大型ロケット花火「龍勢」

お手前を味わった帰りしな、広がる田畑の向こうに一見異様にも思えるような屹立する櫓(やぐら)が目に入りました。なんでも、黒色火薬を詰めた筒と竹竿を結んだ大型ロケット花火「龍勢」を打ち上げるためのものだそう。この催しは「朝比奈大龍勢」と呼ばれ、現在は2年に一度、10月に開催される朝比奈地区の伝統行事です。

打ち上げられる「朝比奈大龍勢」。

その起源は戦国時代にこの地の今川家家臣が用いた緊急連絡用の狼煙。白煙をたなびかせながら空へと向かう姿が龍を思わせることから、この名前になったといわれています。同様の文化は全国でも数カ所でしか見られず、朝比奈地区では地域住民からなるグループ「龍勢連」ごとにそれぞれに伝承された技法で龍勢を製作しています。

道の駅「玉露の里」の隣には、朝比奈大龍勢の歴史や文化を伝える施設として、昆虫館と併設する形で『朝比奈龍勢・昆虫館』もあります。偶然出合ったその土地ならではの伝統文化を知るのも、旅の楽しみひとつです。

春には桜が舞い、夏には竹林を抜ける涼しい風が子どもたちの声と混ざり合う。秋には龍が天へと昇り、冬には梅の花が匂い立つ。ここではそんな春夏秋冬の移ろいを、お茶を味わいながら感じられるはずです。

道の駅「玉露の里」

静岡県藤枝市岡部町新舟1214-3
アクセス:新東名高速道路藤枝岡部I.C.から約10分
茶室「瓢月亭」営業時間:9時30分~17時(入館受付は16時30分まで)※冬期営業時間変更あり
茶室「瓢月亭」入館料:税込み510円(玉露または抹茶、茶菓子付)
※冬期営業時間変更あり
定休日:年末年始
駐車場:あり
URL:https://www.shizutetsu-retailing.com/gyokuronosato/

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