伸び代はフルモデルチェンジ並み、熟成が進んだ改良型GRヤリスを試す 文:山本シンヤ/写真:トヨタ自動車、ベストカーWeb編集部

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コンパクトカー「ヤリス」を母体としながら、WRC(世界ラリー選手権)を戦うためのベース車両として誕生したGRヤリス。スポーツカーとして屈指の性能を持つこのクルマが、第2世代へと進化した。その進化はいったいどれほどのものか。腕利きモータージャーナリストの山本シンヤ氏がレポートする。

トヨタは「お客様の欲しいモノが提供できる会社」になった

2024年初頭の東京オートサロンで登場した新型GRヤリス。外観ではフロントバンパーの形状変更が顕著だ

2015年、当時社長だった豊田章男氏はWRC(世界ラリー選手権)への復帰を宣言した。実はこの時、豊田氏の頭の中にはもう一つのプロジェクトがあった。それは「WRCマシンの血を受け継いだスポーツ4WDを創る」である。それが「GRヤリス」である。

豊田氏はなぜこのようなクルマを作ろうと考えたのだろうか? 本人はこのように語っている。

「トヨタは古くから式年遷宮の如く、20年に1度スポーツカーを作ってきました。1960年代には2000GT/ヨタハチ(スポーツ800)、その20年後の1980年代にはスープラ、レビン/トレノ、MR-2/MR-S、セリカなどが世に出ました。その後、20年後の2000年代にも出るはずでしたが、当時のトヨタは『儲かるクルマ、売れるクルマ』が優先で出すことができませんでした」

左右のテールランプが繋がり、よりエモーショナルな表情を持つようになったリアフェイス

「しかし、LFAで流れを作り、スバルの力を借りて86、BMWの力を借りてスープラを出すことができました」

「当然トヨタの中には『ゼロからトヨタだけの力でスポーツカーを復活させたい』と言う気持ちを持った人がたくさんいました。ただ、誰も言えない状況だったのも事実です。普通の頭で考えれば、『売れるわけがない』で却下されてしまいますからね……」

「ただ、それをモリゾウと言うマスタードライバーが生まれたこと、さらには86/スープラをたくさんのお客様が応援してくれたことで、『あっ、やってもいいんだ』と言う気になってくれた。私がどうこうよりも、それが一番の原動力だったのではないかなと思っています。要するに『お客様が欲しいモノが提供できる会社にトヨタが少し変わってきた』と言うことです」

鍛えた成果はユーザーにシッカリ還元する

2024年初頭の東京オートサロンで登場した新型GRヤリス。外観ではフロントバンパーの形状変更が顕著だ

GRヤリスが発売されたのは2020年9月のこと。しかし登場以降も開発は続けられ、モータースポーツをはじめとする極限の状態で「壊しては直す」の繰り返しが行なわれてきた。その一つの集大成と言えるのが、2024年に登場した「進化型GRヤリス」だ。

その変更内容は車両全体に渡り多岐に渡る。エクステリアは前後デザインをアップデート。フロントは開口部の拡大により機能性(=冷却性能)アップはもちろん、スポーツモデルらしいアグレッシブさもプラス。それに伴いバンパーロアは一体式→分割式、グリルは樹脂→金属に変更されているが、これは補修のしやすさを考慮したアイデアの具体化だ。

リアは一文字のテールランプの採用、ロア部は空力性能を高めるデザインに変更されるが、全体的には従来モデルよりシンプルな印象。細かい部分ではリアスポイラーがマットブラック→同色に変更されているが、GRヤリスが持つ全高の低さ、スタンスの良さがより際立つようなコーディネイトだ。

左右のテールランプが繋がり、よりエモーショナルな表情を持つようになったリアフェイス

インテリアは全面刷新レベルである。最大の特徴はレーシングカーからフィードバックされた“ドライバーファースト”なコクピットの構築だ。

専用のインパネは上部のフラット化とルームミラーの取り付け位置変更により視界性能(特に左前)、運転席側に15度傾けた操作系とバラバラだった走行系スイッチの集約など機能性を大きくレベルアップ。スポーツカーにしては素っ気ないデザインだったメーターも多機能フル液晶式を奢る。

ドライバーの使いやすさをもとめて完全に刷新されたコックピット。ウィンドウ開閉スイッチの位置まで見直されている

そんなGRヤリスは2020年に発売。しかし登場以降も開発は続けられ、モータースポーツをはじめとする極限の状態で「壊しては直す」の繰り返しが行なわれてきた。

豊田氏はそこで鍛えた成果を「ユーザーにシッカリと還元すべき」と語り、S耐マシンのロードバージョンと言ってもいいフルチューン仕様のGRMNヤリス、さらに既販車へのアップデート/パーソナライズプログラムなどを行なってきたが、その一つの集大成と言えるのが、2024年に登場した「進化型GRヤリス」だ。

その変更内容は車両全体に渡り多岐に渡る。エクステリアは前後デザインをアップデート。フロントは開口部の拡大により機能性(=冷却性能)アップはもちろん、スポーツモデルらしいアグレッシブさもプラス。それに伴いバンパーロアは一体式→分割式、グリルは樹脂→金属に変更されているが、これは補修のしやすさを考慮したアイデアの具体化だ。

スポーツカーとしては高すぎるという声を反映し、シートはヒップポイントが25mm下げられた

リアは一文字のテールランプの採用、ロア部は空力性能を高めるデザインに変更されるが、全体的には従来モデルよりシンプルな印象。細かい部分ではリアスポイラーがマットブラック→同色に変更されているが、GRヤリスが持つ全高の低さ、スタンスの良さがより際立つようなコーディネイトだ。

インテリアは全面刷新レベルである。最大の特徴はレーシングカーからフィードバックされた“ドライバーファースト”なコクピットの構築だ。専用のインパネは上部のフラット化とルームミラーの取り付け位置変更により視界性能(特に左前)、運転席側に15度傾けた操作系とバラバラだった走行系スイッチの集約など機能性を大きくレベルアップ。スポーツカーにしては素っ気ないデザインだったメーターも多機能フル液晶式を奢る。

それに加えて、スポーツカーしては高すぎと指摘されたシートポジションに見直しが入り、ヒップポイントは25mmダウン、それに伴いステアリングやペダルの位置も合わせて最適化されている。更に使いにくかったパワーウィンドウスイッチ変更や助手席トレイの追加、JBLオーディオの音質見直しなど、細部まで抜かりなしである。

AT免許でもスポーツドライブが楽しめるDATが登場!

エンジンは出力が272psから304psへと大幅にアップ。トルクバンドも広くなりや使いやすさも増した

エンジンは軽量ピストン、高燃圧対応、動弁系強化などハードにも手が加えられ、出力は272ps/370Nm→304ps/400Nmにアップ。

スペックに目が活きがちだが、応答の良さ(ターボラグが少ない)、パンチのある力強さ、そしてレッドゾーンを超える勢いで回るフィーリングと言った数値に表れない部分が大きくレベルアップしており、スポーツエンジンらしい野性味のある特性だ。加えてトルクバンドが広げられた事で扱いやすさも増しており、従来モデルでは2速か3速で悩むコーナーでも進化型は迷うことなく3速が選べるくらいの粘り強さも備えられている。

トランスミッションは6速MTに加えて、「MTと同等に戦えるAT」を目指して開発されたダイレクトシフト8速AT(DAT)が新たに設定されている。その特徴は「Dレンジでパドル操作不要の完全自動変速(ドライブモード:スポーツ)」にある。

ドライバーの使いやすさをもとめて完全に刷新されたコックピット。ウィンドウ開閉スイッチの位置まで見直されている

エンジンは軽量ピストン、高燃圧対応、動弁系強化などハードにも手が加えられ、出力は272ps/370Nm→304ps/400Nmにアップ。

トランスミッションは6速MTに加えて、「MTと同等に戦えるAT」を目指して開発されたダイレクトシフト8速AT(DAT)が新たに設定されている。その特徴は「Dレンジでパドル操作不要の完全自動変速(ドライブモード:スポーツ)」にある。

改良型GRヤリスに搭載された8速AT。シフト制御もスポーツドライブ向けに最適化されており、もはやMTより速いという声も多い

発進してすぐにロックアップ状態になるので、アクセルを踏んだ時の反応やダイレクト感はMTに近い。シフトアップは「君はDCTですか!?」と思うくらいの速さだ。注目はコーナー進入でブレーキングを行なった時。

従来のATのダウンシフト制御はドライバーの意思よりも遅い上に低い回転域でしか作動しなかったが、DATは「MTだったらここでシフト操作するよね」と言う絶妙なタイミングにシフトダウンを行なう……と言いたい所だが、まだ完璧ではないのも事実だ。

具体的には、強めのブレーキングを行なうコーナーでのシフトダウン制御はほぼ完ぺきだが、軽めのブレーキングで進入するコーナーでは意図通りのシフトダウンをしないことも……。開発陣に聞くと「センシングが難しく、現状ではすべてのサーキットのコーナーで万能ではない」と認識しているようなので、今後アップデートやパーソナライズなどを活用して改善が行なわれる事を期待したい。

粗さや雑味が取れて味わい深さが増した

千葉県・袖ケ浦サーキットを走る。コントロールの幅が広がり、誰もが乗りやすいクルマとなった

シャシー周りはさらなる体幹アップと4WD制御の見直しが中心だ。ボディはスポット溶接打点を約13%増加、構造用接着剤の塗布部位を約24%拡大すると同時に、走行中のアライメント変化の抑制のためにボディとショックアブソーバーを締結するボルトの本数を1本→3本に変更。これに合わせてサスペンションのセットも変更されている。

4WDシステムは電子制御カップリングを用いる「GR-FOUR」は不変ながらも、前後駆動配分を見直し。具体的にはノーマル(60:40)は不変だが、スポーツ(30:70)はグラベル(53:47)に、トラックは50:50から走行状況に応じて可変式(60:40~30:70)に変更している。登場以降も開発を続けることで四駆制御の知見・ノウハウを蓄積、それが今回の進化に大きく活きたという。

進化型GRヤリスを総じて言うと、その伸び代はフルモデルチェンジ並みと言っていいレベルだ。一般的に改良モデルはネガを潰す一方で本来のコンセプトが薄まってしまう事もあるが、進化型のそれはむしろ粗さや雑味が取れて味わい深くなっている。まさにワインの熟成とよく似た進化と言えるだろう。

その走りを一言で言うと、じゃじゃ馬がサラブレッドになった印象だ。具体的には「ダイレクトなのに穏やか」と言う不思議な感覚である。従来モデルは路面状況によって時折ピーキーな特性が顔を出すこともあったが、進化型はコーナリング時の一連のクルマの動きに連続性が増したのと、コントロールできる幅が広がった事で、「いつでも、どこでも、誰でも」乗りやすいクルマになっている。

従来モデルを超える速さを実現しながら、ロードカーとしての快適性も高まっている

もう少しマニアックに説明すると、ターンインは四駆とは思えない回頭性の高さ、コーナリング中はFFっぽさがより薄れ、対角ロールが抑えられ、今まで以上にリアタイヤを使い4輪で綺麗に曲がる感覚。そしてコーナー脱出時は後輪が今まで以上の蹴り出しを感じるトラクションを実感。実はこれ、GRMNヤリスに乗った感覚に近い。

ちなみにGRMNヤリスはGRヤリス(従来モデル)をベースにより走りに特化したスペシャルバージョンだが、進化型はその走りを受け継ぎながらロードカーとしての快適性も忘れていない。その証拠に乗り心地は硬めながらも雑味がなくスッキリとした足の動きで、快適性も従来モデルより高められているのだ。

進化型GRヤリスを総じて言うと、その伸び代はフルモデルチェンジ並みと言っていいレベルだ。一般的に改良モデルはネガを潰す一方で本来のコンセプトが薄まってしまう事もあるが、進化型のそれはむしろ粗さや雑味が取れて味わい深くなっている。まさにワインの熟成とよく似た進化と言えるだろう。



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