A memorable bookいまこそアナログ、人生を学べる本
自宅にいる時間が増えた今、本を読んで知識を蓄えたり、さまざまな考えを生み出したりするチャンスです。今回は3つのテーマからブックディレクターの幅允孝さんに、今読むべき本を3冊ずつ選んでいただきました。おうち時間を豊かに過ごせるヒントがあるかもしれません。
Profile
幅允孝/YOSHITAKA HABA
有限会社BACH(バッハ)代表。ブックディレクター
人と本の距離を縮めるため、公共図書館や病院、動物園、学校、ホテル、オフィスなど様々な場所でライブラリーの制作をしている。最近の仕事として札幌市図書・情報館の立ち上げや、ロンドン、サンパウロ、ロサンゼルスのJAPAN HOUSEなど。2020年7月に開館した安藤忠雄建築の「こども本の森 中之島」ではクリエイティブ・ディレクションを担当。近年は本をリソースにした企画・編集の仕事も多く手掛ける。早稲田大学文化構想学部、愛知県立芸術大学デザイン学部非常勤講師。
Instagram: @yoshitaka_haba
人類は今後どうなっていくのか
【100年後を考える】
環境危機や、政治的危機、さらにはコロナ禍において先が読みづらい現代、人類の行く末を考えることはとても重要です。最初はそんな視点にフォーカスした3冊を選んでいただきました。
『人新世の「資本論」』斎藤 幸平 (著)、集英社
マルクスの資本論を今の時代に即して考えるというのが本書の大きなテーマです。経済成長とともに環境は破壊されていくという事実から、成長は止めざるを得ないのではないか?すなわち「脱成長」が必要なのではないかということを著しています。地質学における人新世という新たな時代に突入した今、人類の今後について考えさせられる一冊。現在の生活に持続可能性はないとと断言する価値観のインパクトと切実さ、そして新しい世の中の在り方を提案する「コモン」という考え方に興味が湧きます。
『小さな地球の大きな世界 プラネタリー・バウンダリーと持続可能な開発』J.ロックストローム、M.クルム(著)武内 和彦、石井 菜穂子(監修)谷 淳也、森 秀行ほか(訳)、丸善出版
日本語に直訳すると「地球の限界」。ちぎれた葉っぱが再生するように地球には独自の回復力がそもそも備わっているのですが、ある臨界点を超えるとその回復力は失われ、温暖化や生物の絶滅などが起こります。その臨界点を9つの側面に分け、写真を用いながら解説してくれるので、視覚的にもイメージしやすいと思います。世間では地球が危ないと抽象的に言われていますが、何が危ないのかを明確に示してくれ、SDGsの根幹をわかりやすく知ることができる一冊でもあります。
『100年ドラえもん 50周年メモリアルエディション:『ドラえもん』豪華愛蔵版全45巻セット』藤子・F・ 不二雄(著)、小学館
全45巻ある漫画『ドラえもん』を美しくリパッケージした復刻版の名前が『100年ドラえもん』なのです。これは私の勝手な願望なのですが、ドラえもんを読んで育った子に悪い子はいないと言っても良いのではないでしょうか?一見、子ども向けの漫画と思われがちですが、消費主義や政治、平和や倫理観などについて、いつの時代にだれが読んでも刺さるメッセージが込められているのがドラえもんです。これから100年間多くの人に読み継がれていってほしいですね。
どこへも行けない今だからこそ
【いつかあそこへ】
旅行どころか休日に外出することさえはばかられる昨今。せめて頭の中だけでもどこかに行くことに想いを馳せてほしいという願いからセレクトされた3冊です。
『旅する哲学―大人のための旅行術―』アラン・ド・ボトン (著) 安引 宏(訳)、集英社
哲学者の視点から旅について言及している一冊。例えば、出発前の旅を計画する楽しさやそもそも旅を計画するとはどういうことなのか、から考えています。本書では、旅とはイメージしているときが一番楽しく、旅をしても結局は思い通りにいかなくなるので計画するだけに終わってしまうというユニークな貴族のエピソードなども紹介。一方、実際旅に行くことにも言及していて、“思い通りにいかないことが旅を豊かにする”など現代にも通じる旅行哲学を知ることができ、旅がしたくてもできない今の時代にこそオススメしたいです。
『この星の光の地図を写す』石川 直樹(著)、リトル・モア
写真家である石川直樹氏がこれまで行った旅先で撮影した写真で構成された作品。内容は壁画や建築物、ポリネシアの海、ニュージーランドの原生林など多岐に渡ります。石川氏の写真からは普段は行くことのできない場所に住んでいる人の文化や生き方が見えてきます。例えばアラスカとアイスランドでは政治的な体制は異なりますが、同じ北極圏として暮らしや慣習は似通ってきます。国という括りではなく、生きている環境という視点から世界を見渡し、地図や国境に縛られない世界の在り様を知ることができます。
『死ぬまでに行きたい海』岸本佐知子(著)、スイッチ・パブリッシング
翻訳家であり、“出不精”でもある岸本佐知子氏が行った22の場所にまつわるエッセイ。海外から東京の街まであらゆる場所での岸本氏なりのささやかな疑問や妄想がユニークに描かれています。神奈川県にあるYRP野比駅に行った時にその不可思議な駅名に興味を抱き、なぜこの名前になったのかと考えたり、偶然見かけた猫の行方を追いかけたりと岸本氏とちょっと向こう側を結ぶ小さな出来事がユーモアたっぷりに書かれています。バリ島や富士山もあれば、麹町や初台といった身近なスポットもあり、その落差が不思議と溶け合う読後です。
自分自身を大事に
【心とからだを整える】
未知のウイルスと日々向き合わざるを得ず、心もからだも疲弊している人も多いでしょう。最後はそんな人に薦めたい3冊を選んでいただきました。
『いのちを呼びさますもの―ひとのこころとからだ―』稲葉俊郎(著)、アノニマ・スタジオ
人間の命や生きているということを自然科学や芸術、民俗学など幅広い視点で捉え、医学のフォーマットを超えて人間を研究する興味深い本です。身体のどこかが悪いから治すという医療的な側面だけではなく、人間が本来持っている自然治癒力を知ることもできます。対外的な自分である外側と命を司る内側の自分の関係性からは、もっと内側の自分に目を向けてほしいという書き手の強いメッセージを感じます。
『愛するということ』エーリッヒ・フロム (著) 鈴木 晶(訳)、紀伊国屋書店
精神分析学者の観点から異性愛、家族愛、自己愛などの“愛”を分析した一冊です。本書の中でエーリッヒ・フロム氏は「愛は技術であり、学ぶことができる」と語っています。つまり、どう愛されるのかではなく、どう愛するかを考えるべきであり、さらには愛するという意識を持つことこそが技術だとしています。自分自身や家族と向き合う時間が増えた今、改めて何かを愛するということについて考えてみてはいかがでしょうか。
『世界はうつくしいと』長田弘(著)、みすず書店
日常におけるさまざまな風景を美しい詩で表現する長田弘氏の作品の中の一つ。色々なものが否定されやすい現代において、長田氏の詩は目の前の風景や季節を肯定し慈しみを持って描いてくれます。優しく柔らかい言葉の連なりが浸透圧のように体に染みわたり、普段詩を読みなれていない方でも読みやすいのではないでしょうか。詩人ならではの心の機微を感じられると思います。
「幅流」書棚の整理整頓について
書棚の整理をしたい場合、意識してほしいことは本を奥まで押し込まずに棚と本の際を揃えること。本は大きさや厚さ、高さがバラバラなのでここを揃えるだけで格段に見栄えがよくなります。ぜひ、ご自宅で試してみてください。
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