新着情報

Harmony 2020年1/2月号
開発者に聞く

COROLLA
上田泰史
製品企画 チーフエンジニア

文・小沢コージ 写真・小松士郎

「カローラ」の華麗なる進化

グローバルプラットフォームのGA-Cを使い、歴代初の“3ナンバー”ボディをまとって「カローラ」は新たな進化を始めた。「日本の国民車」だったはずのトヨタの至宝は、12代目にしてその出自を捨てたのか——。

涙ぐましい「日本化」への努力

本文を読む

小沢:僕は今回、「カローラ」は12代目にして、ついに日本を捨てちゃったのか?と思ったんです。「プリウス」と同じグローバルプラットフォームを採用し、ボディが大きくなって“3ナンバー”になっちゃったし。でも、試乗して気づきました。その見方はちょっと違っていたなと。

上田:そうなんです。そもそも12代目は開発の大きな方向として、グローバルなGA-Cプラットフォームを使い、「カローラ」全体のポテンシャルの底上げをしたいという思いがありました。パッと見てカッコいいと思っていただけるデザインと、気持ちのいい走りをお届けしたい。しっかり作り込んで、日本でもアメリカでも欧州でもグローバルに同じ味わいをご提供したいと考えました。

小沢:ここ数年、日本の「カローラ」は、海外の「カローラ」とはプラットフォームから違うし、事実上別モノでしたからね。中身は「ヴィッツ」で完全に日本専用車。オーナーの年齢もすごく上がっていると聞きました。

上田:ええ、かつて“フィールダー”と呼ばれていたワゴンが60代、“アクシオ”と呼ばれていたセダンが70代になっています。

小沢:なるほど……。長く愛されるのはうれしいことだけれど、「人生の終焉に選ぶクルマ」になってしまい、次につながらないということですね。

上田:ワゴンですら60代というのは我々にとっても非常に驚きというか、国内における「カローラ」ブランドの意味、将来を見据えていかざるを得ない状況にあったんです。

小沢:とはいえ、今回の12代目「カローラ」のセダンとツーリング、グローバルモデルはかなり大きいですね。

上田:セダン、ツーリングともに全長は4・6メートルを超えていますし、全幅もセダンが1・78メートル、ツーリングが1・79メートルになっています。

小沢:それはさすがに日本ではデカすぎますね。特に高齢ドライバーにはツラいんじゃないですか。

上田:ええ、そこで日本専用ボディを開発しまして、セダンはボンネット、ツーリングはボンネットとハッチゲートを除いて外側のパネルをすべて新たに作りました。

小沢:なんと!それはちょっとやりすぎでは(笑)。一見、そうは見えないデザインですけどね。

上田:それはうれしいですね。見た目のカッコよさを損なわずにサイズだけ小さくしたかったので。

小沢:とはいえ、先代よりは大きくなっていますよね。

上田:はい、3ナンバー化しています。ただ、できるだけ日本のお客さまにとって違和感のないサイズにしようと努めました。その結果、全長4・5メートル以下、全幅1・745メートルのサイズで、これは3代目「プリウス」と同じなんです。

小沢:そうか、「プリウス」も3ナンバーだけど売れているし、あれを新しい基準にしたんですね。

上田:あとは寸法だけでは語れない、視界の広さとかハンドルを切った時の取り回しのよさとか、そういった車両感覚のつかみやすさも工夫しています。具体的には、狭い駐車場でもこれまでと同様の感覚で駐車していただけるようにサイドミラーのステーを日本専用に新作し、サイズは変えずにミラー横端の位置を、ミラー格納時、旧型比左右プラス5ミリに抑えました。旧型「カローラ」が入る車庫ならば、新型でも問題なく駐車できるはずです。

小沢:まさしく涙ぐましい努力の末、扱いやすいコンパクト車格を生み出した。

上田:ドア内張りの肉を薄くして、少しのドアの開閉でも出入りしやすいようにもしています。

うえだ やすし

うえだ やすし

1991年トヨタ自動車に入社し、CVTやハイブリッドなどの駆動実験を担当。2007年製品企画部に異動し、3代目「ヴィッツ」の開発を手がけた。その後、欧州駐在となり「カローラ」を担当、現在に至る。趣味は読書で、最近面白かったのは宮部みゆきの『三鬼 三島屋変調百物語四之続』。

狙いは「ずっと乗っていたい気持ちのいい走り」

本文を読む

小沢:いや、参りました!って感じですが、その分、確かに走りやインパネのクオリティアップはすごいですね。まさに国際基準の質の高さで、正直言って、これまでの「カローラ」には乗れなくなっちゃうレベルかも。

上田:室内の広さや質はグローバル規格と同等です。それが共通プラットフォームを使う際の基本コンセプトですから。特にフロントシート回りはスペースも含めてグローバルモデルと変わりません。

小沢:ただ、全長が縮まっている分、リヤシートの足元は狭くなっているようですが。

上田:そういった部分はあると思いますが、それでも十分なスペースを確保していると思います。

小沢:まあ、ASEAN諸国では「カローラ」は高級車扱いだし、インドなどではリヤシートに何人も乗ったりしますからね。需要がまったく違う。一方、走りはテイストを変えているんですよね?一昨年に先行発売されたハッチバックの「カローラ スポーツ」とは微妙にセッティングが違うとか。

上田:今回は日本に合わせたというよりも、全体的な進化です。狙いは変わらず「ずっと乗っていたい気持ちのいい走り」なんですが、上質な中にもしっかりとタイヤが路面に付いている接地感とか、ステアリングを切った時に感じる直結感、そういったものをより重視した設定になっています。

小沢:よりテストドライバーの意見を重視するようになったとか。

上田:数値には表れない部分を重視して、「カローラ スポーツ」発売以後、サスペンションの減衰量ですとか、スプリングの硬さをチューニングし、より人間の感覚に合うように修正しています。

小沢:パワートレインは完全にひとクラスアップして、人気のハイブリッドは1・5リッターハイブリッドから「プリウス」同様に1・8リッターハイブリッドになりましたしね。

上田:その分、より余裕のあるパワーや静粛性が楽しめるようになったと思います。

「つながるクルマ、走るスマホ」へ

本文を読む

小沢:それから、驚いたのが装備面です。今回は先進安全性能からコネクティッド装備まで、本当にモリモリの盛りだくさんで、車種によっては、レクサスよりも充実しているんじゃないかと感心しました。

上田:まず、トヨタ・セーフティ・センス(TSS)は手を抜かずに最新世代予防安全性能を搭載したかった。一方、コネクティッド機能に関しても、「カローラ スポーツ」を“初代コネクティッドカー”と名付けたように、DCM(データ通信モジュール)を全車標準装備しています。これは「カローラ」だけではなくトヨタ全体の流れであり、今後のクルマはすべてコネクティッドカーであるべきだと。

小沢:まさにつながるクルマであり、走るスマホってことですね。

上田:そういった意味では、今回進化しているのはインフォテイメントシステムで、ディスプレイオーディオを全車標準装備にしています。

小沢:そうなんですよ!これ、結構画期的っていうか衝撃的で、ディスプレイオーディオは自分のスマホと連携することが大前提で、まさにスマホのモニターを画面に映し出し、音声を調節する機能がインパネに付いている。

上田:昨今、若い人はもちろん、スマホ所有が当たり前になってきていますから、逆にクルマから降りて徒歩で移動する場合にも、車内と同じスマホのナビアプリを使っていただけるようになっているんです。

「カローラ」ならではのワクワク感を

本文を読む

小沢:それにしても、つくづくすごい時代になりましたねえ。

上田:そうですね、テクノロジーが進化するスピードが速くなりました。

小沢:結局、「カローラ」とはなんだったんですかね。これまで、僕の中では永遠の国民車であり、大衆車のイメージだったんです。だからこそ5ナンバーにこだわっていたんだと思っていました。

上田:“大衆車”という言葉には縛られたくないと思っているんです。そもそも「カローラ」の原点は初代モデルにあって、当時は「プラス100ccの余裕」ですとか、お客さまが「大衆車ってこれだよね!」と思うところを少し超える価値を提供してきました。極端に大きいジャンプじゃないし、決して高級車ではないですけど、「カローラ」はこれまでもずっと、期待を超えるワクワク、ドキドキを盛り込んできたんです。

小沢:なるほど。そもそもちょっと上を行きながらもみんなが乗れる“高品質カー”だったんだけど、それが売れすぎて“国民車”としてのイメージが過度に定着してしまっていたと。

上田:そういう面もあるかもしれません。12代目は、ひとつの原点回帰だと考えています。

小沢:それと同時に“今風の理想的な日本人”というイメージもあると思います。外国人に負けない身体と英語を話せる能力をもち、もちろん美しい日本語も使いこなす……みたいな。

上田:そうかもしれません(笑)。

おざわ こーじ

おざわ こーじ

バラエティ自動車ジャーナリスト。1966年神奈川県横浜市生まれ。「NAVI」編集部を経て、フリーに。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。著書に『ドライブ上達読本』『クルマ界のすごい12人』など多数。TBSラジオ「週刊自動車批評 小沢コージのCARグルメ」出演中。