たかが酒、されど酒。その一献にまつわる蘊蓄と、
美酒をさらに美味しく楽しむコツとレシピを利き酒師が紹介します。

2016年5月記
至福の一杯【第2回】 ウイスキーにはいくつもの表情がある

マイ・ウイスキーグラスの勧め

文/写真・塩澤雄二

ウイスキーは飲み方を変えると風味も変わる。季節や気分に合わせた自分好みの飲み方を極めてみよう。グラスと飲み方で、1本のウイスキーが多彩な表情を演出する。

グラスと飲み方で、1本のウイスキーが多彩な表情を演出する

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1本のウイスキーが手元にある。さて、これをどう飲むかと思案した時、まず思い浮かぶのは「オンザロック」という人は多いのでは。とはいえ、ロックグラスがない場合、普段使いのグラスに冷蔵庫の氷をカラコロと入れ、ボトルを傾けトポトポと注ぐ。口に含むと舌に熱く、香りはきつく、「さすがオンザロックは強いな……」と即断し、そこに水を加えた何となく飲みやすい「水割り」が完成。ウイスキーの家飲みは、味も薄いが、感動も薄いのが常である。本来、「オンザロック」は氷のカッティング、酒の注ぎ具合、適度に酒と氷を触れ合わせるステアリングなど、意外に高度な技術が必要な飲み方。家飲み「オンザロック」が、1杯目のウイスキーの印象を残念なものにしている危険性は極めて高いのだ。ウイスキーの風味を家飲みでも損なわずに引き出すコツは、グラスにある。

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グラスは、少量をストレートで飲むショットグラスのほか、香りをためられるチューリップ型のもの(ワイングラスでもOK)、ハイボールを作るなら縦長のもの、ロックグラスなどがあると、1本のウイスキーをいろいろな飲み方で楽しめる。ロックグラスは、カッティングが多いものほど高価だが、味に影響するわけではないので、安価なものでも十分。いずれも自分の手に馴染むものがマイグラスに最適。ウイスキー用のテイスティンググラスも、家飲みだからこそ持っておきたい酒器だ。

ウイスキーの素顔と向き合う飲み方

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ウイスキーはいくつもの原液がブレンドされ、加水でアルコール度数を調整し、ボトルに詰められた状態が完成品。まずはその素顔の色と香り、風味を「ストレート」で確かめよう。“マイ・ティスティンググラス”があれば、1杯目の印象はガラリと変わる。ウイスキーとの対話を時間をかけて愉しもう。少量を注ぎ、色合い、輝き、グラスの壁面に残るとろみを観察。次に、香りを確かめながら最初のひと口を含む。事前に向き合う時間が長いほど、そのウイスキーの個性に気付く。そこには、価格や銘柄や知識とは無関係な邂逅がある。ビターのチョコで舌をリセットしながら深く深く探究していこう。2杯目は少し大ぶりなグラスを用意し、ウイスキーを同量の水で割ってみよう。「トワイスアップ」と言う飲み方で、水は軟水の天然水、常温のものがよい。先ほどの個性はそのままに、酒の自己主張が弱まる分、飲み手の理解が一歩深まる。香りはより広がりを持ち、風味は舌にやさしくのび、広がりをもちながら喉を通る。余韻の中、ウイスキーの「おいしさ」を堪能できるだろう。塩分を控えたナッツの香ばしさがよく合う。

ウイスキーの多彩な表情を愉しむ飲み方

ウイスキーは飲み方を変えると風味も変わる。季節や気分に合わせた自分好みの飲み方を極めてみよう。

しおざわ ゆうじ◎1966年、神奈川県生まれ。SSI認定の利き酒師・焼酎利き酒師。酒を地域文化・食文化の側面から着目し、その中に伝統の継承と革新の可能性を探求中。