東京オートサロン2026
トヨタ自動車が「クルマの祭典」に参加する理由

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文/善福寺正文 写真/阿部昌也、トヨタ自動車

トヨタ自動車が日本および世界を代表する自動車メーカーのひとつであり、そのプロダクツが使い勝手に優れ、かつ高品質であることは、誰もが知るところだろう。だがそんなトヨタ自動車は2026年1月、カスタムカーとチューニングカーの祭典として知られる東京オートサロン2026に「TOYOTA GAZOO Racing」としてブースを出展した。いや正確にいえばトヨタ自動車は以前から毎年、東京オートサロンへの出展を続けている。

世界一の完成車メーカーであるトヨタ自動車は、なぜ東京オートサロンに出展し続けるのか。そこには「町いちばんのクルマ屋」であろうとする、トヨタ自動車の心意気があった。

街のチューニング屋さんと同じ屋根の下にトヨタのブースが

東京オートサロンとは、毎年年始に行われるカスタムカーやチューニングカーのお祭りだ。2026年も1月9日(金)から11日(日)にかけて千葉県幕張メッセで開催され、3日間で27万人ものクルマ好きが訪れた。

にぎわう会場内には、もちろんトヨタ自動車(TOYOTA GAZOO Racing)のブースもあった。実はトヨタは東京オートサロンの常連であり、毎回、ブースは身動きが取れないほどの人出で埋め尽くされる。

東京オートサロン2026におけるTOYOTA GAZOO Racingブースの一角。写真は来場者から特に大注目を集めていた新型レーシングカー「GR GT3」のプロトタイプ。

東京オートサロンには、大手パーツメーカーだけでなく、いわゆる街のチューニングショップやカスタムショップも大挙して出展する。自動車文化に詳しくない人からすると、「やんちゃなクルマたちのお祭り」のようにも見える。そういったイベントになぜ、世界一の完成車メーカーであるトヨタ自動車が出展するのだろうか?

その背景には、トヨタ自動車がこだわり続ける「クルマ屋としての熱い志」がある。それを説明するために、話は一度、2007年へとさかのぼる。

2007年、スポーツカーの消滅に伴う成功と屈辱

今から19年前の2007年、トヨタ自動車のラインアップから唯一のスポーツカーだったMR-Sが消えた。企業として業績と効率を追求するならスポーツカーは不要と、当時の経営陣は決断したのだ。

その経営判断はある意味正しく、結果としてトヨタ自動車はその後、販売台数世界No.1の自動車メーカーになった。

だが反作用もあった。確かに経済的で信頼性の高い実用車は飛ぶように売れたが、「トヨタはスポーツカーを諦めた」といったニュアンスで、一部のユーザーから否定的な印象を抱かれたのだ。

そんな状況に疑問を抱いたのが、当時トヨタ自動車の副社長だった創業家の長男、豊田章男(敬称略。現トヨタ自動車代表取締役会長)だった。

東京オートサロン2026でトークセッションを行った豊田章男会長。ただし東京オートサロンでは豊田章男とは名乗らず、“普通のクルマ好きのおじさん”という立場から「モリゾウ(愛知万博のマスコットキャラクター「モリゾー」に由来)」を一貫して使用している。

「我々はモータースポーツを通じて人とクルマを鍛え、もっといいクルマ作りにつなげなければいけない」と決意した豊田章男は、ドライビングの師匠であったトヨタ自動車のマスターテストドライバー、成瀬 弘氏(故人)とレーシングチームを結成。「ニュルブルクリンク24時間レース」という世界的な耐久レースに挑戦した。

だが同チームはトヨタの名前を使用することが社内的に許されなかったため、「Team GAZOO」と名乗った。そして当時のトヨタ自動車はスポーツカーの開発をやめてしまっていたため、豊田章男は5年も前に生産を終了していた80スープラという「型落ちスポーツカー」で練習走行を行い、本番は、アルテッツァという古いスポーツセダンの中古車を改造して出場するほかなかった。

2007年のニュルブルクリンクサーキットで豊田章男が練習走行用に使用した80スープラの同型車。豊田章男は、当時すでに生産を終えていた旧型車を使わざるを得なかった。

なんとか完走はしたものの、海外の有力メーカーチームからは、時代遅れのマシンで走る姿を嘲笑されたように感じたという。豊田章男は、そしてTeam GAZOOに参加した社員たちは、悔しかった。

だが、彼らはあきらめなかった。

東京オートサロン2026のブースに展示されたパネル。2007年に感じた悔しさがTOYOTA GAZOO Racingの原動力であり、その悔しさは今も忘れていないという。

「いいクルマ」を作り、そして東京オートサロンで伝える

豊田章男が2009年に社長に就任してからも、チームはトヨタの名前を使うことができなかったが、「モータースポーツの現場で得た知見とノウハウを、“もっといい量産車作り”に活かす」という彼らの決意は揺るがず、その後もさまざまなレースに挑戦。その経験を、公道を走る量産車の思想と設計へフィードバックしていった。

その活動は年を追うごとに拡大していき、2015年にはついに「TOYOTA GAZOO Racing」という形で“トヨタ”を名乗る正式な部隊となった。

写真は2018年のFIA世界ラリー選手権(WRC)第3戦「ラリー・メキシコ」を疾走するTOYOTA GAZOO Racing World Rally TeamのヤリスWRC。

2026年1月、TOYOTA GAZOO Racingは原点回帰を狙い、再び「GAZOO Racing」を名乗ったが、「道が人を鍛え、クルマを鍛える」という思想を体現するべく、さまざまな世界レベルのモータースポーツに参戦するという点はブレていない。そこで得た知見をもとに、市販車である「GRシリーズ」の各モデルや、走りのポテンシャルを大きく向上させる「GR PARTS」等々を開発およびリリースしている。しかもそれは豊田章男ひとりではなく、志を同じくするトヨタ自動車の社員たち(豊田章男いわく「仲間たち」)みんなでやっていることだ。

「儲かるクルマ」ではなく「もっといいクルマ」を作りたいという想いを抱く仲間たちが、いつしかモリゾウこと豊田章男と一緒に動き始めた。
東京オートサロン2026が実質的には初公開の場となった、「レーシングカーに匹敵するロードカー」であるというGR GTのプロトタイプ。

そういったトヨタ自動車の志、すなわち「我々は“もっといいクルマ”を作りたいと本気で考えている自動車メーカーである」という姿勢と事実を社会に伝えるうえで格好な場のひとつが、「東京オートサロン」だった。これこそがトヨタは毎年、出展を続ける理由なのである。

もちろんこの一文はトヨタ自動車の公式見解ではなく、筆者の個人的な推測にすぎない。だが事実は、当たらずといえども遠からずではないかと確信している。

カスタムを通じて「いいクルマ」の価値を感じてほしい

今やトヨタ自動車は、世界的に見てもトップレベルの“アツいクルマ”を作るメーカーである」ということは、筆者のような自動車愛好家にとってはもはや自明の理であり、今さら力説すべきことではない。

だが一般的な自動車ユーザーに、あまねくそのスピリットを知らしめるという目標は、いまだ道半ばにある。

東京オートサロン 2026に出展された「GR Yaris Sébastien Ogier 9x World Champion Edition」。FIA世界ラリー選手権で歴代最多に並ぶ9回目のドライバーズチャンピオン獲得したセバスチャン・オジエ選手の偉業を記念した特別仕様車だ。

もしもあなたが、トヨタのクルマに保守的なイメージを抱いているのであれば、一番いいのは「GRシリーズ」の何らかのモデルを購入してみることだ。そうすれば、今のトヨタ自動車がやろうとしていることの一端は即座に伝わるだろう。

とはいえGRシリーズの各モデルは相当スポーティであり、価格も決して安価ではないため、万人向けではない。

であるならば、とりあえず・・・例えばだが近隣のGR Garageまたはトヨタ販売店で「GR PARTS」の機能パーツを購入し、愛車に装着してみるのはどうだろうか?

東京オートサロン2026で展示されたGR PARTS(のごく一部)。

これまではクルマをカスタマイズすることなど想像すらしていなかった人でも、モータースポーツを起点に作られたGR PARTSの機能部品によって愛車のパフォーマンスとフィーリングの向上を実感してみれば、人生において「いいクルマ」に乗るということの価値を――おそらくは問答無用で感じ取ることになるだろう。

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