「休む」「遊ぶ」「癒す」「整える」で自分を取り戻すトレッキング初心者でも簡単・自由気ままに楽しめる癒しの自然旅へ

湖面の揺らぎときらめき、深緑や紅葉といった季節ごとの視覚効果。人間の心身にも有益な効能をもたらすフィトンチッドの香り。頬をなでる風、木道のトレイルなどの触覚刺激。特にさえずりが美しいとされ日本三鳴鳥にも数えられるオオルリなどがもたらす聴覚的癒し。さらには、山小屋のグルメによる味覚のおもてなしまで。五感をフルに働かせて、心からの癒しを手軽に味わえる場所が長野県にありました。この夏は、本格的な登山はちょっとハードルが高いという方でも楽しめる、初心者向けのトレッキングコース、白駒の池へドライブ旅に出かけてみませんか。
Text:Kiyoto Kuniryo
Photo:Shuji Goto
Edit:Akio Takashiro(pad inc.)
ディープな自然にサクッとアクセスできる
普段から近くの公園やバーベキュー広場には行ったりする。でも、本当はもっとディープに自然と親しんでみたい。でも、いきなりしっかりと山歩きするのは自分には(自分の家族には)ハードルが高そう。
そうした心配を吹き飛ばして、もっとディープに、いきなりしっかりと「Rest(レスト)」「Recreation(レクリエーション)」「Relaxation(リラクゼーション)」「Retreatment(リトリートメント)」を堪能できる自然(ネイチャーアトラクション)が、白駒の池(長野県南佐久郡)のトレッキングにはあるのです。
白駒の池は、北八ヶ岳の標高2,115mの地にある湖。「池」と呼ばれていますが、標高2,100m以上の高地における日本最大の天然湖です。
最寄りの「白駒の池入り口有料駐車場(180台収容可能)」まで、東京からクルマで約2時間30分。駐車場の目の前に北八ヶ岳の峰々への出発点となる登山口「白駒の池入り口」があります。標高2,100m超えの楽園の入り口までクルマで直接にアクセスできるのがうれしいところです。

「白駒の池入り口」から一歩足を踏み入れると、そこはもう日本三大原生林(諸説あり)のひとつとされるエリア。苔の絨毯が敷き詰められた神秘的な原生林の中を歩いていきます。

「八ヶ岳白駒の池周辺の原生林」は、日本蘚苔類学会から「日本の貴重なコケの森」として認定を受けています。「白駒の池入り口」から森に入って15分ほど歩いていくと、白駒の池が出現。

日常を離れてドップリとリラックス
自然を体感しながら歩を進めていると、次第にいろんなモツレやワダカマリがほどけていくような心地よさを感じるようになるはずです。それこそが「森林セラピー」です。森林浴はからだの生理機能を調整して精神的ストレスを軽減する効果を有することが、近年の科学的研究によって多角的に実証されています。「科学的エビデンスをもった森林浴」を意味する「森林セラピー」を提唱している千葉大学名誉教授・医学博士の宮崎良文氏らの研究によると、森林環境下では人体に以下のような変化が起き、リラックス効果も得られることが解明されているのです。
・ストレス時に高まる交感神経活動の低下
・リラックス時に高まる副交感神経活動の上昇
・脈拍数の低下
・血圧の低下
・コルチゾール(ストレスホルモンの一種)濃度の低下
・脳の前頭前野活動の鎮静化
白駒の池周辺の苔の森は10カ所に名前が付いています。駐車場からすぐの「白駒の森」を越えて白駒の池を時計回りに進んでいくと現れるのが「もののけの森」です。

みずみずしい緑の苔に鳥のさえずりが沁み入る。そんな研ぎ澄まされた静寂の中、自然の植生を守るために整備された木道の上を歩いていきます。自分の感じるまま・思うままに過ごしてみてください。それこそが、白駒の池トレッキングの醍醐味です。
「1周が約40分」という情報に囚われて、時間どおりに歩こうとしないでください。自分の思うままに写真を撮ったり、近景あるいは遠景を絵に写してみたり、目を閉じて聞こえてくる音に集中したり。ポエジー(詩情)が濃厚な場所なので、詩作に耽ってみるのも一興です。
いや、何かをしなければいけないわけではありません。ただ立ち止まり、何もしないで、静かに湖面を眺めるだけでもいいのです。それこそ、立派なマインドフルネス。何もしない時間こそが一番の贅沢ともいえるでしょう。
私たちは日常生活で何かと認知・分析・評価・判断を繰り返し、ときには疲弊していますが、こうして自然の懐に飛び込んだ一日においてはそうした活動を休止しておくのがおすすめです。クリティカル・シンキング(批判的思考)やロジカル・シンキング(論理的思考)は完全にオフモードにして、ただただ自然そのものを浴び、自然と一体になってみてください。
いつもの社会的な立場や役割からしばし離れ、「社会の一員として責務を果たす自分」から「自然の一部でしかない自分」に還るのです。

しっかりと心を癒したなら、次は舌に悦楽を。1922年に営業を開始して100年超えの歴史がある「白駒荘」でのランチ&カフェも白駒の池トレッキングの醍醐味のひとつです。春から秋のシーズン限定でカフェは10時から16時、ランチは11時から14時30分まで営業しています。


急勾配があるわけではなく、木道が整備された箇所が多いとはいえ、白駒の池トレッキングに出かけるなら、ソールに適度なグリップ力のあるスニーカーやトレッキングシューズなどの歩きやすい靴が必須です。トレッキングに適した服装と水分補給のための飲み物もお忘れのないようにお願いします。さらには、急な天候の変化に見舞われることも想定してバックパックにはレインウェアも入れておくと安心です。
次なる「物語」の候補地へ
いかなる「物語」に触れられるか、そこに没入できるか、その一部分となれるか。いろんな捉え方・考え方があって然りですが、本稿の筆者である「私」は「人生の方向性や深度は、自分が出合えた物語によって変わっていくんだな」と思っています。
たとえ同じ景色や温度、緑、風、さえずり、さざなみに触れたとしても、「私」次第で「物語」はまったく違うものになっていきます。
もしも、白駒の池トレッキングに出かけてみて、そこでの「私」が出合えた「美しい物語」や「健やかな物語」などに感じるもの・得るものがあったとするなら、すでにあなたはアウトドアフリークの道を歩み始めているといえるでしょう。
そこで、次なる「物語」に出合える場所として3つを挙げておきます。ここからは山歩きの要素も加わってきますので、どうか無理はせず、安全第一に!



さて、あなたはどの方向を目指し、どこまで行ってみますか?それでは、存分に「自分ならではの物語」をお楽しみください。
