トヨタ博物館のドリームカーたちTOYOPET CROWNに込められた“おもてなし”の心 Text & Photo:Daisuke Katsumura

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日本が戦後の発展途上から抜け出そうともがいていた1950年代、各自動車メーカーは海外のメーカーと提携して国産乗用車を生産しはじめていました。そんななか、トヨタ自動車は国内技術のみで自動車の製造にチャレンジすることを選択。こうして1955年にデビューを飾るのが現在までトヨタの高級乗用車の地位に君臨し続けているクラウンです。コンパクトなボディながら、後席をはじめ随所に施された快適性への工夫に、トヨタの“おもてなし”の心を感じることができます。

今回は愛知県長久手市にある世界のクルマと自動車文化の博物館「トヨタ博物館」に収蔵されているデビュー当時の1955年式「トヨペットクラウン」をじっくりご覧いただきましょう。

日本の技術が生み出したトヨタのフラッグシップ

当時の自動車メーカーは、欧米の自動車メーカーと技術提携することで、自動車製造のノウハウを蓄積しつつノックダウン生産を行っていました。そんななか、トヨタは独力で自動車製造にチャレンジし、終戦からたった10年しか経過していない1955年に世に送り出されたのが、トヨペットクラウンです。

ボディデザインは当時世界でも最先端だったアメリカの乗用車の影響を受けていることがわかります。テールランプ周辺も当時アメリカで流行しはじめていたテールフィンの影響を受けています。

そのため大きな車体を想像しますが、日本の小型乗用車の規格に収めるべく、実際の車両は想像よりもコンパクトなことに驚くはずです。

当時の自動車にはウインカーはなく、腕木式方向指示器が一般的でした。初代クラウンの初期型にもセンターピラーに備わっています。国内で腕木式方向指示器を製造していたメーカーの名称から、これを「アポロ」と呼ぶ人も多いです。もちろん現在ではより視認性に優れたウインカーに置き換わっていますが、思いをはせれば、小さなアポロのみで右左折を行っていた当時の交通はとてもおおらかだったのでしょう。

おもてなしの思想が宿るクラウンの車内

クラウンは、個人ユーザーに向けたパーソナルカーであると同時に、開発当初から官公庁の公用車や法人の社用車としても想定されていました。そのため運転のしやすさはもちろんですが、後席に乗る人の快適性も考慮されたつくりが各所に見られます。そのもっとも特徴的なディテールがドアの開閉方法です。

前席は前方にヒンジを持ち、後方が開きますが、後席ドアは後方にヒンジが備わり、前方が開く構造となっているのです。これは後席に乗る人が乗り降りの際に足元のスペースを広く取るための工夫です。この状態を側面から見ると、両方のドアが観音開きとなるため、このクラウンは別名「観音開きクラウン」や「観音クラウン」と呼ばれています。

初代クラウンは全長約4.3mしかありません。そんな小さな車体ですが、リアシートの居住性はかなり高く、足元も広々していることがわかります。

ヘッドスペースもしっかり確保されており、後席は想像以上に快適な空間となっています。以降14回のモデルチェンジを経て、現在まで続くクラウンの「おもてなし思想」の源流は初代モデルから受け継がれ続けているといっても過言ではありません。

運転席は左右がつながったベンチシートで、シフトレバーはステアリングコラムに備わる、いわゆる「ベンコラ」レイアウトになります。この当時としては標準的なレイアウトです。

一方でダッシュパネルがシートと同色でペイントされていたり、メッキで加飾されたグローブボックスやステアリングのホーンリングなどの豪華な装備が満載なのは本格的な高級車であることを物語っています。

乗員の安心と乗り心地を支えた堅牢なエンジンと足回り

搭載されるエンジンは先行してデビューしていたトヨペットスーパーに搭載されていたR型直列4気筒OHV1.5Lで、48HPを発生します。このR型は堅牢かつ基本設計に優れており、乗用車からトラック、フォークリフト、レーシングカーなど幅広く使用されるトヨタを代表するエンジンの元祖となります。

後のカリーナ2000GTやマークII 2000GSSなどに搭載される2L DOHCの18R-G型や4ランナー(ハイラックスサーフの北米仕様)に搭載される2.4L SOHCターボの22R-TE型もこのR型から派生発展したパワーユニットとなります。

クラウン登場までの日本車の足回りは、当時の道路事情などを考慮して実用重視のトラックと同じ構造でしたが、クラウンは本格的な高級乗用車ということで、足回りにも乗り心地を重視した新たな技術が投入されています。

フロントには乗用車に最適なダブルウィッシュボーン式の独立懸架を採用。リアにも乗り心地を重視した3枚リーフスプリングを採用。これにより後席の乗り心地は大幅に改善されました。ホイールはTマークをあしらったセンターハブキャップが備わる15インチで、6.00/6.40-15サイズのバイアスタイヤが組み合わされます。

このクラウンは、常設展示室のエスカレーターをあがった3階の踊り場に展示されており、真っ先に目に入ります。その威風堂々とした佇まいと、驚く程コンパクトなボディサイズは必見です。

トヨタ博物館を訪れて、心ゆくまで堪能することをおすすめします。

トヨタ博物館

住所
愛知県長久手市横道41-100
Tel
0561-63-5151(代表)
開館時間
9:30 〜17:00(入館受付は16:30まで)
休館日
月曜(祝日の場合は翌日)、年末年始
入場料
大人1,200円、シルバー(65歳以上)700円、中高生600円、小学生400円、未就学児無料(いずれも一般料金、税込み)

※文化館1階、3階は、どなたでも無料で入場できます。
※TS CUBIC CARDを提示し、カードでお支払いいただくと入場料を200円(小学生100円)引きいたします。

https://toyota-automobile-museum.jp/

TOYOPET CROWN

型式
RS型
年式
1955年
サイズ
全長4,285mm×全幅1,680mm×全高1,525mm
ホイールベース
2,530mm
車両
質重量
1,210kg
エンジン
水冷直列4気筒OHV
排気量
1.453L
最高出力
36kW(48HP)/4,000rpm

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