気になるトヨタ車すべては走りのために。
モータースポーツが育むクルマ愛
GR86 RZ
Text:Shinya Yamamoto
photo:Naoki Hasegawa
GR86は、トヨタのモータースポーツへの愛をカタチにしたクルマ。「86」の名を引き継いだその性能は、スポーツカーファンを虜にしています。今回は、自動車研究家の山本シンヤ氏に富士スピードウェイ内「トヨタ交通安全センター モビリタ」で試乗いただき、GR86の魅力を余すことなく語っていただきました。
撮影協力
トヨタ交通安全センター モビリタ
トヨタ交通安全センター モビリタは、ドライバーのみならず交通社会を構成する全ての方々の安全意識向上に寄与する目的で、設立されました。国内最大級の10万㎡のフラットコース、35度バンクや低ミュー路(雪道)をもつ専用コースなど、多様な安全運転実技講習を実施する為の設備を備えています。ドライバー向けの安全運転講習会、幼児向けの交通安全教室、交通安全に携わる人材の育成・指導など、それぞれの対象・ニーズに合わせた様々なプログラムを展開しています。
住所:静岡県駿東郡小山町中日向694(富士スピードウェイ内)
Tel:0800-123-0250
(月曜~金曜 9:30~12:00 13:00~17:00/土・日・祝祭日・年末年始除く)
https://www.toyota.co.jp/mobilitas/
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山本シンヤ/Shinya Yamamoto
自動車メーカー/チューニングメーカー開発、自動車雑誌の編集長/編集次長などを経て 2013年に独立。「造り手」と「使い手」の懸け橋となるべく、「自動車研究家」と名乗り活動を行っている。
86が歩んできた歴史。スポーツカーへの情熱
かつてトヨタにはさまざまなスポーツカーがラインアップしていたが、2000年以降は縮小傾向。そして2007年のMR-S生産終了でトヨタからスポーツモデルが完全に消滅してしまった。
効率や業績、数字だけを追い求めていくと「スポーツカーは不要」と言う考え方はビジネスとしては正論だ。確かにその頃、トヨタは販売台数で世界No.1になったが、その一方でクルマ好きからの評価は最低だった。その結果、「トヨタはつまらない」、「欲しいクルマがない」と完全にソッポを向かれていたのも事実だ。
トヨタ社内にはそんな状況を危惧し「ちょっと待った」をかけた人たちがいた。それが当時副社長だったモリゾウこと豊田章男氏とマスタードライバーの成瀬弘氏を中心に発足した元祖「GAZOO Racing」だった。モータースポーツへの挑戦を通じて「人とクルマを鍛える」と言う取り組みは有名な話だが、それを経て生まれたのがスバルと共同開発されたFRスポーツ「86」である。
トヨタとスバル、文化も開発手法もルールも異なる2社が1台のクルマを開発する。当初はかみ合うどころか破談の危機もあったと言うが、最後は「いいクルマをつくる!」と言うパッションが大きな力になった。
難産の結果はどうだったのか?
コンパクトかつライトウェイト、そのうえアフォーダブルな本格FRスポーツの誕生に、日本はもちろん世界各国、老若男女問わず多くのファンが生まれた。加えて、元気がなかったカスタマイズメーカーの活性化やモータースポーツも盛り上がり……多方面に大きな影響も与えた。
そして、2021年に2代目が登場し、スポーツカー文化は次のステップに進んだ。トヨタ×スバルの共同開発なのは不変だが、初代と変わった部分は大きく分けて2つある。
ひとつは初代以上に一体感のある「ワンチーム」で開発が進められたことだ。トヨタが企画・デザイン、スバルが開発・生産と言う役割分担はあったが、今回はその垣根を大きく超えるやり取りがあったと聞く。試乗会や発表会の席で両社のエンジニアが積極的にコミュニケーションを取っている姿を見ると「本当に別々の会社の人なの?」と思うくらいだ。
もうひとつはトヨタにおける86のポジショニングの変化である。それは2代目であると同時にトヨタのスポーツブランド「GR」のオリジナルスポーツカーの一員になったことだ。つまり、モリゾウこと豊田章男社長が常日頃から語る「モータースポーツを起点としたもっといいクルマづくり」が色濃く反映されている。
ちなみにGR86は開発の最後の最後でセットアップ変更が行われている。通常では考えられないタイミングだったが、その決断を下した豊田社長はそこまでしてGR86の「味」に徹底してこだわったのだ。
速さと強さを支える魅力的なスペック
GR86の開発コンセプトは「継承と進化」である。ただ、9年にわたる熟成でひとつの完成形となった初代を超えることは難しく、結果としてエンジン、トランスミッション、車体、サスペンションなど全方位での進化が求められたそうだ。一見初代の流用と思われる部品も、新型用に設計し直されたものも多いと言う。
その進化は走り始めた瞬間からすぐに実感できる。エンジンは2・4L-NAを搭載。初代の2・0L-NAに対して力強さや実用域の乗りやすさを引き上げつつも、初代以上に高回転までスッキリと回るフィーリングを手に入れている。トランスミッションは6MT/6ATを用意。6MTは軽い操作力ながらもカッチリしたフィーリングで素早い操作でも確実にギアチェンジが可能。6ATは単なるイージードライブではなくドライバーの意志に忠実なアップ/ダウンシフトを行う(スポーツモード選択時)賢いATなのだ。自分で操る「MT」とMT顔負けの
制御を備えた「AT」、どちらを選ぶべきか、正直かなり悩む……。
フットワークは、ステアリングの操作に対するクルマの反応はメリハリのある動きで、「私はスポーツカーに乗っています」を実感しやすい。
ハンドリングはより粘りを増したリヤのスタビリティとノーズをグイグイとインに入れるフロントの回頭性のよさ、そしてミシュランパイロットスポーツ4のグリップ力の高さも相まって、ドライ路面はもちろんウエット路面での安心感や、高速走行での安定性も高い。
このように現代のクルマとして必要な性能をしっかりと備えつつも、さらなる“引き出し”を用意しているのがGR86である。
GR86の走りの考え方は、アンダーステアを嫌いフロントはタイヤの限界ギリギリまで粘らせるのに対して、リヤはタイヤの限界ギリギリまで粘らせない代わりに流れてからのコントロール性を重視していることだ。要するにFRのうまみを最大限に活かすセットアップになっている。
その結果、ドリフト時もクルマの挙動が安定しているのと、その状況が的確にドライバーに伝わるためコントロールも容易。誰でもカッコよくて速いドリフトが可能なのだ。
この辺りは限界がより高いところにある「ピュアスポーツ」のGRスープラ、速さと強さを兼ね備えた「戦うスポーツ」のGRヤリスがあるからこそ、GR86は「操る楽しさ」、「FRスポーツカーを楽しんで!!」と言う官能性や気持ちを最優先に考えられていることが、セットアップの方向性からもわかるだろう。
ちなみにマスタードライバーである豊田章男社長は「GRの名を冠するモデルには“野性味”が必要」と語るが、筆者はその本質は「八方美人ではなく個性を伸ばす」だと分析している。GR 86の個性はズバリ「FRらしさ」だが、その走りに一切のブレはないどころか、より明確に、より色濃くなっている。
機能性を研ぎ澄ました意味のあるデザイン
スポーツカーにとってデザインは重要な要素だが、GR86のそれはカッコよさに加えて機能が伴っているのが特徴だ。
エクステリアは空気の力を味方にする「空力操安」の考えが盛り込まれている。フロントマスクはGRブランド共通のファンクショナルマトリックスグリルとデイタイムライト付きのヘッドライトが特徴。初代にあったフォグランプが廃止されたのは冷却用ダクトを設けたためだ。サイドはフロントフェンダーのエアアウトレットとサイドシルスポイラーが特徴。これはタイヤ/ホイール周辺に発生する乱気流を抑えて操縦安定性を高める効果が。リヤはフェンダーからギュッと絞り込まれたデザイン処理で凝縮感が高められている。トランクはダックテール形状でスポイラー未装着ながらも初代のリヤスポイラー並みの空力特性を備える。
インテリアは「運転に集中できる」コックピットの実現のために、初代で評価された機能性をより研ぎ澄ましている。インパネ上部はフラットでメーターバイザーも突起を抑えた形状で運転に集中できる環境づくりが行われている。メーター周りは7インチ液晶+セグメント多機能型デジタルメーターと、令和のスポーツらしいデジタルを上手に融合させた。
そろそろ結論に行こう。2代目は初代ユーザーが嫉妬するくらいの「走りの進化幅」と、大人の琴線にも響く「クーペの魅力」がプラスされた一台だ。それらを踏まえると、まさに“攻め”のフルモデルチェンジと言っていいと思う。
Pick UP GR86進化した機能
2.4L 排気量
2.4Lの自然吸気エンジン(FA24)は235PS/250N・m を発揮。高回転型NAのよさを損なわず扱いやすさを高めるため、ブロック、ピストン、コンロッド、クランク、D-4Sなどは新設計。
アルミ素材軽量ボディ
車体はインナーフレーム構造、構造用接着剤の採用により剛性アップ。同時にアルミ素材の積極的な使用やスチール素材の薄肉化、細かい部品の見直しにより、軽量化も実現(初代比で-75㎏)。
【GR86 RZ 6MT】
Specifications
- サイズ
- 全長4,265㎜×全幅1,775㎜×全高1,310㎜(アンテナを含む。ルーフ高は1,280㎜)
- 乗車定員
- 4名
- 燃料消費率
- 11.9㎞/L(8.0/12.8/14.2)/(市街地モード/郊外モード/高速道路モード)( WLTCモード、国土交通省審査値)
- エンジン
- 型式:FA24
総排気量:2.387L
最高出力(ネット):173kW(235PS)/7,000r.p.m.
最大トルク(ネット):250N・m(25.5kgf・m)/3,700r.p.m. - 走行装置・駆動方式
- サスペンション(フロント/リヤ):マクファーソンストラット式コイルスプリング/ダブルウィッシュボーン式コイルスプリング
ブレーキ(フロント/リヤ):ベンチレーテッドディスク/ベンチレーテッドディスクブレーキ(作動方式):油圧式
駆動方式:FR(後輪駆動方式) - メーカー希望小売価格
- 334万9,000円(税込み)
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