The Echigo-Tsumari Art Triennialeクルマで巡るアートの祭典「大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ2024」の魅力
日本の自然を舞台に、多様なアート作品と里山にくらす人々が生み出した文化を同時に楽しめる芸術祭が、日本の各地で開催されているのをご存じでしょうか。さまざまな作品を目的地に、愛車を駆ってアートに触れる旅は、一般的な旅行とは違った特別な体験となります。2024年7月から、新潟県十日町市・津南町の里山を舞台に開催される「大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ2024(以下、大地の芸術祭)」は、こうした芸術祭の草分けです。コロナ禍を経て今年で9回目の開催となる注目イベントの魅力と見どころをご紹介します。
アートによる地方創生の先駆け的存在
新潟県十日町市、津南町の越後妻有エリアは、日本でも有数の豪雪地帯として知られ、かつて過疎・高齢化が進んでいました。「大地の芸術祭」は、その里山をアートの力で復活させるべく、2000年に第1回が開催。「人間は自然に内包される」というコンセプトの下、国内外の著名なアーティストと地域住民が協働し、観るのではなく“体験する”芸術祭として地域に新しい文化の息吹をもたらしました。
「大地の芸術祭」は、約3年に1度のペースで開催されるトリエンナーレ形式を採用しています。2022年の第8回開催時には国内外から約57万人が訪れるなど、唯一無二の芸術祭となり、アートによる地方創生のロールモデルを築きました。
必ず観ておきたい常設展示作品
「大地の芸術祭」の舞台となるのは、新潟県十日町・中里・川西・松代・松之山・津南の6エリア。約760,000㎡にもおよぶ広大な土地を美術館に見立て、自然の中だけでなく、例えば廃校になった学校跡地や空き家などにも作品が展示されます。鑑賞者は、クルマなどで巡ることで、アートはもちろん美しい里山の文化や情景も同時に体感できるのが大きな魅力です。
第9回となる今回の「大地の芸術祭」は、2024年7月13日(土)から2024年11月10日(日)の全87日にわたって開催されます。その期間以外にも、1年を通して数多くの常設作品*を鑑賞できるのも大きな特徴のひとつ。まずは、その中から必ず観ておきたい代表作を紹介します。
*11月下旬~4月下旬の冬季は、雪の重みによる破損の可能性があるため、屋外作品や空き家作品の多くは非公開となります。公開日時は公式ホームページよりご確認ください。
イリヤ&エミリア・カバコフ『棚田』(松代エリア)
「大地の芸術祭」を代表するアーティスト、イリヤ&エミリア・カバコフ夫妻の作品。棚田の中に、伝統的な稲作の情景を詠んだ詩と農作業をする人々の姿を象った彫刻が配置され、隣接する拠点施設・まつだい「農舞台」の展望台から見ると、詩と風景、彫刻作品が立体絵本のように浮かび上がります。
マ・ヤンソン / MAD アーキテクツ『Tunnel of Light』(中里エリア)
越後妻有を代表する景勝地のひとつ、清津峡渓谷のエントランスとトンネル全体で展開される作品。全長750mのトンネルを潜水艦に見立て、途中にある3つの見晴らし所や通路、終点のパノラマステーションをアート化し、自然の五大要素「木・土・金属・火・水」を模した建築的な空間とアーティスティックな雰囲気を生み出しています。
レアンドロ・エルリッヒ『Palimpsest:空の池』(十日町エリア)
現代美術界の注目スポット「越後妻有里山現代美術館MonET」を象徴する作品。MonETの建物と回廊に囲まれた大きな池に光が反射して映し出される鏡像が、2階のある地点から眺めることで複層化し、不可思議な感覚を体験することができます。日本を代表する建築家・原広司の設計にレアンドロの世界が融合した必見の作品です。
2024年開催の見どころを紹介!
今回は、常設作品に加え、「大地の芸術祭」では、新作・新展開作品85点を追加した311点が公開されます。その中で2024年の注目の作品を見ていきましょう。
奴奈川キャンパス(松代エリア)
旧奴奈川(ぬながわ)小学校「奴奈川キャンパス」を、光・音・紙・木を通して子どもたちが五感を全開にして体験できる施設に改修。見る・触る・聴く・歩くといった体験を通して作品と対話することで、一人ひとりの経験として蓄積される場になります。
マ・ヤンソン / MAD アーキテクツ『野辺の泡』(松代エリア)
建築を通して人・都市・自然との新たな関係性をつくり出すマ・ヤンソンのランドスケープ作品。2016年に日本と中国の交流拠点として空き家を改修した「華園(中国ハウス)」の庭に噴き出す泡の内部に入ることができ、内外から唯一無二の空間を体験できます。
ターニャ・バダニナ『白い服 未来の思い出』(十日町エリア)
「白」が表しているのは「追悼、死の浄化、魂の解放、天使の色」であり、モスクワの作家、ターニャ・バダニナは亡き娘に捧げるシリーズとして「白い服」プロジェクトを世界各地で展開。今回の新作は、越後妻有を訪れた際に畑で働く人々に感銘を受けたことをきっかけに、地元住民の協力で野良着を題材にした白い服を展示します。
大割野商店街作品(津南エリア)
大割野(おおわりの)商店街は、津南町のメインストリート。その中で、「旧大口百貨店」や洋品店「旧かなやま」など、お店や空き店舗、施設を活用した作品が4人の作家によって展開されます。
アイシャ・エルクメン『in and out』(松之山エリア)
トルコのアーティスト、アイシャ・エルクメンは、新潟県中越地震で倒壊した家屋を見つめる作品や、空き家の遺物を庭に整然と並べた作品などを日本で発表してきました。その続編となる今作は、かつて倒壊した家そのものを金網で加工し、新たな解釈を生み出します。
作品の鑑賞料金はそれぞれ異なりますが、会期中に300以上あるほぼすべての作品を1回鑑賞できる「作品鑑賞パスポート」がおすすめです。複数回利用できる作品やパスポートの提示で割引などの特典もあり、オンラインに加え全国のコンビニエンスストア、現地で購入可能です。利用方法や利用条件などの詳細や効率よく巡るモデルコースは、公式ホームページをチェックしてみてください。
大地の芸術祭の詳細やパスポート購入などはこちらから。
大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ2024
※参考資料:大地の芸術際ガイドブック
まだまだある! 2024年注目の芸術祭
知的好奇心を満たしてくれる芸術祭は、夏以降も各地で開催されます。注目は「いのちをうたう」をテーマに、温泉地での良質な入浴とアート体験を通じて、ウェルネスな心身へと導く山形の「みちのおくの芸術祭 山形ビエンナーレ」。また“水・木・土・空”をテーマに国内外の多彩なアーティストと地域住民、サポーターが協働する長野県大町市の「北アルプス国際芸術祭」、佐渡島の自然と人、アートの共存を目指す「さどの島銀河芸術祭」など、いずれも風土の特徴をダイナミックに活かした芸術祭を楽しんでみてはいかがでしょうか。
「みちのおくの芸術祭 山形ビエンナーレ2024」
会期:2024年9月1日(日)~2024年9月16日(月・祝)
https://biennale.tuad.ac.jp
「北アルプス国際芸術祭2024」
会期:2024年9月13日(金)~2024年11月4日(月・祝)
https://shinano-omachi.jp
「さどの島銀河芸術祭2024」
会期:2024年8月11日(日)~2024年11月10日(日)
https://sado-art.com