Harmony TRIP 黒部宇奈月黒部宇奈月キャニオンルート~秘境・黒部の地底に広がる電源施設群を往く~ 写真提供:黒部宇奈月キャニオンルートPR事務局、立山黒部アルペンルート、(公社)とやま観光推進機構、佐藤工業株式会社、関西電力株式会社
Text:PONCHO

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立山・黒部は、北アルプスの雄大な景色に包まれる北陸一の観光スポットです。これまでは富山県側の立山、長野県側の扇沢を起点にした「立山黒部アルペンルート」が唯一のルートでしたが、新たに「黒部宇奈月キャニオンルート」が加わります。その詳細をお届けします。

「黒部宇奈月キャニオンルート」の一般開放・旅行商品化開始日は2025年以降へ延期となりました(2024年6月現在)。詳細は下記からご確認ください。
https://canyon-route.jp/

黒部宇奈月キャニオンルートは黒部ダムなどの電源開発のために整備された、現役の工事用ルートです。上の写真にあるような急斜面を昇降するケーブルカーのインクラインなどの工事用車両に乗車して移動します。それは日本だけでなく、世界的にも珍しい観光ルートといえ、旅好き、乗り物好きを中心に話題になっています。

しかし見学ができるのは、限られた人数で催行されるツアーに参加した人だけ。だから、当日券やキャニオンルートのみの見学はありません。

では、貴重な旅といえる黒部宇奈月キャニオンルートを巡るツアーがどんなものなのかをご紹介していきましょう。

黒部峡谷の電源開発のため整備された地底空間

写真提供:佐藤工業株式会社

100余年前、アルミ製造のための電力を求めて、黒部峡谷に水力発電所を建設する計画が立てられました。黒部峡谷は秘境と呼ばれ、人を寄せ付けない場所。困難な開発にチャレンジしながらも、北アルプスの美しい景観を守るため、欅平から黒部ダムまでの全長約18kmを、工事用ルートとしてトンネルで結ぶことに。それが黒部宇奈月キャニオンルートの始まりでした。

工事は困難を極めました。中でも昭和11(1936)年、黒部川第三発電所と仙人谷ダムの建設時に遭遇した岩盤温度が160℃を超える高熱地帯では、ダイナマイトが自然発火。多数の死傷者が出てしまいました。後にその場所は「高熱隧道」と呼ばれ、小説にもなっています。キャニオンルート見学時には、上の写真のような手掘りのトンネル内に敷かれた軌道を走る蓄電池機関車に乗っていきます。通過時には、現在でも40℃ある岩盤温度によって客車内の窓は曇り、硫黄臭が漂ってきて、往時の過酷な作業を想像できるでしょう。

黒部宇奈月キャニオンルートは、こうした過酷な電源開発の軌跡、建設史に残る物語を体感、見学できる貴重な旅なのです。

ルートは、ほぼトンネル内。そこを5種類の乗り物で通過

さて、黒部宇奈月キャニオンルートは、宇奈月駅側からスタートして開発工事の順に見学できるコースと、黒部ダム側からスタートして歴史を遡るように見学できるコースの2種類があります。ここでは宇奈月駅側からのコースを紹介します。

まず宇奈月駅から欅平駅までは、峡谷美を堪能できる黒部峡谷鉄道(写真左上)で移動。黒部宇奈月キャニオンルートは、欅平駅で工事用トロッコ電車(写真右上)に乗るところから始まります。トンネル内では珍しい、列車が前後に進むスイッチバックを行います。

次は標高差200m、50階建てのビルに相当する高さを昇降する竪坑エレベーター(写真左中)に乗ります。このエレベーターは資材運搬用で、貨車を積み込めるレールが内部に備わっています。欅平上部から約6.5kmは上部専用軌道という、高熱隧道を通る蓄電池機関車(写真右中)に引かれた耐熱式客車に乗車。

黒部川第四発電所を見学後は、高低差456m、斜度34度の急坂を昇降するケーブルカーの一種インクライン(写真左下)。最後は約10kmの黒部トンネルを専用バス(写真右下)で、黒部ダムに向かいます。

黒部宇奈月キャニオンルート内の移動時間は、約2~3時間。薄暗い地下空間内部を、ルートの歴史やポイントに詳しい専門ガイドの案内、解説を聞きながら進みます。

トンネルがどんな場所にあるのか
確認できる展望地もあります

長い地下空間の旅ですが、ずっと暗闇の中を通過するだけではありません。

竪坑エレベーターの欅平上部~竪坑展望台からは白馬岳の山並みを、上部専用軌道の仙人谷付近ではダムと雲切の滝を、そして黒部トンネルでは、往時には土砂の排出に使用されたタル沢横坑から剱岳を遠望できます。それが上の写真です。

この剱岳は、富山平野から見るのとは反対側の山景ということで裏剱と呼ばれ、これまでは登山上級者しか見ることができなかった稀少な姿です。

困難の連続だった黒部峡谷の開発を振り返る

戦後の昭和31 年から、電力不足解消のために進められた黒部川第四発電所と黒部ダム建設。トンネル工事を進めるため、作業員は切り立った崖にかけられた桟道を渡り資材を運びました。
画像提供:関西電力株式会社

黒部宇奈月キャニオンルートの掘削へとつながる、黒部峡谷の電源開発の歴史を振り返ってみましょう。それは当時の過酷な工事を知る旅となるはずです。

豊かな水量を誇る、過酷な秘境「黒部川」

調査を開始したのは大正6(1917)年。計画したのは、富山県高岡市出身の高峰譲吉博士でした。当時、需要が大きいにもかかわらずすべてを輸入に頼っていたアルミニウム。そこで博士は、親交があったアメリカの独占的アルミ企業と日米共同の企業運営を計画。そのアルミ精錬に必要な大量の電力を黒部川の水力に求めました。

流域の平均年間降水量は、約4,000mmと国内屈指の多雨地帯。冬は、上流部に4~7mの積雪がある豪雪地帯。現在、春の立山黒部アルペンルートで見られる雪の大谷、道路の両脇に屹立する雪の壁の高さを見れば、その激しい降雪量を想像できるでしょう。豊富な水量と大きな落差がある黒部川は、水力発電に必要な理想の条件を備えていたのです。

しかし険峻な谷は、人を寄せつけない秘境でもあります。その奥地へと調査、工事を進めるには、絶壁を削り、桟道をかけるしか手立てはありませんでした。その現在の姿が、登山道として利用されている日電歩道と水平歩道です。大正9(1920)年から開削され昭和4(1929)年に開通しました。

現在の黒部ダム地点と仙人谷の両側から開削したのが日電歩道。全長約16.6km。水平歩道は、欅平と仙人谷間の全長約13.6km。当時の幅はわずか50cm。現在はわずかに広がっていますが、断崖絶壁に張り付くように進むスリルは、往時のまま。重い資材を担いで不安定な道を進むことを想像してみれば、まさに命がけの仕事。工事が困難を極めていたことがわかります。

灼熱の高熱隧道

キャニオンルートの竪坑エレベーター、蓄電池機関車が通る上部専用軌道は、黒部川第三発電所と仙人谷ダム工事のための輸送路として昭和11(1936)年に着工。宇奈月から欅平まではすでに鉄道が開通していましたが、その奥、仙人谷までは急勾配で軌道を延長できなかったため、貨車をそのまま積み込めるエレベーターと隧道による輸送が計画されました。

隧道の掘削を進めると岩盤の温度は不気味に上昇、高熱地帯に遭遇したのです。作業員に冷水をかけながら昼夜交代で掘り進めるなど、工事は困難を極めました。岩盤からの熱湯噴出で火傷を負う者も続出。ついに岩盤温度は160 ℃を超え、ダイナマイトが自然発火し爆発。6人の作業員が死亡、6人が重傷を負う悲惨な事故が発生しました。一旦は中止命令が出されましたが、「隧道の貫通なくして工事の完成はあり得ない」と作業員を督励。断熱材を挟んでダイナマイトの自然爆発を防ぐ対策を取り、工事はすぐに再開されました。

この工事の始まった昭和11年は二・二六事件が起きた年。次第に戦時色が濃くなってきた時代で、軍需物資製造のための電力確保という国策が優先されたのです。

昭和38(1963)年に黒部川第四発電所と黒部ダムの運転を開始。以来、60余年、キャニオンルートは工事関係者が使ってきました。

黒部宇奈月キャニオンルートに着工した昭和11年には、黒部峡谷沿いの2つ目の発電所が運転開始。スペースのない谷に大きな構造物を建設するのは、それだけでも困難でした。
画像提供:関西電力株式会社

実際に通ったことのある関係者は言います。

「高熱隧道は(坑内の温度が)今でも約40 ℃でサウナのよう。耐熱式客車の窓ガラスはたちまち曇り、硫黄の臭いも漂ってくる。トンネルの一部には手掘りの跡も見られ、工事の過酷さとそれに耐えた作業員たちには、心から頭が下がります」

開削された時代の苛烈さは現在も残っており、それを体感できるのが黒部宇奈月キャニオンルートなのです。

キャニオンルートを含むツアーのポイント

黒部宇奈月キャニオンルートを見学するツアーは、4種類あります。

A、Bコースは富山県の宇奈月駅発、Cコースは長野県の大町温泉発で扇沢駅から、Dコースは富山県の立山駅発になっています。富山県側からスタートするA、B、Dコースは富山地方鉄道と接続して、北陸新幹線の富山駅を起点に周回が可能です。ツアー前後に宿泊を追加して富山県を存分に楽しめます。長野県側からスタートするCコースは、北陸新幹線の長野駅を経由。首都圏からのアクセス性のよさと、長野、富山の両県を旅できるのが特徴です。

では、それぞれのコースをもう少し詳しく解説しましょう。

Aコース|宇奈月温泉泊で立山も楽しめる

【行程】
宇奈月(温泉旅館前泊)⇒黒部峡谷鉄道⇒欅平⇒キャニオンルート⇒黒部ダム⇒アルペンルート⇒立山室堂⇒立山駅

※水、木見学

富山が誇る名湯・宇奈月温泉の温泉旅館に前泊するコースです。写真は「延楽」。秋は黒部峡谷の紅葉を愛でながら、日本有数の透明度の温泉に浸かれます。

翌日、7:40 に黒部峡谷鉄道 宇奈月駅に集合し、トロッコ電車で欅平へ。キャニオンルートを見学。黒部ダムには12:45 頃到着します。

写真提供:立山黒部アルペンルート

黒部ダムからは自由行動で、立山黒部アルペンルートの5 つの乗り物を使って、各自で立山駅を目指します。途中の大観峰、室堂などの絶景スポットにも立ち寄る時間があります。宇奈月温泉と立山の自然も味わいたい、欲張り派におすすめです。

Bコース|室堂泊で、夕陽、星空、火山湖と自然満喫

【行程】
宇奈月駅⇒黒部峡谷鉄道⇒欅平⇒キャニオンルート⇒黒部ダム⇒アルペンルート⇒立山室堂(ホテル立山泊)⇒立山駅

※毎日見学

9:30 に宇奈月温泉に集合。事前説明会に参加。10:44 からトロッコ電車で移動。欅平で自由時間が30 分ほどあり、その後キャニオンルートを見学、16:05に黒部ダム着。そこから各自で室堂へ移動。ホテル立山着は17:40頃。

写真提供:立山黒部アルペンルート

このコースでは、立山室堂に泊まるので、天気がよければ山並みに沈む夕陽、夜には満点の星空、翌朝はご来光を眺められます。星空観察会やご来光は、ホテル主催のイベント・ツアーに別途参加して見ることもできます。

キャニオンルートの地下空間だけでなく、3,000m 級の山々に囲まれた絶景を見たいなら、迷わずこちらのコースです。

Cコース|長野・大町温泉で山の幸を堪能

【行程】
大町温泉(温泉旅館前泊)⇒扇沢⇒関電トンネル・電気バス⇒黒部ダム⇒キャニオンルート⇒欅平⇒黒部峡谷鉄道⇒宇奈月駅

※水、木見学

キャニオンルート見学ツアーの中で、唯一長野側から出発。前泊は安曇野や白馬観光の拠点にもなる大町温泉。写真は「緑翠亭 景水」。季節の移ろいを感じられるお風呂が評判。安曇野の旬を味わえる料理も絶品です。

関電トンネル電気バスに乗車する扇沢駅で8:45 から事前説明会。黒部ダムに9:46 に着き、キャニオンルートを見学。欅平での自由時間は約2時間。トロッコ電車に乗って黒部峡谷を楽しみ、日没前後に宇奈月駅に到着し、ツアーは終了です。

せっかくなので、宇奈月温泉や富山に追加で宿泊し、長野だけでなく、富山随一の温泉、北陸の山海物を味わっていきたいものです。

Dコース|富山駅からアクセスのいい立山駅発

写真提供:(公社)とやま観光推進機構

【行程】
立山駅⇒アルペンルート⇒立山室堂⇒黒部ダム⇒キャニオンルート⇒欅平⇒黒部峡谷鉄道⇒宇奈月温泉(温泉旅館泊)

※毎日見学

8:30 に立山駅集合。県外から参加するなら富山駅、立山駅付近での前泊が必須です。アルペンルートの乗り物で移動しながら、北アルプスの景色を満喫。黒部平駅で事前説明会を実施します。

写真提供:(公社)とやま観光推進機構

13:25 に黒部ダムを出発してキャニオンルートへ。欅平駅では乗り換えに約1時間の余裕があるので近隣を散策可能。夕闇の中をトロッコ電車で移動し、日没後の17:58 に宇奈月駅に到着。宇奈月温泉の旅館に各自で移動。美肌の湯で1日の疲れを癒してください。

黒部川沿いに位置する宇奈月温泉は、美肌の湯と峡谷美が特徴。中でも温泉旅館「やまのは」は絶景風呂で知られています。黒部峡谷鉄道の赤い鉄橋と歩道橋の眺めは、宇奈月ならではの美景です。

黒部宇奈月・立山の魅力を知る旅へ

黒部の自然と人との関わりを、これまで以上に深く知ることができる貴重な旅。いかがでしょうか?

黒部宇奈月キャニオンルートの一般開放予定日は未定(2024年6月現在。2025年の一般開放を予定)ですが、立山黒部アルペンルートは通常通りご予約を承っております。

写真提供:立山黒部アルペンルート

立山黒部アルペンルートは富山側、長野側のどちらのルートからも申し込み可能で、夏は新緑と一面に咲き誇る高山植物を、秋はまるで絵画のように美しい紅葉を望むことができます。トヨタファイナンス トラベルデスクではお客様のご希望・ご要望をお聞きし、最適な旅行をご提案いたしますので、ぜひお気軽にご相談ください。

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24時間受付中

TEL:0800-700-8160からも承ります
通話料無料 9時~17時
(日祝・年末年始は除く)

立山黒部アルペンルートのツアー情報はこちら
https://tscubic-travel.com/telephone_lp/?category=lgyumenokyujitsu#plan

黒部宇奈月キャニオンルートの詳細はこちら
https://canyon-route.jp/

Autumn 2024

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