気になるトヨタ車変革は本物か?
新生クラウンの第2弾「スポーツ」プロトタイプを試す
Text:吉川賢一
Photo:池之平昌信、トヨタ自動車

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長くトヨタの旗艦モデルとして愛され続けてきたクラウン。そのクラウンが変貌を遂げ、4つの車型を持つ新時代のクルマへと生まれ変わったのが2022年のこと。そして翌2023年。先陣を切ったクロスオーバーにつぐ第2のモデルとして「スポーツ」の発売が明らかとなった。

誰もが詳細を知りたいクラウンスポーツ。ところがその発売前の開発車両を一足先に体験できてしまうイベントが富士スピードウェイで開かれた。招かれたのは、「次のクルマも見据えながら、今乗りたいクルマも楽しめる」というトヨタの新しいメンバーシップ「トヨタパスポート」のエクスプレス会員様。はたしてクラウンスポーツはどんなクルマだったのか。理論派モータージャーナリストの吉川賢一氏が、プロトタイプのハンドルを握った。

エモーショナルな雰囲気と運転しやすいパッケージ

クロスオーバーに次ぐ新生クラウンの第2弾が手前の「スポーツ」だ

2022年7月、15世代60年以上にわたって販売され続けてきた、トヨタが誇る伝統のセダン「クラウン」に変革が起きた。ボディタイプに「クロスオーバー」「スポーツ」「セダン」そして「エステート」という4つバリエーションを持つことが発表され、その第一弾として同年9月、新型「クラウンクロスオーバー」が登場したのだ。

これまでセダンスタイルを固守してきたクラウンのクロスオーバーとあって、ユーザーがどんな反応を示すのか、当初は懐疑的な見方もあった。ところがフタを開けてみれば販売は好調のようす。そのクロスオーバーに続く新生クラウンの第2弾が、今回ご紹介する新型「クラウンスポーツ」だ。

ボディサイズは全長4710mm×全幅1880mm×全高1560mmとアナウンスされている

「エモーショナルな雰囲気を持ち、運転しやすいパッケージとともにスポーティな走りをお楽しみいただけるモデル」とされている新型クラウンスポーツ。実車は、写真でみるよりもロー&ワイドなクロスオーバーSUVで、最大の魅力は、テールランプを中心としたリアデザインだ。国産車離れしたグラマラスなリアフェンダーの造形は、フェラーリ「プロサングエ」や、アルファロメオ「トナーレ」といった、欧州製の最新SUVにも似ている。トヨタ内で例えると、A90スープラのSUV版といったところか。

クロスオーバーよりも後輪位置を80mm前進(ホイールベースをマイナス80mm短縮)させたサイドビューも好印象。このショートホイールベース化と、短い前後オーバーハングは、運動性能の根幹となる慣性諸元(動きを阻害する物理的条件)の縮小化に大きく貢献しており、開発チームが、「スポーツ」と名の付くクロスオーバーSUVとして、車両諸元をきちんと詰めてきたことがわかる。こうした諸元にこだわってくるあたりは、昨今のトヨタ、およびレクサスのよいところだ。

張り出したリアフェンダーがこの角度だとよくわかる。GRスープラのような筋肉美だ

インテリアについては、基本的には、メーター周りやダッシュボードといった形状はクロスオーバーと共通デザインではあるが、試乗の際に割り当てられた新型クラウンスポーツは、ブラック基調のインテリアに、助手席側のドア内張りからダッシュボードを通ってセンターコンソールまでぐるりと繋がったレッドの加飾が施されていた。シートベルトもレッドだ。マットな質感で、触感もよく、スポーツカーらしいオーラを放っていた。

「スポーツ」の個性を感じる絶妙なハンドリングと乗り心地

コーナーでは鼻先が素直にインを向く。クロスオーバーより80mm短いホイールベースが効いている

試乗したのは、PHEV(プラグインハイブリッド)のプロトタイプカー。走りはじめてまず感じたのが、コーナーでのフロント回頭性の良さとリア安定感の高さだ。クラウンクロスオーバーのどっしりとした走りとは根本的に異なり、ハンドル操作に対するヨーレート(クルマが向きを変える速さ)発生の遅れが小さい。微舵でも大操舵でも、操舵した大きさに応じてフロントが横方向へ動き、リアもそれにすぐさま追従するので、非常に軽快だ。4WDの恩恵もあってか高速直進性も高く、このままドライブに行きたくなるくらい「運転が楽しい」と感じた。

インテリアはクロスオーバーに準じているが、色使いなどにより躍動感が強調されている

リアサスにはクロスオーバーと同じく、DRS(後輪操舵機構)が備わっているため、フロント回頭性やリア追従性は、制御で「作る」ことはできるのだが、おそらく前述したホイールベースの短縮と、リアオーバーハング短縮による慣性諸元低減の効果が大きい。クロスオーバーよりも、ハンドル角度は全体的に2割近く少なくなった印象だ。軽やかにコーナーを超える感覚は、非常に心地よく、ハンドリング好きもきっと満足する仕上がりぶりだ。

また、クラウンスポーツは、タイヤが跳ね挙げられたときのサスのいなし具合が絶妙にうまい。クロスオーバーRSにも備わっていた可変ダンパーの「AVS」の恩恵もあると思われるのだが、急なロールやピッチ変化を感じさせず、21インチタイヤによるバネ下からの突き上げを感じない乗り味(ダンパーで減衰特性を上げて姿勢変化を抑制するのがセオリー)は素晴らしいレベルだ。

シートはGRヤリスやGRカローラと同形状。ホールド性の良さには定評がある

まだプロトタイプの段階ということで、乗り心地に関しては最終の詰めが加わる可能性もあるが、サスはガチガチにして、横方向にパキっと曲げていく「体育会系のスポーツ」というよりは、「涼しい顔して何事もスタイリッシュにやりこなす文化系スポーツクラブのテイスト」といった印象。サスを硬めずに生み出された、絶妙なハンドリングと乗り心地は、クラウンスポーツならではの味付けとなるのかもしれない。

ただし、今回試乗ができたのは、PHEVのハイブリッドモードのみ。モーターだけで走るEVモードはお預けとなった。開発陣が「もっともエモーショナルで自信がある」とするのは「EVモード+スポーツ」設定だという。今後の試乗に期待したい。

クロスオーバー以上に話題となるはず!

クラウンスポーツはHEV(ハイブリッド)とPHEV(プラグイン ハイブリッド)をラインナップし、HEVが2023年秋、PHEVは同年冬に発売予定とのこと

新型クラウンスポーツの価格については、5月上旬時点では未発表だが、筆者はおそらく、HEVはクロスオーバーと同程度の500万円前後、PHEVはハリアーPHEV(620万円)とレクサスNX PHEV(725万円)の間となる670万円程度といったところであると予想する。

秀逸なデザインとスポーティな走り、PHEVでは純EV走行が可能で、いざとなれば給電もできる新型クラウンスポーツ。もし予想通りこの価格帯で登場するならば、クラウンクロスオーバー以上に話題となることは間違いないのではないだろうか。ハイブリッドが2023年秋、PHEVが2023年冬とされている新型クラウンスポーツ。登場が非常に楽しみだ。

※試乗した車両は開発途中のもので、市販車両とは仕様が異なる場合があります。

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