TOYOTA CROWN変化するものだけが生き残る
ゼロから復活を遂げたクラウン セダンに乗る
文:鈴木直也/写真:ベストカーWeb編集部
これまでのセダン一本やりの戦略を捨て、クロスオーバー、スポーツ、セダン、エステートという4つのボディをラインナップしてきた16代目クラウン。しかし驚くべきことに、当初の開発計画にはセダンの名がなかったのだという。なぜセダンは復活を遂げたのか? モータージャーナリストの鈴木直也氏が解き明かす。
一度ラインナップから消えたクラウン セダン
「進化し続けるクラウン」が最高潮に達したのが2022年7月。16代目となったクラウンは、ルーティンワークとしてのモデルチェンジではなく4車型のバリエーションをイッキに披露。単体ではなくチームでユーザーニーズに応える。そんな大胆な戦略転換に驚かされたのはまだ記憶に新しい。
ここで発表された4種の新型クラウンの中で、専門家筋をもっとも驚かせたのはセダンの存在だった。
車種カテゴリーとしてのセダンは、21世紀以降徐々にシェアを低下させ、クラウンといえども販売台数の減少に苦しんできた。それゆえ、早い段階から次期クラウンがSUVに生まれ変わることは予想されていたし、その代償としてセダンがフェイドアウトすることも関係者にとっては織り込み済み。
今度のクラウンは多彩なバリエーションからなる“群戦略"が売りモノだが、当初そこにはFRプラットフォームのセダンは存在しなかったのだ。
しかし、結果としてセダンは生き残った。
その経緯について、新型クラウン全体の開発責任者をつとめる清水竜太郎さんは「例の新聞報道、セダンはあそこから始まったんですよ」と語る。
例の新聞報道とは2020年11月11日付け中日新聞。その一面には「クラウンのセダンは生産終了。SUVに移行」という見出しが躍っていた。
つまり、この新聞報道によって開発チームの中で「本当にクラウンからセダンを無くしていいのか?」という議論がふたたび沸騰。豊田章男社長(当時)をまじえた再検討の結果、セダンは土壇場で息を吹き返したのだ。
古き佳き時代の残り香を感じる乗り心地
乗り心地は他のクラウンはもちろん、セダンの平均値からみてもややソフト目で、シリーズ最上の静粛性と相まって極上の居住性が提供される。
それは、20世紀のクラウンでしばしば「おもてなし」という言葉で表現された感覚。こういう古き佳きクラウンの乗り味は、ドライバーズカーとしてハンドリングや運動性能が重視されるにつれ薄れていったのだが、ハイテクを極めた最新型クラウンにその味わいが戻ってきたところが面白い。
中でも注目すべきは、ドライブモードに“リアコンフォート”という設定があることだ。これを選択すると電子制御サスが後席ベストな制御を行うのだが、そのゆったりした乗り味は、全盛期のクラウンを彷彿させるノスタルジックな雰囲気。これは、その時代を知らない若い世代にとっては、むしろ新鮮な感覚かもしれない。
こういう設定を新たに設けた理由は、60年以上にわたってクラウンが積み重ねてきた「日本の高級車」としての伝統へのリスペクト。その歴史を途切れさせなかったという事実だけでも、新型クラウンセダンには存在意義がある。
常に自らを進化させ続けてきたクラウン
新型クラウンは1955年の初代から数えて16代目。同じ車名で世代を刻んできたクルマとしては世界的にももっとも歴史の長いブランドで、自他ともに認める日本を代表する高級車といっていい。
ところが、こういう“老舗"イメージとは裏腹に、じつはクラウンほど変化し続けているクルマも珍しいのだ。
20世紀のクラウンは、セパレートフレームを長く使い続けたことや、日本市場に最適化した走りのテイストなどから、イメージとしては“保守的"なクルマと受け止める人が多かった。
しかし、国産技術で造られた初の乗用車という生い立ち、ショーファーカー(※運転手付きのクルマ)からオーナードライバー時代への変革、そして「いつかはクラウン」という名コピーに代表される巧みなブランディングなどなど、クラウンが高級車のチャンピンへと登りつめる過程を追ってゆくと、商品コンセプトという意味ではむしろチャレンジの連続。ユーザーニーズを先取りして自らを進化させてゆくダイナミズムは、数あるトヨタ車の中でも随一といってもいい。
何故これほどの長きにわたってクラウンが日本のユーザーに支持され続けてきたかといえば、その時代その時代の高級車ユーザーの要求を適確にすくい取り、常に自らを進化させ続けてきたからに他ならない。
まさに「変化するものだけが生き残る」という進化論のドグマを体現してきたのが、クラウンの歴史だったといっても過言ではないと思う。
一度ラインナップから消えたクラウン セダン
その「進化し続けるクラウン」が最高潮に達したのが2022年7月。ルーティンワークとしてのモデルチェンジではなく4車型のバリエーションをイッキに披露。新しいクラウンは単体ではなくチームでユーザーニーズに応える。そんな大胆な戦略転換に驚かされたのはまだ記憶に新しい。
ここで発表された4種の新型クラウンの中で、専門家筋をもっとも驚かせたのはセダンの存在だった。
車種カテゴリーとしてのセダンは、21世紀以降徐々にシェアを低下させ、クラウンといえども販売台数の減少に苦しんできた。それゆえ、早い段階から次期クラウンがSUVに生まれ変わることは予想されていたし、その代償としてセダンがフェイドアウトすることも関係者にとっては織り込み済み。
今度のクラウンは多彩なバリエーションからなる“群戦略"が売りモノだが、当初そこにはFRプラットフォームのセダンは存在しなかったのだ。
しかし、結果としてセダンは生き残った。
その経緯について、新型クラウン全体の開発責任者をつとめる清水竜太郎さんは「例の新聞報道、セダンはあそこから始まったんですよ」と語る。
例の新聞報道とは2020年11月11日付け中日新聞。その一面には「クラウンのセダンは生産終了。SUVに移行」という見出しが躍っていた。
つまり、この新聞報道によって開発チームの中で「本当にクラウンからセダンを無くしていいのか?」という議論がふたたび沸騰。豊田章男社長(当時)をまじえた再検討の結果、セダンは土壇場で息を吹き返したのだ。
古き佳き時代の残り香を感じる乗り心地
緻密な計画を粛々とこなすのがトヨタのイメージだが、じつは瓢箪から駒でスタートしたのがセダン。試乗会で開発チームのエンジニアに話を聞いた際には、「それゆえ逆に燃えた」というエピソードがたくさん聞けて興味深かった。
では、無理なスケジュールを承知の上で開発チームがなぜクラウンにセダンを残したのかといえば、そこに他では得られない「独自の世界」があるからだ。
クラウンセダンに試乗してまず感じるのは、ハイテクを極めた駆動システムにもかかわらず、乗り味に古き佳き時代の残り香を感じることだ。
乗り心地は他のクラウンはもちろん、セダンの平均値からみてもややソフト目で、シリーズ最上の静粛性と相まって極上の居住性が提供される。
それは、20世紀のクラウンでしばしば「おもてなし」という言葉で表現された感覚。こういう古き佳きクラウンの乗り味は、ドライバーズカーとしてハンドリングや運動性能が重視されるにつれ薄れていったのだが、ハイテクを極めた最新型クラウンにその味わいが戻ってきたところが面白い。
中でも注目すべきは、ドライブモードに“リアコンフォート”という設定があることだ。これを選択すると電子制御サスが後席ベストな制御を行うのだが、そのゆったりした乗り味は、全盛期のクラウンを彷彿させるノスタルジックな雰囲気。これは、その時代を知らない若い世代にとっては、むしろ新鮮な感覚かもしれない。
こういう設定を新たに設けた理由は、60年以上にわたってクラウンが積み重ねてきた「日本の高級車」としての伝統へのリスペクト。その歴史を途切れさせなかったという事実だけでも、新型クラウンセダンには存在意義がある。
古い皮袋に新しい酒
もちろん、新型クラウンセダンは単なる懐古趣味のクルマではなく、メカニズムとしてはむしろ現行クラウンシリーズの中でもっともハイテク満載。水素戦略の本気度を示す意味でFCVをラインナップする一方、メインストリームとしてレクサスLS/LC譲りのマルチステージハイブリッドシステムを縦置き2.5L直4エンジンと組み合わせて投入。FR特有のロングノーズシルエットをはじめ、どこから見ても新型クラウンのフラッグシップがセダンであることを明確に示している。
FCVは駆動部分はまんまBEVだから、その圧倒的な静粛性は歴代クラウンが追い求めてきたものの到達点。ミライから80mm延長されたホイールベースはすべて後席居住性にあてられていて、ショーファードリブンのVIPセダンとしての優雅な走りは文句なくシリーズ随一といっていい。
FCVと常に比較されるだけに、ハイブリッド仕様は静粛性の向上が大きな課題だったという。エンジンという存在がある以上、絶対的な静粛性では電動車には敵わないものの、スポーティに走らせるなら慣れ親しんだ内燃機関の鼓動は楽しみのひとつ。
THS(トヨタ・ハイブリッド・システム)+4速ATのマルチステージハイブリッドは、ステップシフトに自然なリズム感があって楽しいし、ワインディングを攻めるような走りには足のしなやかさにくわえて低重心のセダンパッケージがプラスに寄与してくれる。
「古い皮袋に新しい酒」という言葉があるが、今度のクラウンセダンはまさにそれ。ファンならずとも「クラウンにセダンが残ってくれて良かった!」。そう思える逸品だと思う。
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