Local activities in Yokohama 01地域のとりくみ「横浜」01:ウェルキャブの認知度を上げ、すべての人に移動する自由と楽しさを Text:PONCHO
Photo:Higuchi Yuichiro、ウエインズトヨタ神奈川

Lifestyle

車いすのまま乗降したり、運転補助装置を取り付け、身体を思うように動かせない方に移動する自由を提供するトヨタの福祉車両「ウェルキャブ」。今回は、「トヨタハートフルプラザ横浜」を運営するウエインズトヨタ神奈川(株)のまちいちばん支援部 部長の宮石真希子さんに、トヨタハートフルプラザ横浜の役割、そして福祉車両を取り巻く現状について教えてもらいました。

すべての人に移動の自由を提供するウェルキャブ

トヨタでは、身体を思うように動かせない方に移動する自由を提供する福祉車両を「ウェルキャブ」と名付け、国内自動車メーカーで最多の車種と仕様、タイプをラインアップしています。今回訪れた「トヨタハートフルプラザ横浜」は、全国に9ヶ所あるウェルキャブ総合展示場のひとつです。ふだん、私たちが知っているようで知らないウェルキャブについて深く知ることは、クルマの可能性、そして私たち自身のライフスタイルについて考えることにつながります。

本記事内では、ケガや病気などにより身体を思うように動かせない方を「障がい者」と表記します。同施設の運営責任者 宮石さんによれば、

「身体を思うように動かせないことは、障がいというよりも、例えば足の速さや視力などと同じような個性だと感じています。ただ彼らのことやウェルキャブを知ってもらうことで、どんな人でもよりよく過ごせる社会になって欲しいので、今はまだ広く使われていて多くの人に伝わりやすい『障がい』という言葉をあえて我々も使っています」

とのこと。そんな宮石さんが運営に携わるトヨタハートフルプラザ横浜は、どんな施設なのでしょうか?

販売と社会貢献の両立を目指す希少な展示場

「トヨタハートフルプラザ横浜は、トヨタが販売しているウェルキャブの展示場として、2007年1月に開設しました。それ以前、2005年には横浜トヨペット本社1階に2台のウェルキャブを展示。年に数回は至近のマリンタワー敷地内で展示会を開催していました。

しかし、ウェルキャブを必要とする方がいつでも見られるショールームがあれば、より身近なものに感じてもらえるだろうと、このトヨタハートフルプラザ横浜の開設に至りました」

トヨタ自動車が介護・福祉用車両の開発をはじめたのは1960年代から。1996年には、助手席リフトやサイドリフトなどの介護支援用の車両を全車種に設定。1998年に福祉車両の名称を「トヨタウェルキャブシリーズ」に変更。また、実車を確認して検討したいというユーザーの声が多くなり、同年東京・杉並区にウェルキャブを常時10台ほど備える展示場「トヨタハートフルプラザ」を開設。横浜は、その後に全国展開された展示場のひとつだそうです。

「2023年7月現在、トヨタハートフルプラザは全国に9ヶ所あります。関東では千葉と横浜の計3ヶ所にあります。ここ横浜店は名古屋以東の中部東海圏、北陸、関東のお客様を広くサポート。開設当時から変わらず、ウェルキャブの販売と社会貢献を両立することを目指しています。

全国で十分な数のウェルキャブ展示場が存在するわけではありませんので、トヨタハートフルプラザ横浜では、販売成果のみを目的にしておりません。自動車販売の領域では競合である他トヨタ販売店のお客様のサポートに入ることもありますね。普段、この展示場にスタッフとお客様が訪れて福祉車両を確認したり、税金や補助金のお問い合わせのご対応なども実施します。店舗で納車を行うときに説明補助員として同席することもあります。

トヨタハートフルプラザ横浜は、“まちいちばん支援部”という組織下に置かれています。これは短期的な販売利益を求めることよりも、社会貢献と長期的な事業発展を重視していることの表れです」

短期的な利益優先では対応できない課題に向き合い、お客さまのニーズをしっかりと聞き、かたちとして返す。そのフィールドがこのトヨタハートフルプラザ横浜なのです。

「ここにいらっしゃるお客さまの中には、介護状態の変化や病状の変化により、最初に話を伺った1ヶ月後には症状が悪化していたり、逆によくなっていたり、さまざまな変化が起こる場合があります。加えて、お客さまによってお身体の状況はまったく異なるので、車内幅があと5㎝あれば介助者の方が無理なく介助してそのまま乗れるのに、あと数cmリクライニングできればこのサイズの車両でよいのに、ということもままあります。

利益優先であれば、売れ筋のクルマを1台だけ展示しておけばいいかもしれません。でも、そうしたお客さまのニーズ一つひとつを理解し、応えていくためには、とても足りないと思うんです。だから、ここ横浜店では常時10台程度のウェルキャブを展示しています。来店されたお客さまが安心して車両の確認をしていただけるように、在籍するスタッフには、サービス介助士の資格取得を薦めています。そうして丁寧に時間を掛けてコンサルテーションを行なうことで、お客様が本当に安心して、お車を選ぶ手助けができると感じています。」

障がい者とともに楽しく生きる社会へ

トヨタハートフルプラザ横浜では、独自の社会貢献活動も積極的に取り組んでいるそうです。

「『福祉車両/車いす』体験授業、特別支援学校・養護学校で福祉車両展示会、リハビリテーションセンターなどで福祉車両体験会など、触る・体験する機会の提供を重視しています。また、トヨタハートフルプラザ横浜に併設されたフリースペースで、NPO法人による菓子や創作品の販売会、地元高校生などの音楽リサイタルなどの催事受け入れなども行っています。

2011年から行っている福祉体験授業は、今後社会を担っていく子どもたちの心に「福祉の種をまく」という理念から、「高齢社会」や「障がいのある方と共に生きる社会」の話を含めた、福祉車両と車いす体験を行っています。169校14,970名の児童・生徒が受講(2022年度までの累計)。車いすに乗って自走し、さらに介助を全員が体験できるというプログラムが特徴です。

コロナ渦の3年間の間は、福祉体験授業の実施を縮小せざるを得ず、活動は大きく制限されました。その中でも各行政からの小規模視察の受け入れを促進、体験授業を大人向けのプログラムに変更し開講するなど、できうる限りの施策を実行してきました。本日のこういった取材への対応も、広く社会に認知を広げるために重要な活動の一つです。

こうした福祉体験授業に参加した人は、それまで障がい者や車いすを利用した介助のことをボンヤリと「大変だな」「かわいそうだな」と思っていたようです。しかし、実際に車いすや介助の体験をしたことで、日常生活の中で自分がサポートできることはないか? 共によりよく生きる社会とはどんなものなのか? を考えるきっかけになっているといいます。

宮石さんも昨年2022年4月からトヨタハートフルプラザ横浜に関わりはじめ、障がいや介助のニーズがある方々と車をきっかけにコミュニケーションを取ることで、そのイメージ、考えが変わっていったそうです。

「当初は直接の関わりもなく、存在を知っているというレベル。このトヨタハートフルプラザ横浜に来る方々が、どんな人たちで、どんな悩みを持っているのか、本当の意味で知らなかったんです。しかし、実際に突然の事故や病気により身体が思うように動かなくなった方、ご両親の介助が急に必要になった方、先天性の病気のお子さんをお持ちの親御さんやパートナーさんたちの声を聞き、心からの叫びに触れていく中で、何とかしなければならないと強く感じるようになりました」

「そういう方たちと接したことのない人は、移動できなくて大変そう、かわいそう。介助する人も大変。人生の多くを諦めなきゃならないよね・・・・・・そんな風に思いがちだと思います。正直、私もそう思っているところがありました。

でも、そうではない人と、たくさん会いました。どんなに障がいや移動が大変であっても、人生を豊かに過ごしていくことはできる。そう感じさせてくれる、全然諦めてない方がたくさんいらっしゃる。だから私たちもその方の期待に応えなければなりません。

昨今ようやく行政もインクルーシブという言葉を使い、誰もがよりよく暮らせる社会を目指すようになってきています。トヨタハートフルプラザ横浜のような施設も、特別ではなく当たり前になったら、そしてどこへ行ってもウェルキャブのような福祉車両で自由に移動している人がもっと多くなったら、きっと社会はよりよくなるのかなと思います」

宮石さんはじめとするトヨタハートフルプラザ横浜のスタッフは、“すべての人に移動の自由と楽しさを”提供できる社会を創るために、今日も活動を続けています。


トヨタの福祉(ふくし)車両「ウェルキャブ」の詳細はこちらから
https://toyota.jp/welcab/carlineup/function/


トヨタハートフルプラザ横浜

住所:神奈川県横浜市中区山下町33 ウエインズビル 2F
営業時間:10:00~18:00
定休日:不定休
電話番号:045-555-8412
FAX:045-662-9681
https://www.weins-toyota-kanagawa.co.jp/shop/heartfulplaza-yokohama


「ウェルキャブ」の詳細はこちらから
●地域のとりくみ「横浜」02:ウェルキャブの認知度を上げ、すべての人に移動する自由と楽しさを

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