Discovering Japan taught by foreigners外国人インフルエンサーから学ぶ
“知る人ぞ知る”日本の歩き方
訪日外国人が急増している今、旅の目的地として選ばれるスポットは、かつて「ゴールデンルート」と呼ばれた主要観光地だけではなくなりました。日本の魅力を発見する独自の着眼点には、我々日本人にとっても新たな気づきがあります。そこで今回、日本の観光事情に詳しい東洋文化研究家のアレックス・カーさんに、外国人から見た日本の魅力や、今訪れるべきスポットを教えてもらいました。
今、外国人観光客が注目する日本の旅とは――
日本政府観光局によると、2023年の訪日外客数は2500万人を超え、同年12月には2019年同月比108.2%となる273万人と、新型コロナウイルス感染症拡大後で単月過去最多となるとともに、12月として過去最高を記録しました(※)。また、アメリカの『ニューヨーク・タイムズ』、大手旅行雑誌『コンデナスト・トラベラー』の「世界で最も魅力的な国ランキング」で、日本が上位に選出されるなど、日本人気が急騰し、訪日外客が増えつづけています。
※ JNTO 「2023年12月および年間推計値」より
かつて訪日外国人に人気だったのは、東京、箱根、富士山、名古屋、京都、大阪などを巡る「ゴールデンルート」。しかし今は、アメリカの『ニューヨーク・タイムズ』が「2024年に行くべき52カ所」の第3位に山口県を選出するなど、これまで注目を集めていなかったローカルなスポットにも注目が集まってきています。
「今の日本旅行のキーワードは“多様化”です」と教えてくれたのは、1964年に来日して以来、60年にわたって日本の魅力や観光業界の変遷を追いつづけてきた東洋文化研究家のアレックス・カーさんです。
「ゴールデンルートは今でも人気ですが、ここ10年でリピーターが増え、テーマで巡る旅に価値を見出すようになりました。“食”はもちろん、たとえば陶芸の窯元を巡る熊本の旅や、島をまるごとアートスペースと化した香川県の直島のような場所を巡って芸術に触れるなど、日本人にもあまり知られていないニッチなローカルスポットの人気が出てきました」
旅先を選ぶ中で、訪日外国人が注目する大きな要素は「日本の原風景」と継承されている「文化」だとアレックスさんは続けます。
「たとえば、石川県の金沢は、金沢城の城下町が今も残り、加賀友禅や九谷焼の伝統工芸が息づいています。江戸時代の風情が残る岐阜県の高山市や、茅葺き屋根の合掌造り家屋が建ち並ぶ白川郷、世界遺産にも構成される紀州の熊野古道なども人気です」
では、改めて日本ならではの旅の魅力とは。
「日本は、高度経済成長期から急速に近代化し、なによりも『便利』を最優先して、残念ながら趣深い街並みの多くは再開発によって失われてきました。最新スポットや有名な観光地もいいのですが、私が美しさを感じるのは、自然と暮らしの営みです。小さな島国の各地に山や川、滝、湖、複雑に入り組んだ海岸線などがあり、四季折々の表情を見せてくれる。そういった大自然のなかにある里山や漁村、地域に根付いた神社を訪れると、日本の“本当の美しさ”を再発見できます」
日本三大秘境「徳島県祖谷」の魅力
観光客が大挙して訪れず、手つかずの大自然が残る美しいスポット――。
その中でもアレックスさんがおすすめするのが、徳島県北西部の山岳地帯に広がる祖谷です。
この険しい渓谷は、かつて没落して逃げてきた平家が住むようになった「日本三大秘境」のひとつ。江戸時代の古民家での生活様式や農法、習俗が今も残り、桃源郷のような世界が形成されています。アレックスさんは1971年に訪れ、その「何もない魅力」に惹かれて以来、古民家を改装した宿を手がけるなど、地域とも深く関わっています。
「ここには、ビジネスホテル、大きな看板、巨大な商業施設といった今の日本のどこにでもあるものが一切ありません。1,000年前の中国で描かれた墨絵のように幻想的な世界のなかで、素朴な自然に溶けこむようなステイを快適に満喫できます。それは、まさに究極のミニマリズム。日本の最先端のコンテンポラリーアートに通じる芸術性を感じるので、美術館やアート関係の欧米人が、京都や直島のあとに祖谷を訪れることも多いです。ぜひゆっくり滞在して、リアルな太古の日本を体感してください」
国の重要文化財に指定されている「日本三大奇橋」のひとつ「祖谷のかずら橋」や、幻想的な「落合集落」といった絶景スポットや温泉、長期滞在で農業体験もできるグリーンツーリズムも人気です。
祖谷のかずら橋
徳島県三好市西祖谷山村善徳162-2
アクセス:徳島自動車道「井川池田I.C.」より車で約60分
駐車場:あり
https://miyoshi-tourism.jp/spot/iyanokazurabashi/
落合集落
徳島県三好市祖谷落合
アクセス:徳島自動車道「井川池田I.C.」より車で約80分
駐車場:なし
https://miyoshi-tourism.jp/spot/ochiaishuraku/
絶景を体感するローカル線の旅
「日本の旅の魅力は、目的地だけではありません。そこに辿り着くまでの美しい風景も味わうのが旅の醍醐味です」とアレックスさん。日本の各地にあり、自然が織りなす風景とともに気軽に楽しめるのが、ローカル線で訪れる秘境駅です。
世界が驚いた湖上の絶景駅「奥大井湖上駅」
日本屈指の美しさを誇る秘境駅と称されるのが、静岡県を南北に走る大井川鐵道井川線の「奥大井湖上駅」です。
2019年に100人の外国人審査員による「クールジャパンアワード」に選ばれたこの秘境駅は、その名前の通り湖上にぽつんと浮かぶ珍しい駅。ダムでせき止められて形成されたエメラルドグリーンの湖と緑豊かな島、そして鮮やかな深紅の奥大井レインボーブリッジが織りなすファンタジックな絶景は、まさに忘れられない光景です。
奥大井湖上駅は、徒歩10分程度の場所に駐車場がありますが、レトロな列車に乗って訪れるのもおすすめ。大井川鐵道はSL列車が運行していることでお馴染みですが、奥大井湖上駅へは千頭駅から日本で唯一のアプト式鉄道(※)に乗車して向かいます。
※アプト式鉄道…ラックレールという歯形レールを使って、急坂を登り降りする急勾配用の鉄道
天井も椅子もミニサイズの赤いトロッコ列車は揺られているだけで楽しく、車窓からは大井川の清流や山深い渓谷、雄大な長島ダムなど大自然の美景がパノラマで広がります。
トンネルを抜けると赤い橋「奥大井レインボーブリッジ」が姿を現し、車内から歓声が。ホームは素朴な造りで、高台にログハウス風の休憩所「レイクコテージ奥大井」が設けられています。遮るもののない大自然のなか、澄んだ空気を全身で浴びながらレインボーブリッジを渡って散策してると、絶景のなかに溶けこんだような不思議な感覚が味わえます。
奥大井湖上駅
静岡県川根本町梅地
アクセス:新東名高速道路「島田金谷I.C.」より車で約80分
駐車場:あり
https://daitetsu.jp/okuohi2017
まだまだある! 一度は乗りたいローカル線
アレックスさんがおすすめするローカル線は、岐阜県南部の恵那駅から明知駅を走る明知鉄道です。
「昼間に走る1両編成のワンマンカーがチャーミング。車窓から広がるのどかな田園風景に心が洗われます。勾配日本一の飯沼駅や、「幸せ地蔵」が鎮座する極楽駅などユニークな駅も見どころです」
そして、知る人ぞ知るローカル線が鳥取県東部の八頭町から若桜町の約19kmを結ぶ若桜鉄道です。わずか9駅の小さな鉄道ですが、沿線にある施設の23カ所が国の登録有形文化財に認定され、3種類の趣深い観光列車が運行するなど、見どころが沢山あります。
「若桜駅が素晴らしい。昭和初期も木造駅舎を残しながら、内装は九州の有名な鉄道デザイナー・水戸岡鋭治が一新し、レトロモダンな駅構内でハンドドリップコーヒーも味わえます」
極楽駅
岐阜県恵那市岩村町飯羽間2342-2
アクセス:中央自動車道「恵那I.C.」より車で約25分
駐車場:なし
https://www.aketetsu.co.jp/station/gokuraku/
若桜駅
鳥取県八頭郡若桜町若桜
アクセス:鳥取自動車道「鳥取南I.C.」より車で約25分
駐車場:あり
https://www.torican.jp/spot/detail_1231.html
日本の伝統文化が宿る古墳の魅力
さらに、日本独自の伝統・文化としてアレックスさんが注目するのは古墳です。
「日本は、アジアのなかでも植民地として支配されず、大きな革命も起きず、文化が断絶しなかった歴史を持つ数少ない国。そのおかげにより神社やお寺で修行や儀式、お祭りが今も行われているので、訪日外国人はその“本物”の精神性に惹かれて訪れます。それは日本独自の魅力であり、脈々と続く皇室縁の地である古墳は、聖域として守られてきた神秘的な雰囲気が素晴らしい。世界遺産にも指定されている大阪・堺市の仁徳天皇陵古墳や奈良・天理市にある崇神(すじん)天皇陵の行燈山古墳は、一見の価値があります」と話します。
仁徳天皇陵古墳(大山古墳・大仙陵古墳)
大阪府堺市堺区大仙町
アクセス:阪神高速15号線「堺I.C.」より車で約10分
駐車場:あり
https://www.sakai-tcb.or.jp/spot/detail/126
崇神天皇陵
奈良県天理市柳本町
アクセス:西名阪道「天理I.C.」より車で約15分
駐車場:あり
https://kanko-tenri.jp/tourist-spots/south/sujintennoryo-andonyamakofun/
知られざる美しい日本のミュージアム
最後に、知る人ぞ知る日本の美しいミュージアムを教えていただきました。
「海外から工芸好きの友人が訪れた際、必ず案内するのが、東京・虎ノ門の『菊池寛実記念 智美術館』です。小さな陶芸美術館ですが、コレクションが立派でライティングデザインも素晴らしく、展示方法が完璧なんです。心地よいカフェも併設されているのでおすすめです」と話します。
「菊池寛実記念 智美術館」は、現代陶芸のコレクターである菊池智が長年にわたり収集してきた現代陶芸コレクションを母体に、現代陶芸の紹介を目的として2003年4月に開館。館内は、菊池智の美意識が宿され、地下1階の展示室では作品が1点ずつスポットライトを浴びて姿を現すなど、美しい作品との出合いにこだわった展示が魅力です。
菊池寛実記念 智美術館
東京都港区虎ノ門4-1-35 西久保ビル
アクセス:首都高速都心環状線「飯倉I.C.」より車で約6分
駐車場:あり
https://www.musee-tomo.or.jp
「京都旅行の際、少しでも時間があれば訪れてほしいのが滋賀県甲賀市の『MIHO MUSEUM』。建築が美しく、コレクション、展示スタイルも素晴らしい。ここに行くこと自体が目的になる場所で、総合的に見て日本の美術館のなかでナンバーワンだと思っています」とアレックスさん。
「MIHO MUSEUM」は、甲賀市信楽町の山中にある美術館。ルーヴル美術館のガラスのピラミッドで名高い世界的建築家I.M.ペイ氏が、桃源郷をイメージして設計した美しい建築が魅力です。コレクションは、日本の古美術から古代エジプト、西アジア、ギリシャ、ローマ、中国・西域など世界の貴重な古代美術の約3000点。そのなかから約250点を公開しています。
MIHO MUSEUM
滋賀県甲賀市信楽町田代桃谷300
アクセス:新名神高速「信楽I.C.」より車で約15分
駐車場:あり
https://www.miho.jp
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