Pick Up TOYOTA’s Car電気自動車でどう変わる? 「C+pod×トヨタホーム」で考える新時代の家とクルマとライフスタイル
Text:Koji Ozawa/Daisuke Katsumura
Photo:Daisuke Katsumura
今、普及が進んでいるバッテリーEVこと電気自動車(BEV)は、クルマだけじゃなく、ライフスタイルそのものが変わります。最先端かつ超小型EV「C+pod(シーポッド)」に乗り、トヨタホームの土屋さんとBEVのある暮らしを考えてみました。
小沢コージ Koji Ozawa
自動車メーカー勤務を経て1990年に二玄社に入社し、自動車情報誌『NAVI』の編集に携わる。1993年にフリーランスとして独立後、現在は「バラエティ自動車ジャーナリスト」という肩書を持つ。
土屋智紀 Tomonori Tsuchiya
トヨタホーム株式会社技術開発センターで商品開発を担当する一級建築士。担当はクルマde給電など。
家とクルマの距離が大きく変わります!
- 小沢
- 今回はあえてEVの専門家ではなく、“家とEV”の専門家、トヨタホームの土屋智紀さんに来ていただきました。手がかりは都会的な2人乗りの超小型EV、C+pod(シーポッド)です。
- 土屋
- よろしくお願いします。
- 小沢
- そもそも土屋さんは家とクルマ、どちらの専門家なのですか。
- 土屋
- 住宅です。元々建築の勉強をして一級建築士になり、トヨタホームに入りました。
- 小沢
- そうなのですね。さて今普及しはじめているEVですが、これを導入することによって家や生活は具体的にどう変わっていくと思いますか?
- 土屋
- 1番変わるのは距離です。僕は個人的に「家とクルマの距離感」が今まで以上に近付くと思うんですよ。具体的には充電です。EVは当然充電しなければなりませんから、外壁に充電器を付けて、充電ケーブルを介して家につなげなければならない。そういう物理的な距離感もそうですし、同時にEVはエンジンがないので排気ガスを出さないじゃないですか。その分より家の中に入り込んで来れるようになるんです。家の間取りにしても、普通敷地が広くて南に玄関がある家だと、南側に庭を作り、次に駐車場を作って、その後ろに建物を持ってくるのが一般的だと思いますが、EVの場合、弊社の設計でもよくやりますが建物の中に駐車スペースが入ってきます。インナーガレージというのですが物理的な距離以上に家とクルマが一体化してくるのです。
- 小沢
- それはEVが排気ガスを出さないのが最大の理由ですか? ガソリン車だとなんだかんだ一酸化炭素中毒のリスクもありますし、それからエンジンの発熱問題もありますね。
- 土屋
- そうです。元々クルマ好きの方は、家の中にガレージを作って、窓ガラス越しにマイカーを見たいという方も多いですし、そういう意味でもインナーガレージは喜ばれます。
- 小沢
- やはりEV時代になると、住宅の作り方であり、考え方は変わってきますか?
- 土屋
- はい。間違いなく変わってきています。
- 小沢
- 実際に土屋さんはトヨタホームでどういう開発を担当されてるんですか?
- 土屋
- 給電システムです。通常のEVへの充電とは逆に、EVに貯めておいた電力をクルマから住宅に送り、電気を自由に使えるようにするものです。具体的に「クルマde給電」というシステムを2020年に発売しておりまして、コンセプトは停電時にクルマの電力を使って家に給電するというものです。開発には大変苦労しました。
「クルマde給電」とは
クルマが電源となり、突然の停電時や災害時におうちに給電することができるシステムです。クルマの充電ポートまたはコンセント口に外部電源接続用ケーブルをつなぐことで、クルマの電気をおうちで使うことができます。
https://toyota.jp/kyuden/v2h/
C+podの「充電」と「給電」のようすはこちらから。
- 小沢
- いわゆる地震や台風などの被災時に役立ちそうですが、そういった「給電システム」自体はかなり前からありましたよね?
- 土屋
- 実は弊社は「非常時給電システム」というものを2011年に発売していまして、あれは3月11日の東日本大震災がきっかけになっています。あの時に、地震や津波の被害を受けて家に電気が来なくなったご家庭がたくさんあり、EVやハイブリッドカーがあれば、クルマを電力源として逆に家側に電力が送れるはずだと。当時はエスティマハイブリッドが常時1500Wの発電能力を持っていたので。
- 小沢
- 1500Wの発電能力ってかなり凄いですもんね。一軒家の照明、冷蔵庫、テレビ分ぐらいの消費電力は簡単にまかなえてしまう。
- 土屋
- まさしくそうなんです。その発想で電力源として優秀なエスティマハイブリッドを生かすシステムでした。ただし、あれはあくまでも非常時用で常時使えるものではありません。当時、トヨタ自動車と安全性に対する検証をやったのですが、まだ家とEVをつなげて使うための基準自体がなかったのです。
- 小沢
- 給電や充電って結構難しいんですよね。単に電線でつながっていればいいというものではなく、給電側の電圧が高くなければいけないとか直流、交流の規格違いもある。どのあたりの開発が難しかったのですか?
- 土屋
- 具体的には、ケーブルで家と接続している間にクルマが誤発進したらどうすればいいのか?家側が漏電したらどうやって感知するのか?などです。その後、2013年に「V2H」(ビークル・トゥ・ホーム※車両から家への給電)に関するガイドラインが作られ、安全基準が明文化されました。その後、給電中にクルマが誤発進しないシステムや漏電を発見するシステムなどが開発されたのです。
- 小沢
- しかし、2013年に基準化されてその商品化が2020年、結構時間かかりましたね。
- 土屋
- ターニングポイントは2019年頃です。当時、台風被害が凄かったじゃないですか。
- 小沢
- そうでした。18年の西日本豪雨とか19年の台風19号は被害甚大でしたし、線状降水帯という聞きなれない言葉も出てきました。
- 土屋
- 長野県の千曲川や福島県の阿武隈川の氾濫もそうですし、関東では千葉県で2週間ぐらい電気が止まったことがありました。あの時にトヨタは東京電力からの依頼を受けて、プリウスやプリウスPHV、燃料電池車のミライを数10台被災地に実際に持っていったんですね。そこで彼らは電動車が給電に使える! というのをより深く実感したとのこと。そこで我々と一緒に商品化しましょう、となって、2020年に「クルマde給電」ができたんです。
キーポイントはコスト。質がよくても高いと誰も使わない
- 小沢
- それまでのV2Hシステム、クルマから家への給電システムは安くても50万円以上、下手すると100万円ぐらいしましたね。正直、余裕がないとなかなか手を出しづらかったです。
- 土屋
- そこは我々も十分配慮していて、いま新築一軒家にクルマde給電を付けても25万円ぐらい。クルマ側は元々「非常時給電システム」という1500Wのアクセサリーコンセント付きのものならば追加費用は一切かかりません。
- 小沢
- 非常時給電システム……って大容量バッテリーの本格EVはもちろんですけど、ハイブリッドカーも含めて今のトヨタ車の1500Wコンセント付きはすべて非常時給電対応だったはず。それは随分気が楽になりましたね。ちなみにプリウス1台あると一軒家の電力はどれくらいまかなえるんですか?
- 土屋
- ガソリン満タンの状態から給電を始めて4〜5日分といったところです。住宅側は冷蔵庫を備えたキッチンを中心に想定しています。冷蔵庫を常時使い、夜に室内照明や一時的に電子レンジやドライヤーを使うぐらいならば全然持ちます。最大で1500W使えるのですが、一般的に住宅の1時間あたりの消費電力は300~400Wぐらいなんですよ。かなり余裕はあります。実際に被災地で使われたお客様によると、まずは「冷蔵庫がずっと使えるのが助かる」と。「食料を新鮮な状態で維持できるのが1番」だと。
- 小沢
- その他ニッポンEV化時代を見据えた住宅ライフスタイルの変貌はいかがですか?
- 土屋
- やはり充電施設の充実が大きいですね。東日本の3.11以降は「住宅のオール電化が衰退する」と言われていて、大型マンションはなかなか難しいようですが、トヨタホームに限って言うと今は半々です。
- 小沢
- トヨタホームで作る一軒家の約半分がオール電化されていると?
- 土屋
- その通り。確かに今、火力発電や自然エネルギー発電の比率など、電力供給の問題で課題はあると思いますが、今後の日本全体のカーボンニュートラルを考えるとオール電化の寄与は大きいです。
- 小沢
- 一軒家のオール電化に加え、給電システムの普及はどうですか? EV用の家庭用200Vコンセントは増えてたりしてますか?
- 土屋
- トヨタホームでいうと実は新築の70~80%は付けています。最大の理由は、もはや7,000~8,000円で付けられるというコストにあるんですよ。
- 小沢
- ええ!普及率70~80%で、一軒7,000円で付けられる? 随分安いですね。その昔、僕が2008年に付けた時は10万円ぐらいしたのに。その値段ならば確かに、すぐにEVやPHEVを買う予定がなくても200V外部コンセントを付けときますよね。いつかは使うだろうと。
- 土屋
- その通り。もはや一軒家の標準装備です。
- 小沢
- 一方「クルマde給電」はいかがです?
- 土屋
- トヨタホームとしては普及率100%! の目標を掲げていますが、今は30~40%ぐらいに導入されています。まずはさきほどのEV用充電コンセント、そして万が一の備えとしてクルマde給電を付けていただくというのがトヨタホームとしての最低限のステップです。
- 小沢
- いや、充電システム70~80%で給電システム30~40%って凄いわ! やはりトヨタグループのハウスメーカーだけあって、EV化の意識が高いし、かなり普及が進んでますね。正直、最近マンションを買った私としては、集合住宅の充電設備のあまりのしょぼさに言葉を失いましたが、確かに一軒家こそEV! 毎日充電はやりやすいし、太陽光発電パネルとの相性もいいし、一軒家こそEVですよね。
- 土屋
- そうですね。トヨタホームは太陽光発電もかなり普及が進んでて、ほぼ前提でありデフォルトに近いです。新築の約70%が導入しています。
- 小沢
- マ、マジですか? 新築トヨタホームの70%以上が太陽光発電とEV用コンセントを装着してて30%以上が給電システムも付ける。そんなに進んでいるとは知りませんでした。
- 土屋
- 頑張っています。ありがとうございます。
- 小沢
- そこで今回、2人乗り超小型EVのC+podですがいかがでしょう? 相当大胆な削ぎ落としEVで、高速も走れないし、人も2名以上は乗れませんが、その分軽くて小さくて環境負担が決定的に少ないです。
- 土屋
- はじめて見ましたが本当に小さいですね。ハウスメーカーとしては非常に興味をそそられる存在です。おそらくセカンドカー、サードカーとして使われるだろうし、自転車代わりとしてもいいかもしれない。
- 小沢
- 私がいいなと思うのは駐車場への負担です。都内の一軒家でデカい駐車場って正直もったいないじゃないですか。でも、C+podなら自転車2台分ぐらいのスペースに止められるし、普通の駐車場なら2台は止められる。
- 土屋
- 建物もそんなに大きいものじゃなくて、コンパクトにしてもいいかもしれない。家にC+podがビルトインできるようにしてもいいし、お子さんが大きくなったご夫婦なら、C+podとそれに合った家で、ミニマムかつ肩の力が抜けたライフスタイルに切り替えてもいいのかもしれませんね。
【今回のC+podはこちらから】
【撮影協力】
トヨタホーム東京 駒沢展示場
東京都世田谷区深沢4丁目6
https://www.toyotahome-tokyo.com/showroom/komazawa-2/
DIGITAL magazine Vol.05 Recommend
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