Local activities in Okazaki 01地域のとりくみ「岡崎」CHAPTER:01
小さな自然が生み出すまちづくりと、新たな関係づくり。
Text:PONCHO
Photo:Yuichiro Higuchi、スコシズツ.マーケット、スノーピークビジネスソリューションズ
愛知県岡崎市の東西に流れる乙川まわりを中心にした、公民連携のプロジェクト「QURUWA(くるわ)」。そのスポットのひとつでもある、「Camping Office osoto Okazaki」をパーマカルチャーデザイナーの榊笙子さんが訪れ、QURUWA、とosotoのさまざまな取り組みについて伺いました。
今、乙川まわりで盛り上がる「QURUWA」プロジェクト
愛知県岡崎市。この街を東西に流れる乙川の流れを中心にした公共空間を、2015年から市が整備。それらが「Q」の字の動線で結ばれ、同じ市街地にある岡崎城跡の総曲輪(そうぐるわ)とも重なることから「QURUWA(くるわ)」と名付けて、新たな人の流れを生み出す公民連携のプロジェクトが進んでいます。その狙いは、まちの活性化と、誰もが「やってみたい」にトライできるようにすることです。
QURUWAでは、岡崎市の農家の朝市、市民主催のマーケット、アウトドア体験プログラム、月待会など、毎週のようにイベントを開催。多くの市民、そして観光客が訪れ、交流の場が築かれてきているといいます。
今回はQURUWAのスポットのひとつでもある、総合アウトドメーカーのスノーピークの子会社、株式会社スノーピークビジネスソリューションズが展開する「Camping Office osoto Okazaki(以下、osoto)」を訪れ、QURUWAとosotoに関わるパーマカルチャーデザイナーの榊 笙子さんとともに、それらの取り組みの現在地を伺いました。
巡る人
パーマカルチャーデザイナー(Permaculture Design Lab)
榊 笙子さん
東京下町生まれ。神奈川県鎌倉市へ移住後、地域のお店と連携し、店先を利用した菜園活動「Edible Greening」や自然や地域のつながりの中でこどもたちの生きる力を育む「青空自主保育」を立ち上げる。2019年に愛知県岡崎市への引っ越しを機に、持続可能な暮らし方のデザイン「パーマカルチャー」の考え方をベースにしたデザイン、場づくり、コンサルティング、ワークショップ等を行なっている。「スコシズツ.プロジェクト」共同代表、「愛知アーバンパーマカルチャー」発起人。「たねとみつばち 土と太陽」主宰。
キャンピングオフィスという身近でできるアウトドア体験の場
osotoの入るビルに近づいてきて驚いたのは、そのエントランスにあるガーデンの緑の濃さでした。そこには周囲の街並みとは少し異色を放つ、やさしい気配が漂っていました。
「ここは何をやっているところなのだろう?」
目の前の通りを歩いてみれば、誰もがそう思って、ガーデンの緑を愛で、立ち止まるだろう空間です。
スノーピークビジネスソリューションズで働く、HRS事業部osotoチームの磯貝美憂さんは、運営するキャンピングオフィスを、こう説明してくれました。
「osotoは、アウトドア用品を備えたリラックスできる場で、通常のオフィスではなかなか生み出せない人と人とのフラットな関係性や、多様な人との交流から新たなアイデアを生み出すことを目的にしたシェアオフィス、コワーキングスペースです。研修やイベントなどで利用されることもあります」
スペース内には、大型のテントやタープが張られ、折り畳みできるチェアやテーブルがいくつも並び、室内なのに焚火台も設置されています。それらはすべてアウトドアブランド「スノーピーク」の道具です。
一見すると、そこはアウトドアショップのようでもあり、キャンプサイトそのもの。通常のオフィスとはまったく異なる雰囲気のなかで仕事、ミーティグを行なえば、確かにいつもと違うアイデア、ヒントを思いつきそうです。
「研修利用では、会場づくりから行なってもらうこともあります。参加する皆さんでチェアやテーブルを広げ、コーヒー豆をミル挽きしてドリップ、お茶の用意もしてもらいます。そうした作業には、個人のスキルの差がなく、誰でも同じスタートラインに立って協働するという要素が含まれています。皆さんで行なうアウトドア体験に新鮮さを覚えながら、自然と笑顔が多くなります。また、若手の方がアウトドアに慣れていてリードすることもあったりして、その勢いでミーティングではいつもより発言量が増えたりもするんですよ」
なるほど。こうしたちょっとした、いつもと異なる時間から、フラットな関係性は生まれるのでしょう。和やかな笑顔があふれる関係性からは、これまでにない会話や発想も呼び起こされます。
交流の場、種蒔きのきっかけとなるパーマカルチャー・ガーデン
スペース内では焚火の疑似体験ができる他、エントランスのガーデンで実際に焚火をすることもあるそう。
「まさに、身近で手軽にできるアウトドア体験です。ミーティング後に皆さんで焚火を囲めば、皆さん素に戻られるようで、言葉数は少なくても、気持ちが伝わり、心が響き合うようです」
この焚火可能な素敵なガーデンは、今回の巡る人・榊さんが提案したアイデアだといいます。
「アウトドア用品で交流しやすい室内空間を作っても、osotoの外からはそれが見えづらいんです。そこで、それまでウッドデッキだった場所にグリーンを入れてまちの人ともつながれる場所に変えられたらと考え、QURUWAで菜園プロジェクトに関わっていた榊さんにお声掛けしました」
榊さんが提案したガーデンは、どんなものだったのでしょう?
「人と自然、そして人と人が循環しながら活かし合う、持続可能なデザイン『パーマカルチャー』をガーデンに取り入れました。ガーデンというとキレイな花が咲いている場所を思い浮かべるかもしれません。でも、それは観賞するだけの場所になりがちです。osotoは、スタッフや利用者、そして街の人が交流するスペースなので、このガーデンも多くの人が交流でき、自然に触れることで自分の中の「内なる自然」を取り戻せるような場所にしたい。また、人だけでなく、多様ないきものが集まり、そのいきものたちの力も活かせる場所にしたいと考えたのです」
それが、この菜園だと榊さんは語ります。焚火ができるスペースの周囲には、木製のプランターに植えられたブドウやベリー、イモ、レタスやバジルがあります。通りに面したデッキ下にもハーブ類がいくつも植えられ、陰にはシイタケが原木栽培されていました。また雨水システムやコンポストもあり、ここで生まれた資源が循環し活かされるようにデザインされています。
「ここには年間を通して食べられる植物が100種類近く育ちます。それらの植物の種蒔きや苗の植え付け、日々のガーデンケアを行ない、収穫し、食べたり利用したり。移りゆく自然の恵みを日々味わえるガーデンです」
「また野菜やハーブなどは、収穫後も花が咲き、種取りまでします。その種を訪れた人とシェアすることで、このガーデンからどこかの小さな庭やプランターへ旅立ち、芽吹く。人が訪れ、交流することで、種がどんどんと広がっていくんです。そうした自然なつながりを、このガーデンを通してできたらと考えました」
この素敵なコンセプトは、osotoとスノーピークのそれとも一致。さらには、QURUWAのまちづくりをも象徴しているように感じられます。
「視覚からの情報に偏りがちな私たちの暮らし。その中で、ガーデンケアや収穫を行なうことで五感がひらかれます。土や水、植物に触れ、草花の香りを嗅ぎ、訪れた小鳥のさえずりに心が和むでしょう?」
榊さんに言われるまま、葉っぱを触った手を目を閉じたまま嗅いでみます。すると、ある植物はカレーの香りがしたり、ある植物はレモンの香りがしたり、さらに、ガーデンからは爽やかな高原にいるかのような清々しさが立ち上がってきました!
広さわずか60㎡の小さな空間ですが、じつに多様で豊かな空間がそこにあります。それは、私たちが目指すべきこれからの社会のカタチにも思えます。
実際、ここで働く磯貝さんやスタッフたちは、このガーデンをどう思っているのでしょう?
「植物の生長、変化、色づきを見て、触れて、感じる、味わうことで、このガーデンが自分とつながった場所になり、愛着を感じています。スタッフとも、あれはそろそろ収穫してもいい頃かも?など、普段とは違う会話が生まれていますね。それに出張が続いた後には、あの子たちは元気かな?なんて、ガーデンの植物を思い出して、出社するのが楽しみになっています」
osotoでのアウトドアな体験を、岡崎のまちなかでの体験へ
さて、このosotoでのキャンプをするように働く場所、人と人のつながり方の変化といった提案は、QURUWAにも進出しています。
QURUWAエリアに隣接する7町連合とともに、「防災キャンプ」というイベントや、「まちなかデイキャンプ体験」と題し、QURUWAエリアにテントやタープを設置。座って会話を楽しんだり、食事の休憩場所、ちょっとした打ち合わせ場所等、アウトドア用品を利用した、デイキャンプさながらのスペースを提供しています。
また、QURUWAでは、スノーピークのアウトドア用品が使用されているイベント、アウトドアアクティビティやキャンプイベントなども定期的に開催されています。磯貝さんによると、
「スノーピーク製品は永久保証で長く使えるものであり、誰でも扱うことができ、目的に合わせて組み合わせることができます。例えばマルシェイベントでは出展者用にシェルター、テーブル、チェアを使ったり、飲食スペースにタープを設置したりしています。スノーピーク製品による空間づくりで公園や河川敷、人道橋や商店街をイベント会場として活用しています。また、お店で使われているところも、岡崎では増えてきているんです」
榊さんは、これまでQURUWAエリアの籠田公園で「スコシズツ.マーケット」という、環境に配慮した暮らしづくりの提案するマーケットを主催しています。そこではプラスチックフリー&ごみゼロを掲げ、マイ食器を持参できなかった人には、スノーピークの食器にフードを盛り付けて、食後は汚れをウエス(古布)で拭き取り、環境に配慮した洗剤で洗って返却。繰り返し使ってごみを出さないようにする取り組みも実践しているそうです。
「持続可能な暮らしに興味や意識があって出店されるような方々でも、その実践となると難しい面もあるんです。提供するお店側も、いつもはビニール袋に入れて販売している方もいらっしゃいます。でも、スコシズツ.マーケットに出店するにあたり、新聞紙に包んで、プラスチックごみを出さず、再利用する実験をしてみたことで、手応えを感じ、次の一歩を踏み出せたり。そんなみんなの一歩を生み出すきっかけになれたら嬉しいです。
持続可能な取り組みの答えは一つではありません。だから、みんなが立ち止まり、自分にできることを考え、やってみる。持続可能な暮らし方が“スコシズツ”広がっていけばいいなと考えています。実際、こうした取り組みへの共感が、市や地域の方・市外へも少しずつ広がっていることを実感しています」
正解があってそれを啓蒙するのではなく、それぞれが工夫するきっかけをつくるイベント。それが少しずつ輪を広げていけば、大きな流れができそうです。QURUWAが目指しているまちづくり、人の流れともリンクしています。
磯貝さんも、QURUWAと関わる仕事を通して、岡崎への想いが深まっているようです。
「都会過ぎず、田舎過ぎず、古いものと新しいものが共存するのが岡崎のよさだと感じています。そこで暮らしをカッコよく楽しんでいこうと、コトを起こしている人がたくさんいます。
osotoでの仕事は、そのコトや人の力になれている感覚があって、私たちも一緒に街を作っている感覚があるんです。働くことで豊かになるというのは、こういうことなんだなぁと気付きました」
それぞれに存在していたものが、QURUWAのさまざまなプロジェクトとosotoという場で出合う。ここで関係が生まれ、足元にあった資源や、それぞれの価値を知るのです。ひとりの消費者は、やがて何かを生み出す小さな作り手となり、さらに彼ら同士が出会い、つながり、循環することで、生き生きとしたまちになっていくのでしょう。
「どこか遊びに行くなら岡崎へ!」と、市外の友人をQURUWAのイベントに誘うこともあるという磯貝さん。岡崎で芽吹きはじめた楽しいコトの種は、岡崎の外へもシェアされているようです。
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