Local activities in Yokohama 02地域のとりくみ「横浜」02:ウェルキャブの認知度を上げ、すべての人に移動する自由と楽しさを
Text:PONCHO
Photo:Higuchi Yuichiro、ウエインズトヨタ神奈川

身体を思うように動かせない方に移動する自由を提供するトヨタの福祉車両「ウェルキャブ」。ウェルキャブを必要とするお客さまにコンサルテーションを行なっているショールーム「トヨタハートフルプラザ横浜」で、ウェルキャブとはどんなクルマなのか?その役割や期待を教えてもらいました。
意外と知られていないウェルキャブの今

トヨタが手掛ける福祉車両「ウェルキャブ」。障がいを持った方々に移動の自由を提供するクルマのラインアップ、車種と仕様・タイプは、国内自動車メーカーで最多です。そんなトヨタのウェルキャブを展示し、実際に乗車したり、ウェルキャブを必要とするお客さまにコンサルテーションを行っているショールームが、トヨタハートフルプラザ。そして、関東周辺の核となっているのが、この横浜店です。
しかし、ウェルキャブを必要としている障がい者、そして家族やパートナーであっても、それがどのようなクルマなのかを知らなかったり、高価に違いないと思い、利用するイメージを持てない人がまだまだ多いそうです。
前回は、トヨタハートフルプラザ横浜の取り組みを紹介しましたが、今回はウェルキャブとはどんなクルマなのか? ウエインズトヨタ神奈川株式会社の宮石真希子さんに伺いました。
ウェルキャブを必要とする人は増えているが……

「日本において車いすが必要な人の数は397万人に上ると言われています。特に肢体不自由な方の数は増えています。背景は高齢化による介護を必要とされる方の増加、もう一つは日本の医療技術の進歩によって、命をつなぐことができるようになっていることも大きく影響しています。一方で、重度な障がいも残ってしまう場合が多く、車いすの利用ニーズは増えてきているといえます。
しかしながら、彼らが移動に使えるウェルキャブをはじめとした福祉車両の需要は増えていません。
なぜなのか? 短期的に見れば、この3年はコロナの影響が大きく、半導体などの提供要因で、車両そのものの提供ができなかったこと。加えて多重の障がいや病気を抱えていたり、また高齢の利用者も多いので、コロナの感染が命の危機に直結する方が多く、こういったニーズをお持ちの方が展示場を訪れる機会が、激減したからです」
2022年の日本の福祉車両販売台数は、他メーカーも含めて約4万台。トヨタのウェルキャブ販売台数は1万377台でした。
2019年のトヨタのウェルキャブ販売台数は1万5799台なので、コロナ禍の影響は明白です。一方、宮石さんはウェルキャブ自体の認知の低さも大きな理由だと考えています。
「ウェルキャブのような福祉車両が、それを必要とされる方々にも知られていないのが現状です。商業施設の駐車場でも、観光地でも、こういった車両を見たことがない人が大半ではないでしょうか?
自動車会社のCMでも取り扱われることが少なく、最近では某クルマメーカーの新しいCMでほんの一瞬だけ福祉車両が映っていますが、私のような仕事をしている人間でなければ気付かないレベルでしょう。
そこで、私たちは地元のテレビ局・テレビ神奈川さんで、ウェルキャブに特化したCMをつくりました。マスプロモーションをテレビで行い、福祉車両とそれを利用する人がいることを伝えようと考えたんです」
介護が必要になった高齢の方や重い病気になった方は、「人に迷惑を掛けたくない」という思いから、外出することを諦めてしまうことが多いそう。しかしウェルキャブがあれば、家族や大切な人と出掛ける時間を楽しめるようになります。多くの人が、よりよく暮らす社会に一歩近づくことができると宮石さんは語ります。
また、認知以外にも福祉車両の利用を妨げている課題があることを指摘します。
「例えば、関東の都心部の駐車場は狭く、車いすの乗降が困難な場合がほとんです。ウェルキャブを機能させるための広さが足りていません。
車いす用駐車場が備わっている場合でも、台数が限られていたり、マナーの悪い方が駐車してしまっていたりします。予約ができるようになればいいのですが、予約可能な駐車場は、ほぼないのが現状です・・・・・・」

車いす用の駐車場でなければ乗り降りができない人がいる事実を知ってもらい、同じ社会で共に暮らしていることを、今一度意識する必要があります。
そうした点で、トヨタハートフルプラザ横浜のウェルキャブのCMが、多くの人の目に留まり、想いが届くことを期待せずにはいられません。
「自分自身が病気で体が自由にうごかなくなったり、両親を介助することになったりして、福祉車両を利用する側になる可能性は全員にあります。このCMをきっかけにどのような手助けや配慮が必要なのか考えてもらうきっかけになったらうれしいです。」
と宮石さんは、未来を見つめます。
ひとりひとりに最適化するウェルキャブのさまざま

トヨタハートフルプラザ横浜の取材時には、トヨタのウェルキャブのうち7台が展示されていました。
それらを機能別に分けると、車いすのまま乗り降りするタイプ、シートの乗り降りをサポートするタイプ、ご自身での運転をサポートするタイプがありました。車種はシエンタ、ノア、ヴォクシーが並びます。
この時の展示車にはありませんでしたが、車内に車いすやストレッチャーを持ち上げるリフトを装備したハイエースや、都市部や日本の道路事情でも運転しやすいコンパクトなルーミー・ヤリスもラインナップされているそうです。

「車いすのまま乗り降りするタイプには、車高を下げて車内からスロープを出し、介助する方が車いすを操作して乗降するものがあります。通常モデルのスロープは約1.375mの長さがあり、角度もなだらかなので介助者の方は大変楽に乗降を支援できます。
反面、車いす分も含めると2メートル程のスペースが必要となり、狭い駐車場では乗降スペースを取れないことがあるんです」


「そこで狭い駐車場でも使えるようにショートタイプのスロープも用意しています。バックドアを開けると同時に車高が降下し、ショートスロープが展開。スロープが短いので、狭い駐車場でも乗降が可能です。
ですが、スロープが段差式になるため、介助する方の力がないと乗降が難しいこともあります。介助者が操作に慣れていない場合には不向きですが、車いすの操作を無理なく行える筋力がある方が介助者であれば、都市部の住宅事情に合わせた便利なウェルキャブといえますね」

先に紹介したウエインズトヨタ神奈川のウェルキャブのテレビCMのように、身体がうまく動かせない方自身が運転することをサポートするクルマもある。例えば、車いすから運転席に乗り込みやすいように座席横に小さなシートが備わり(写真右)、運転席後ろの後部座席には、畳んだ車いすを収納するクレーン装置も取り付けられています。
また専用のパワーステアリングを装備し、運転補助装置(写真左)を架装して、身体の可動域に合わせて運転をしやすくすることもできるそう。筋力が低下した高齢の方にもこういった機能があれば安全に自分で移動する自由を手に入れることができるのです。
これらウェルキャブは、さまざまな装置を取り付ける必要があるため高価だろうと想像しがちです。しかし、車種・仕様によっては消費税が非課税になるものや、各市町村の役所や役場によっては改造費の助成金制度などが行われている場合もあり、通常の新車とそう変わらない価格で手にすることができるそうです。トヨタハートフルプラザ横浜では、そうした税金や助成金の相談にも真摯に対応し、必要な人にウェルキャブが届くようにサポートをしています。
移動する自由を諦めないで

障がいを負っても、高齢になっても、諦めずに前向きに人生を楽しむことができるようになる。そのきっかけとして、ウェルキャブが果たす役割は大きいと、前回、そして今回と話を聞いて、強く感じます。
「今年つくったウェルキャブのCMに出ていただいた方は、一般社団法人 日本障害者カヌー協会 普及委員会 副委員長もされている方です。下半身不随で車いす生活をされているのですが、この方のように、好きなことを諦めずに済むように、トヨタハートフルプラザ横浜はできる限り応援をしていきたいと思っています。
そして、少しずつでもウェルキャブのような福祉車両が、特別な乗り物ではなく、多くの人が想像できる、街の風景のなかに当たり前に溶け込んだものになるように、これからも活動を継続していきます」
「すべての人に移動する自由と楽しさを」
トヨタハートフルプラザ横浜が掲げるキャッチコピーだそうです。
取材を通して、たとえ今は身近にウェルキャブを必要とする人がいなくても、いつか関わることになることを想像し、今日からできることは何なのか、考える機会になりました。
トヨタの福祉(ふくし)車両「ウェルキャブ」の詳細はこちらから
https://toyota.jp/welcab/carlineup/function/
トヨタハートフルプラザ横浜
住所:神奈川県横浜市中区山下町33 ウエインズビル 2F
営業時間:10:00~18:00
定休日:不定休
電話番号:045-555-8412
FAX:045-662-9681
https://www.weins-toyota-kanagawa.co.jp/shop/heartfulplaza-yokohama
「トヨタハートフルプラザ横浜」の取り組みはこちらからも。
●地域のとりくみ「横浜」01:ウェルキャブの認知度を上げ、すべての人に移動する自由と楽しさを
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