全国で3,000以上もの温泉地がある温泉王国、日本。
その中から、クルマでなければ行きづらい名湯・秘湯をご紹介します。

2016年7月記
クルマで行く名湯・秘湯【第5回】 北海道ニセコ温泉郷

北海道の雄大な自然に抱かれて

文・山崎まゆみ(温泉エッセイスト)

北海道のニセコ温泉郷は活火山からの直接的な熱源による温泉ではなく、地熱によって地下水が温められた非火山性の温泉です。しかしながら、湯にバリエーションがあり、湯そのものに力を感じます。

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北海道のニセコ温泉郷は活火山からの直接的な熱源による温泉ではなく、地熱によって地下水が温められた非火山性の温泉です。しかしながら、湯にバリエーションがあり、湯そのものに力を感じます。

テレビ番組で芥川賞作家の羽田圭介さんをニセコに案内したことがあります。羽田さんは旅の最後に、「日頃都会で感じている、都会で囚われている自分の価値観がわりと世間の中で作られたものでしかなくて、その価値観を果たして大切にしていく必要があるのかと思ったりとか。何を大切に思って、何を優先させるかということをすごく考えましたね」という言葉を残されました。

新鮮な湯に浸かると、放心状態になる。そして気づいた時には、常識とか、一般概念とか、そんなものがとっぱらわれてしまう。文字通り、裸の自分と向き合うことができるのです。

緑色に輝く「昆布の湯」

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“昆布温泉”の名は、その昔、昆布漁をした漁師が通った道に湧く温泉に由来するものであり、昆布の色をしているわけではありません。実際、湯は緑色に輝いています。珪素が光合成をして緑色になるという説から、太陽の光で緑色に変色するため……と諸説ありますが、温泉の摩訶不思議としてそのファジーさも愉しんでくださいね。

昆布温泉があるニセコグランドホテルには混浴露天風呂があります。男女別の脱衣所に入り、それぞれの内風呂で体を洗い、きれいにした状態で露天風呂に出るという造りです。湯あみ着(体を隠せる浴衣)の用意もあります。湯に浸かると首から下は見えなくなるほどの濁り湯ですから、混浴と言っても女性も抵抗なく入ることができます。「老いも若きも男も女も、外国人もみんな仲良く」……そんな平和な風景が広がる露天風呂です。

ニセコグランドホテル

晴天の「ニセコ五色温泉」から望む山々の雄姿

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ニセコ五色温泉は時に白っぽく、時に青白く、あるいは薄墨色に……と、光が温泉に差し込む状況によって湯の色が刻々と変化します。さらに五色温泉旅館にある“からまつの湯”の露天風呂からは、ニセコアンヌプリとイワオヌプリの眺望が見事です。昨年訪ねた際には晴天に恵まれ、この山々を眺めながらの入浴に晴れ晴れとした気持ちになりました。

ニセコ温泉郷の歴史を語る「鯉川温泉」

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“開湯115年、ニセコで最も古い老舗の宿であり、北海民の湯治場として親しまれてきたのが鯉川温泉旅館です。1泊の宿泊料金もお手頃で、温泉好きに人気の素朴な宿です。

湯はぬるめ。じっくりと湯に浸かると、ほかほかと体が温まっていくのがよくわかります。また、原生林に囲まれた露天風呂は、夏に入ると眩い木々の緑と湯の色が相乗効果をもたらし、目にも優しい温泉です。

創業103年、由緒ある新見温泉は残念ながらこの3月に幕を下ろしました。白樺や針葉樹の原生林にぽつんとある、まさに秘湯。自然湧出で毎分300リットルという豊富な湯量を誇り、こんこんと湯が湧く様子を見ていると、温泉が地球からの恵みであるということを改めて感じ入ることができるのです。湯を味わうには、これほどいいロケーションはありませんから、再開を心待ちにしています。

ニセコ五色温泉旅館

鯉川温泉旅館

コラム原稿は2016年7月現在の情報を元に執筆しています。

やまざき まゆみ◎1970年新潟県生まれ。駒澤大学文学部卒業。世界31カ国1,000カ所以上の温泉を訪ねる一方、日本の温泉の魅力を世界に発信している。近著に『バリアフリー温泉で家族旅行』がある。