Harmony 2018年9/10月号
開発者に聞く

CROWN
秋山 晃
製品企画 チーフエンジニア

文・小沢コージ 写真・小松士郎

「15代将軍、徳川慶喜になるな」のプレッシャー

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小沢:発売前の段階で受注約1万8000台。相変わらずの人気に驚きましたが、15代目になっても変わらぬ「クラウン」の強さってなんでしょう。

秋山:お客さまとの強い絆だと思います。長きにわたって、販売店が築いてくれた信頼関係ですね。「クラウン」はいつ、誰が乗っても間違いのないクルマであるとか、品質が高いとか、つねにきちんとしたサービスが受けられるとか、そういう実績を地道に積み上げてくれた結果だと思います。

小沢:14代目モデルは結局、何台売れたんですか?

秋山:"ロイヤル"と"アスリート"で19万4000台、"マジェスタ"が1万8000台で、合計21万2000台です。

小沢:それは凄い。「クラウン」しか見ていないお客さまがまだ21万人もいるんだ!

秋山:ありがたいお話です。とはいえ、12代目の「ゼロ・クラウン」の当時は、保有台数が60万台弱でしたが、今はその6割程度です。

小沢:まあ、コップ半分の水を「少ない」と取るか「多い」と取るか、そこは判断が難しいですよね。

秋山:正直言って危機感はあります。実際、経営陣に「江戸幕府最後の将軍、15代徳川慶喜になるな」と発破をかけられました(笑)。

小沢:「クラウン」も徳川将軍家のように15代目で消えるなよ、と。それってもの凄いプレッシャーじゃないですか!

秋山:ええ、ただ私自身、本当に崖っぷちだと痛感しています。私は13代目から開発に携わっていますが、14代目でかなりチャレンジしたつもりでした。あれだけデザインを大胆に変え、ボディカラーもピンクやグリーンなど、それまでの「クラウン」ではあり得なかった方向転換をしましたからね。

小沢:えっ、あの色やアグレッシブな稲妻グリルがウケなかったと?

秋山:ウケました。ただし、"ロイヤル"のお客さまもアグレッシブな"アスリート"に流れてしまい、14代目の購入平均年齢が5歳以上高くなるという……。

小沢:若返りさせるつもりが逆に歳とっちゃった。

秋山:ええ、凄いショックでした。今回の15代目開発に着手する際、あとは一体何をやればいいのかと真剣に悩んで、正月に伊豆の貸別荘に籠ってスケッチを描いたり、悶々とした末に、酒井田柿右衛門さんに会いにいきました。

小沢:どなたですか、それは。

秋山:有田焼の陶芸家です。先代が人間国宝で、「クラウン」同様、15代目を襲名なさったばかりでした。

小沢:ほう、面白いですね。で、どうでした?

秋山:ふっきれました。伝統で守るべきものはカタチでも何でもなく「精神」だと。「技術はまわりの職人さんがしっかり受け継いでくれるから、私は安心して自分の"色"を出すことに集中するだけです」とおっしゃって。考えてみれば「クラウン」も同じなんです。設計でも実験でも、過去に「クラウン」を担当したエンジニアが多くいて、職人は揃っている。

小沢:そして、技術は自動的に伝承される。

秋山:ええ。あとは本当に自分の好きなようにやればいい。だから、私が欲しくなるような「クラウン」作りに集中しました。

秋山 晃

秋山 晃(あきやま あきら)

山口県出身。1986年にトヨタ自動車入社。まず実験部に配属され10年以上新型車のテスト走行に没頭する。その後、先行車両企画部を経て、2007年に当時の「クラウン」チーフエンジニアである寺師茂樹氏の誘いで製品企画部へ。以来、「クラウン」開発ひと筋。13〜14代目は主査、15代目でチーフエンジニア就任。愛車は14代目「クラウン」ハイブリッド“アスリート”。

目線の安定を確保。ニュルで走りを追求

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小沢:その結果、今回の開発テーマ「世界と戦える『クラウン』」が生まれたんですか?

秋山:ええ。そしてそれは、トヨタ自動車創業者の豊田喜一郎の思いでもあります。日本人が作るクルマで世界を驚かせたい。15代目は世界がびっくりするぐらいのクルマにしないと、若い人は買ってくれない。そう思ったんです。

小沢:その結果の新プラットフォーム、TNGA導入なんですか?

秋山:そこは初めから決まっていました。今回は足し算開発をしていて、「プリウス」「カローラ」で鍛えたCセグメント用TNGA、「カムリ」で鍛えたDセグメント用TNGA、それぞれで培ったノウハウがちゃんと入っています。組織的にもカンパニー制が導入されて、企画から製造まで一貫していいクルマ作りに没頭できるようになりましたしね。

小沢:一昨年に導入されたカンパニー制も幸いしたと。

秋山:ええ、難しいプレス技術を導入できたり、いろんな要素がうまく回り始めていると思います。

小沢:なるほど、それがあの走りを生んだわけですね。さっきテストコースで乗りましたが、ステアリングを切った瞬間にもう、目が覚めるって感じ!

秋山:違うでしょ!「クラウン」の世界観がふたたび変わったなって感じがしますでしょ?
じつは、プラットフォームに何も手を入れてない段階で試作車に乗って、その瞬間「ニュルに行こう」と決めたんですよ。

小沢:ニュルってドイツのニュルブルクリンクですよね。でも、「クラウン」って国内専売ですよね?お客さまには直接関係ないような気もしますが。

秋山:いいんです。今までの環境を抜け出して、実際のアウェイで彼らと戦いたかった。

小沢:僕もびっくりしました。突如「クラウン」が英語を喋り出したような衝撃(笑)。クルマ作りの視点がずいぶん変わったなと思ったんです。ステアリングはもちろん、ブレーキタッチも凄く自然になったし、パワートレインも、2・5Lハイブリッドを始め、2Lターボも3・5Lハイブリッドもトルク感があって凄くパワフル。

秋山:まず、テストコースをベンチマークするドイツ車で徹底的に走ったんです。そして新しい「クラウン」にどういう乗り味を付けようかと熟考しました。

小沢:どんな乗り味を目指したんですか?

秋山:最初に決めたのは目線です。意識したドイツ車は走行中、結構目線が動くんですね。あれはあれで一体感があるんですが、日本人には疲れる。

小沢:ドイツ人はあまり気にしてないところかもしれませんね。

秋山:そうだと思います。だから乗り比べると本当に疲れませんよ。特にリア席は、全然酔わない。

小沢:そこはドイツに勝った?

秋山:勝ち負けというより乗り味の違いです。ただ、ステアリングに対する車両の反応や、目線を動かさないフラット感では勝っていると思います。ダブルレーンチェンジした時の揺れの収束も早い。

小沢:ちなみに時速200キロでも……?

秋山:ちゃんと走ります(笑)。

カテゴリー区分を廃止。唯一無二の「クラウン」へ

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小沢:デザインもずいぶん変わりましたよね。フロントがオーセンティックに立体的になったのはすぐわかりますが、よく見るとリアやサイドビューが全然違う。昔の箱っぽい天守閣デザインじゃない!

秋山:プロポーションは今までラゲージ・ファースト、つまり室内を広く取るのを最優先としていたのをやめ、フロントタイヤを前に出した躍動的なスタイルにし、同時にリアをギュッと絞りました。

小沢:ホント、後ろから見ると「クラウン」に見えないです。

秋山:フロントは甘いルックスにしたいと思って、本格的かつエレガントにしました。女性のお客さまにも喜んでいただけるように。

小沢:走り、スタイリングともに本気でドイツ車対抗ってわけですけど、実際のお客さまは直接比べないという話ですよね。

秋山:それが、東京モーターショーの時に調べたんですが、根っからのドイツ車ファンには振り向いていただけませんでしたが、エンブレムに惹かれている方々には、興味を示していただけることがわかったんです。

小沢:ドイツ車ユーザーを奪うチャンスはあると?

秋山:ええ、そう考えています。

小沢:これまでの「クラウン」オーナーのみなさまがとまどうことになるかもしれませんが……。

秋山:いえ、それはないかと思います。現行の「クラウン」を愛してくださっているお客さまは精神的に若いので、新しいデザインでも問題ないはずです。

小沢:つまり、既存のお客さまに加え、新規の購入者の両取りが期待できる。

秋山:そうです。だからこそ今回"マジェスタ"や"アスリート"の区分けを廃止し、唯一の「クラウン」で勝負することにしたんです。

小沢:いやあ、つくづく楽しみです。15代目「クラウン」の評価が。

CROWN

端正なロングノーズが印象的な流麗なるフロント、引き締まったボディ。15代目はスポーティセダンとして、さらなる進化を遂げた。

小沢コージ

おざわ こーじ

バラエティ自動車ジャーナリスト。1966年神奈川県横浜市生まれ。「NAVI」編集部を経て、フリーに。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。著書に『ドライブ上達読本』『クルマ界のすごい12人』など多数。TBSラジオ「週刊自動車批評 小沢コージのCARグルメ」出演中。

詳しい情報・お問い合わせはtoyota.jpへ

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