Harmony 2019年1/2月号
開発者に聞く

CENTURY
田部正人
製品企画 主査

文・小沢コージ 写真・小松士郎

日本が生んだ日本人のための至高のショーファーカー

「クラウン」を超えるトヨタの最高級ショーファーカーが21年ぶりにフルモデルチェンジを果たした。匠の技を極めたほぼ手作りで、月販目標台数は50。「『センチュリー』こそ輸出すべき」の声も多いが、頑として国内専用にこだわる理由は何なのか。

「こんなに素晴らしいショーファーカーを輸出しないのはなぜ?」

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小沢:(「センチュリー」の説明会を終えて)いやあ、面白かったですね、先ほどのプレゼンテーション。外国人記者の方もいて、彼らは盛んに「『センチュリー』はいつ海外で出すのか」「なぜ国内だけなのか」と、同じ質問を繰り返す。一方、田部さんは「日本専用車ですから」「今のところ海外で販売する予定はありません」の一点張り。お互いの見解がすれ違うことすらないという(笑)。

田部:海外の方々に評価していただくのは大変嬉しいのですが、現在、国外で販売する予定は本当にありませんので。

小沢:でも、あのツルッとモダンに一体化したフロントマスクといい、ハイブリッド化したパワートレインといい、十分にグローバルになった気がしましたが。僕自身、前回の東京モーターショーで見た時に、「もしや、ついに海外進出か!?」と思ったくらいです。「ロールスロイス」や「ベントレー」と並べてもひけをとらない、ノーブルな高級感があります。

田部:ありがとうございます。ただ、海外に出すとなると当然左ハンドル車を作らなければいけないし、インストルメントパネル(以下インパネ)回りも全部変えなきゃいけない。すべての国の衝突安全基準や排ガス基準にも適合させなければいけないですしね。

小沢:たしかに手間がかかるし、販売台数が見込めなきゃだめなのもわかります。でもきっと本質的な問題として、海外を意識した途端に、もの作りの方向性が変わってしまうことが挙げられるかと。アジア市場を考えると、真っ赤な本革シートに龍の刺繍も必要になるかもしれない(笑)。そうするともう「センチュリー」とは呼べなくなる。

田部:海外の方々は“ビジネス”として「センチュリー」を見ていらっしゃる。ビジネスとして成り立ついいクルマを作ったのだから、たくさん売ってどんどん利益を上げればいいじゃないかと。
しかし、このクルマは少し違います。社会貢献とまでは言いませんが、未だ大企業のトップの方々に愛着をもっていただいています。2006年に先代の「レクサス LS」、ハイブリッド・ロング(hL)が出て、「センチュリー」から「LS」へとかなりの台数が流れた時も、お客さまの声を聞くと「やっぱり『センチュリー』が最高級車ですよね」と言ってくださる。

小沢:月販目標台数だけを見ても、利益度外視というか、明らかに販売台数云々のレベルではない。

田部:全く考えていないわけではありませんが、大いに儲けようとしていないことは言えます(笑)。

田部正人

田部正人(たなべ まさと)

1983年トヨタ自動車入社。シャシー設計部、生技部門を経て、95年に製品企画部門へ異動。第1開発センターZK主幹として初代及び2代目「ハリアー」、初代「クルーガー」を担当。2003年には第1トヨタセンターZS主幹として2代目「センチュリー」と初代「センチュリー ロイヤル」開発に携わる。12年より3代目「センチュリー」開発に着手、現在、MS Company MS製品企画ZS主査。

後席の「お手ふり」をいかに美しく見せるか

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小沢:日本のクルマ文化を背負っている気もしますね。

田部:「センチュリー」は、初代が30年間、2代目が20年間生産されました。今回のモデルチェンジでも、「大きなところを変えちゃだめだ」という結論に至りました。皇室がご使用になることも当然考慮していますし、天皇皇后両陛下が乗られる御料車と隊列で走ることも想定して作っています。

小沢:たしかに、たまに宮様が後席に乗っているシーンをテレビなどで見かけます。

田部:「お手ふり」ですね。後部座席の方々のお手ふりがいかにきれいに見えるかは大切な要素です。

小沢:おお、そこまで考えているんですか。

田部:ええ、もちろん。ポイントは後ろの窓のサイズと形と位置関係です。上に行き過ぎたらお手を高く上げていただかなければいけなくなるし、下過ぎると逆にお姿が見え過ぎてしまう。適値というのがあるんです。

小沢:「センチュリー」ならではの配慮だ。

田部:あとは先代からの踏襲ですが、窓枠を太いアルミプレートにしています。これもやはり、後部座席の方が美しく見えることを考えています。

小沢:額縁としての窓枠ですね。

田部:また、ドアのインサイドハンドルは亜鉛の無垢材です。触っていただくとわかりますが、冷たくてどっしりとしています。

小沢:さすがは“後席専用車”。

田部:たとえばVIPがクルマから降りた瞬間を写真に撮るとします。その際、ドアに映り込む姿が歪んではまずいので、デザイナーはドアやボデーにフィルムを貼って何度も反射を確かめています。

たとえるならば茶室に感じる安らぎを追求したクルマです

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小沢:となると当然、塗装も相当こだわっていますよね。

田部:はい、執拗に手間ひまかけています(笑)。「レクサス」でも5層コートで了とするところを7層コートにしていますし、塗装工程だけで1台ほぼ40時間かけています。1工程1時間半かかる水研ぎも、「レクサス」が1回のところを3回やっていますし、約1週間は塗装ブースにありますね。

小沢:なるほど、それでは乗り心地は言わずもがなで……。

田部:プラットフォームはあえて旧型「レクサス LS」のものを使っていますが、本来四輪駆動だったのを二輪駆動にしています。

小沢:なぜですか?

田部:ひとつは乗り心地の問題で、四駆のままだと「センチュリー」に求められる乗り心地が確保できないのです。そこでフロントサスペンションに別体のエアチャンバーを取り付けることにしたのですが、スペースがなかったので四駆を二輪駆動にしました。

小沢:「レクサス LS」の乗り心地でも満足できない!?結果的にどこがどう変わったんですか。

田部:一番気にしたのは後部座席における目線の動きです。旧型は足回りが少し柔らか過ぎて道が荒れると揺れたので。弊社のトップからも「『センチュリー』は、後部座席で新聞が読めないとだめだ」とか「メールが打てないとだめだ」などと言われていました。

小沢:「センチュリー」ともなると、そこは大事でしょうね。

田部:今回、ハイブリッド化したこともあって、静粛性では間違いなく日本一だと思います。それからトルクの出し方にしても、EV走行からハイブリッド走行へ切り替わった瞬間や、エンジンがかかった瞬間が極力わからないよう、滑らかにしています。

小沢:物凄いこだわりの塊だ!そのクオリティと手間ひまで2000万円弱って安くないですか。

田部:車両の価値に見合った値付けとしています。1日2〜3台しか作りませんから。月販目標50台はほぼ生産能力と思っていただいてかまいません。インパネの本杢パネルは、台座の部分を分厚い積層材から15時間かけて削り出しています。

小沢:となると、外国人記者の気持ちもわかりますよね。今やトヨタは世界に年間1000万台以上の自動車を売っている世界トップの企業です。それがこれだけ日本の感性や技術の粋を極めたクルマを作っているのに、世界に出さないわけで、外国人の目には、日本の難解な独自カルチャーの塊だと映っても仕方ない。“走る京都”みたいなテイストで打ち出してもいいんじゃないかとも思うんですが。

田部:まあ、それを頭ごなしに否定するわけではありませんが、価値観が違うような気がします。「センチュリー」はやっぱり“和”であり、ジャパニーズスタイルじゃないですか。静かできめ細かい、言うなれば日本人が茶室に感じるような“安らぎ”を追求したクルマですからね。

小沢:いやあ、つくづく日本って面白いですね。よくも悪くも内にこもりたがる文化傾向がある。

田部:海外からのリクエストが殺到すれば別かもしれませんが(笑)。

小沢:いや、これはこれで贅沢でいいのかもしれません。日本のクルマメーカーが日本人のための日本専用高級車を作る。それは日本の自動車産業に力があり、余裕のある証拠でもありますから。

CENTURY

「すべては後席のVIPのために」――。ゆったりとした膝・足元、そして乗降のしやすさ。左後席にはリフレッシュ機能も付加され、至高の後席が完成した。

小沢コージ

おざわ こーじ

バラエティ自動車ジャーナリスト。1966年神奈川県横浜市生まれ。「NAVI」編集部を経て、フリーに。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。著書に『ドライブ上達読本』『クルマ界のすごい12人』など多数。TBSラジオ「週刊自動車批評 小沢コージのCARグルメ」出演中。

詳しい情報・お問い合わせはtoyota.jpへ

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