Harmony 2019年3/4月号
開発者に聞く

SIENTA
粥川 宏
製品企画 チーフエンジニア

文・小沢コージ 写真・小松士郎

2列シートが大ヒット!「シエンタ」の奥深き世界

2代目発売後、3年目でも販売台数ベスト10の常連だった3列シートのコンパクトミニバン「シエンタ」。昨年9月のマイナーチェンジで2列シート車を導入、ふたたび月販1万台を超え、販売台数ベスト2に入るまでに。“シエンタワールド”の奥深さを検証する。

「使わないものが付いているのはもったいない」心理

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小沢:コンパクトミニバンの「シエンタ」、大快進撃ですねえ。現行の2代目が、まだまだ販売台数のベスト10に入ってくるなぁと思っていたら、昨年9月のマイナーチェンジ後は、月販1万台超えで、なんとトップの「アクア」に次ぐ販売台数2位! 一体どうなっちゃってるんですか?

粥川:じつは2列シート車を追加したんですよ。3列シートの販売も好調ですが、2列シートが想定をかなり超える売れ行きとなりました。

小沢:なるほど、「シエンタ」にはまだまだ先があったってことですよね。でも、3列シート車だって3列目を畳めば、荷室は十分に広くなりますよね。

粥川:ただ、3列あるとミニバンの領域に入っちゃうんですね。すると「うちはミニバンはいいや」というお客さまもおられまして。

小沢:小さくてコンパクトカー並みに使えるのに、3列目に拒否感をもつお客さまもいらっしゃると。

粥川:「使わないものが付いているのはもったいない」と考える方もいらっしゃるので。

小沢:分かるような気がします。

粥川:あとはやっぱり、昨今の車中泊ブームですね。2列シート車は2列目を畳むと荷室の床が完全にフラットになるんです。しかも、荷室全長が2メートル超になり、屋根も高いからマウンテンバイクが2台積めますし、なによりも体を伸ばして眠れます。

小沢:全長2メートルって完全に大人用ベッドサイズですもんね。

粥川:さらに後端のラゲージボードをひっくり返すことで簡単に高さ調整ができます。逆に低くしてラウンジシートとして使うこともできる。床下には収納スペースがあり、新たに荷室の壁にユーティリティホールを設けたので、バーを通せば洗濯物だって干せます。

小沢:おおっ、ビックリするほどいろいろ使えるじゃないですか!

粥川:もともと大人が7人乗れる巨大空間がありますから、3列目を取り払うことでハッチバック以上に荷室スペースが広がります。下手なラージワゴン以上にものを積むことができるんです。

小沢:サーフボードも載りますか?

粥川:はい、載りますよ。

粥川 宏

粥川 宏(かゆかわ ひろし)

1984年入社。ボデー設計部に配属され、鳴りもの入りの初代「セルシオ」開発に携わる。当時学んだことは今もクルマ作りの基礎になっているという。さらに「スープラ」を担当後、東富士研究所でアルミを使った環境対応車の先行開発、愛知万博に出品した「i-unit」などを担当。その後、ボデー開発室長として「カローラ」シリーズを開発し、2006年に「プリウスα」の開発主査、そして「シエンタ」と「ジャパンタクシー」のチーフエンジニアに。血液型AB型。

2列シートなら体を伸ばして車中泊が可能

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小沢:3列から2列になることで使い勝手がずいぶんと変わるんですね。

粥川:同時に客層も変わりました。アクティブなシニアユーザーがかなり増えていて、それもミニバンからの乗り替えではなく、セダンからの買い替えのお客さまが増えています。

小沢:以前は、ミニバンカテゴリーの"小さいほう"という認識でしたが、今は見た目以上に使える"ユーティリティカー"という認識になってきたんですね。

粥川:ミニバンというカテゴリーから飛び出て、新たなトール系であり、スペース系のクルマという認識になりつつあります。

小沢:こう言っちゃなんですが、たかがシートアレンジだけでクルマって生まれ変わるんですねえ。

粥川:じつは現行の「シエンタ」を出した時に、ある年配のご夫婦からご指摘をいただいたんです。「初代の『シエンタ』はフロントシートを倒せばリアと合わせてフラットになったので、そこで仮眠を取ることができた。新型になってそれができなくなったから買い替えできなかった」と。

小沢:そんな需要があったとは!

粥川:そのご夫婦は仕事をリタイアされてからボランティア活動で各地を回られていて、そうそう旅館やホテルには泊まっていられない。クルマで寝泊まりして移動することを考えると、大きなクルマは取り回しがしんどいから「シエンタ」を愛用されていたんですね。

小沢:なんだか身につまされる思いですけど、なぜ初代「シエンタ」はそれができたんですか?

粥川:フロントシートが小さかったんです。だからヘッドレストを取って倒せばフラットにできた。今はシート自体もむち打ち予防対策とかいろいろな性能を上げていかなければならないため、サイズがだんだん大きくなっています。

小沢:避けられない進化ですね。

粥川:私の方でも、新型が発売されて以来ずっと、何とか2列シートにしてしっかり寝られる仕様を作りたいと思ってはいました。

小沢:確かに昔は、フロントシートを倒してフルフラットにできるクルマってありましたもんね。

粥川:今はあまりないですね。しかもここまで広いのはないと思います。

1台ですべて済む機能性と快適な室内空間

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小沢:エクステリアデザインですが、結構印象が変わりましたね。

粥川:全体的に少しグレードアップした感じになっているかと思います。プラスティックっぽい黒地部分をちょっと減らし、ライトなんかも少しシャープに見えるようにデザインを変えました。

小沢:奇抜さを抑えたというか。

粥川:そうですね。インパクトが強かった部分は多少抑えました。

小沢:しかし、正直言って「シエンタ」がここまで日本自動車界の王道に君臨するとは思いませんでした。実際、発売された時は"変化球気味の奇抜なミニバン"というのが率直な感想でした(笑)。

粥川:ええ、多くの方がそうおっしゃいます。

小沢:特に予想外だったのはあのサイズ感。僕は、人や荷物をたくさんのせるなら、もっと大きい5ナンバーミニバンを買えばいいじゃない、と思っていましたから。

粥川:それが! しばらく「シエンタ」を使っていただきますとね、あれくらいのサイズがちょうどよくて、すべてがこの1台で済むことが判明するんです。

小沢:というと、複数台所有している方は少ない?

粥川:ええ、「シエンタ」1台使いの方が非常に多いです。小さなお子さんがいるファミリーにも使っていただいているし、シニア層にもかなりご購入いただいています。

小沢:デビュー当時は、あまりにあのヒゲ面デザインのインパクトが強くて、若者向けのイメージでしたが。

粥川:そこに騙されてはいけません(笑)。もっと広い層に向けて作ったクルマですから。

非常時には"家"に。「3列シート」では伝わらなかったこと

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小沢:2列シート車のアイデアはどこから生まれたんですか。

粥川:もともと、お子さんがおられる若年層のご家庭にも、お孫さんがおられる年配層にも訴求するスタイルを、と考えてはいたんです。3列シート車でも3列目を畳めばすごくユーティリティがあって、ステーションワゴンより広く使える。しかし、そこがなかなか伝わりにくかった。ところが「2列シート」というキーワードにしたとたん、すんなりと伝わる。

小沢:人の思い込みってなかなか変わらないですからね。

粥川:私がかつて担当した「プリウスα」も2列、3列シート車があって、最初は3列をメインに作ったんですが、最終的には2列の方がたくさん売れました(笑)。

小沢:面白いですねえ。あったら便利なはずの3列目が、じつはそんなに必要とされてないという。

粥川:従来通りの5人乗りのクルマでラゲージスペースが広い。しかもシートを倒せばフルフラットで寝られる。いつどこで災害が起こるか分からないこの時代、そういうクルマが、特に年配のお客さまに響くようです。

小沢:今、軽自動車をはじめ背が高いクルマばっかりじゃないですか。もはや、日本のクルマの中心である「カローラ」よりもコッチに来てるんじゃないですか。

粥川:そうかもしれません。ましてや、ひとたびスライドドアの便利さを知ってしまうと、もう戻れない。

小沢:うーむ、つくづく「シエンタ」が、日本のど真ん中大衆車という気がしてきました。

小沢コージ

おざわ こーじ

バラエティ自動車ジャーナリスト。1966年神奈川県横浜市生まれ。「NAVI」編集部を経て、フリーに。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。著書に『ドライブ上達読本』『クルマ界のすごい12人』など多数。TBSラジオ「週刊自動車批評 小沢コージのCARグルメ」出演中。

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